エレクトロニクス工作室
No.210 ストリップライン式BPF
1.はじめに
昔々に読んでいて興味はあったのですが、当時は使い道が無かったという記事があります。ところが年月が過ぎ「あの時の〇×□が使えるかもしれない」と、思い出して探すのは良くあります。このようにして、数十年の時空を超えて試してみたのが今回の写真1のBPFです。作り方を少しずつ変えて3台作ってみました。
その元の記事は電波実験社の「1200MHzマニュアル」です。モービルハム誌の臨時増刊で、1986年5月発行ですので36年前になります。この99ページにJA7RKB十文字さんの「ストリップライン式BPF」という記事があり、これを手本にしてみました。
実は次回に紹介予定の「GPSアンテナ用分配器」の内部に、1575MHzのBPFを使いたかったのです。最終的にはSAWフィルタを購入して使ったのですが、最初に試したのが今回のストリップライン式BPFでした。現在使っているスペアナが1500MHzまでしか測れないためで、このBPFが使えなかったという事ではありません。写真2のように、分配する前に入れている実験の様子が分ります。昔々に面白いと思ったのは今も変わりません。この実験基板から取り外し、別の基板に移しておくことにしました。そして、他の作り方も試してみました。
私としては1200MHzのような製作は行っていませんが、このような簡単な工作で作れるBPFは面白いと思います。チップ部品もマイクロ波用の特殊な部品も使いません。これは十文字さんの工夫の結果なのでしょう。
2.その1
元の記事は1200MHzですので、これを1575MHz用にするためにストリップラインを少しだけ短くしてみました。図1のような回路で試作を行い、写真3のようになりました。ストリップラインの長さはオリジナルでは18mmでしたが、15mmにしています。この他にアースまでの距離が2mm程度プラスされます。幅については5mmとなっていましたが、実測すると6mmになっていました。0.5pFは手持ちに無かったため1pFを2個シリースにしました。このような微小コンデンサは、チップの方が入手しやすいようです。チップでも少し工夫すれば付けられると思います。
実は、このBPFの動作が私には良く解りません。恐らく、ラインの距離と2pFのトリマーで共振させ、高インピーダンスの位置で小容量のコンデンサで次段に接続しているのでしょう。
2pFのトリマー2個を交互に回して周波数を調整し、一番低い周波数に調整したのが測定結果1になります。使っているRIGOLのTG付きスペアナが1500MHzまでのため、これでピークとして見られる程度に高く合わせたのが測定結果2になります。500~1500MHzの幅で測定しています。一応881~1438MHzの調整範囲となりましたが、もう少し高い周波数まで調整できそうです。高い周波数ではピークが割れ始めそうですので、結合コンデンサは0.5pFより小さくする方が良さそうです。
3.その2
最初に上手くできましたので、次にもう少し手抜きができないかを試しました。ほぼ行き当たりばったりという乱暴な作り方ですが、片面ベーク基板のベーク面に銅のテープをカッターで切って貼り付けてみました。基板のサイズに合わせたため、ストリップラインの長さは27mmと少々長くなりました。幅は5mmです。入出力は写真4のようにSMAコネクタを使用しました。これは秋月電子で1個30円の格安品です。裏側のハンダ面で、銅のテープやトリマー、SMAのアース側は写真5のようにハンダ付けしています。入出力の位置は、十文字さんの記事ではストリップラインのアース側より5mmでしたが、SMAコネクタのサイズの都合もあって10mmとなっています。試してみると、あまりシビアではないようです。
始めは「その1」と同じ値のトリマーと結合コンデンサを使っていました。しかし測定してみたところバランスが悪かったため値を変更し、図2のような回路となりました。外した2pFのトリマーをそのまま結合用に転用したのですが、これでは高い周波数で値が大き過ぎるようです。1000MHz以下では2pFのトリマーで良さそうです。
低い周波数に調整したところが測定結果3で、高い周波数で調整したところが測定結果4になります。周波数が低くなったので、0~1500MHzの範囲で測定しています。545~935MHzが調整範囲となりました。アマチュアバンドから外れますが、もう少しストリップラインを長めに作れば430MHzにも合わせられそうです。
4.その3
次に、5D2Vの心線を使ってみたのが写真6です。実は作り方としては、これが一番簡単で楽でした。長さはアースまでのカーブも入れて21mmとしています。トリマーコンデンサは2pFで、結合コンデンサは1pFが2個シリースの0.5pFとしています。「その1」と同じ値とし、図3の回路になりました。
最初に低い周波数に調整したところが測定結果5で、高い周波数で調整したところが測定結果6になります。500~1500MHzの範囲で測定しています。測定結果6では結合のコンデンサが大き過ぎるように見えます。これが限界で、これ以上に周波数を高くするとピークが2つになって、特性が乱れました。876~1160MHzの幅になりましたが、0.5pFを小さくすればもう少し上げられそうです。
特に目的となる周波数はありませんでしたので、これ以上の追求はしていません。トリマーコンデンサと結合コンデンサの値を変更すれば、更に広く合わせられるでしょう。1200MHzも合わせられそうです。
5.使用感
調整方法については、少し慣れれば簡単にベストに合わせられそうです。どれでもコンデンサを調整すれば1200MHzに合わせられたと思います。但し、TG付きのスペアナがないと少し難しいかもしれません。3タイプを試してみましたが、特段の相違は感じませんでした。確かに少々コツが必要かもしれませんが、簡単にUHFのBPFを作る事ができました。このようなBPFをスペアナが使い難い時代に考え、実験をされた十文字さんの知恵に感服します。
数十年前に実験していたのであれば、恐らくスペアナの自作に使っていた事と思います。こんなBPFが作れるのであれば、様々な高周波の実験に使う事ができます。
ちなみに「GPSアンテナ用分配器」にはSAWフィルタを使いましたが、性能の問題ではなく1575MHzでの特性が測定できなかったためです。悩ましかったのですが、やはり測定して確認できないのは問題に思えました。それ以外には、他のチップ部品との接続が難点という事もあります。
それほど鋭いフィルタではありませんが、簡単な構造で自在に周波数が変えられるのは便利です。まあ、使用感にはなりませんが、作って楽しく測って楽しければ良いかと思います。目標の周波数が無くなってしまったので中途半端な紹介になりましたが、これで引き出しが増えました。何かの時に応用できれば充分です。