1.はじめに

 このキットは、「おじさん工房」のキットです。写真1のような測定器で、パソコンに接続する事によりソフトでスペクトラムアナライザ、ネットワークアナライザ、ロジックアナライザ、シグナルジェネレータ等を切り替えるという、多目的な測定器です。周波数範囲は0〜30MHzとなっており、正直なところもう少し高いと更に良いのですが、全くの優れものです。キットの頒布状況については、上記WEBからメールで問い合わせてみて下さい。

 詳しくは「おじさん工房」のHPを見て頂く方が良いので、ユーザーの立場として作って使った感想などを中心に述べてみたいと思います。そして、次回は測定方法について紹介します。

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写真1. このようにまとめたAPB-1です。背景のキタナイところは見ないで下さい。

2.APB-1について

 WEBで申し込んで送金すると、すぐに写真2のようなキットが送られてきました。ケースだけ別の完全基板キットです。素晴らしい出来の基板ですし、これで2万円なら安いと思います。ただ、CR類はチップですし、ICもDIPなどの巨大なものではなく、写真3のような0.5mm間隔のQFPを使っています。これら全てを手作業でハンダ付けしますので、とても初心者向きのキットではありません。少々目に自信の無くなっている私としては思わず引いてしまいそうですが、面白そうですのでとにかくチャレンジしてみる事にしました。

 なお、制御と表示にはUSBの付いたパソコンを使用します。また、取説やソフトをWEBからダウンロードしますので、それなりのインターネット環境も必要になります。

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写真2. 基板と各部品が袋に小分けされて送られて着ました。

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写真3. このようなICを手作業でハンダ付けします。

3.製作

 どのようにまとめるのかを考えながら、基板を作って動作の確認をする事としました。写真4が製作前の基板です。まず、ロジックアナライザはほとんど使わない事、BNCコネクタを使ったスペクトラムアナライザとネットワークアナライザが中心となる事、これは私の趣味によります。と言っても、絶対に使わないという事ではありませんので、基板上には取り付ける事として進めました。アマチュア無線関係から作成する場合は、大体似たようなところかと思います。

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写真4. 部品を取り付ける前の基板です。

 キットに入っているBNCコネクタは、基板だけで動かす時には便利ですが、あまり高周波的に良さそうには思えません。別のコネクタを付けた方が、シールドする手間等を考えた場合にはスマートですし、ケースのレイアウト的にも制約が少なくなります。高周波的にも良いはずです。また、入出力にはアッテネータがあった方が、使いやすいかもしれません。このあたりを考えながら基板を作成し始めました。

 ステップ1は「チップ部品とUSBコネクタ」で、ほとんどCR類のハンダ付けです。数も多いため、チェックシートをパスする等の手抜きは全く通用しません。部品表と実装図、図面も比べながら、一個ずつチェックしながら神経を使って取り付けて行きました。これが一番の重労働になります。チップ部品の山を処理しますので、一日で終わるような作業ではありません。時間をかけてじっくりと進めます。写真5はこのあたりまで終わった基板です。

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写真5. ステップ1を終わったあたりの基板の様子です。

 ステップ2は「レギュレータIC」で、ここから個別のICを取り付けて行きます。レギュレータのICを取り付けての電圧チェックですので、簡単にパスできると思います。重労働というより頭脳労働になってきます。

 ステップ3は「AT91SAM7S321」で、ここからは本格的なICの取り付けとチェックが始まります。ICの半田付けも大変ですが、ICにソフトを書き込む手順で結構つまずくようです。パソコンの環境的には特別なものは不要で、普通にUSBの付いたものがあれば大丈夫です。私の場合、APB-1ブートローダーの書き込みでつまずきました。ソフトをそのまま立ち上げたのですが、うまく行きません。どうもUSB機器としての認識が完全にできていなかったようです。理由は良く解りませんが、パソコンを変えてから動くようになりました。

 ステップ4は「XC3S250E」でFPGAの部分です。ここが一番の難関のようで、「おじさん工房」の掲示板を見ても、ここでつまずくケースが多いように思われます。ソフトがらみであったり、ハードがらみであったりです。大抵は良く解らないままに対処が始まります。私もここで3日間ストップし、ステップ3との間を何回も往復していまいました。結局は何が悪かったのかはハッキリしません。

 ステップ5は「SN74LVC245」で、ロジックアナライザの配線です。前のステップさえ正しく通過していれば、難しくはありません。私の場合にはひとつのCHがLレベルに固定されたままになってしまいました。FPGAとの間での地絡ですが、半田不良かICの不良かは解りません。ハンダ付けを何回やり直しても同じです。ロジックアナライザを使う事は少ないだろうと思い、そのまま進める事にしました。

 ステップ6は「ADC12L080」で、いよいよスペアナの入力です。トリファイラのコイルを巻きますが、手持ちの赤白緑の3色のワイヤーを使いました。これは同じ線径で3色というのは入手し難いので、普通はマニュアルの通りマジックで色を塗って印をつけます。ここまで来ると、0.8mm間隔のICの半田付けでは何の苦にもならない程度に思える事でしょう。私はそうでした。

 ステップ7は「DAC900E」で、SG等の信号の出力です。ここも問題にはならないでしょう。とは言え、実はここでトラブルがありました。出力が全く出なかったのですが、ICの半田付けをやり直すと動き出しました。見えないところでのハンダブリッジか接触不良があったのでしょう。

 ステップ8は「PCM1754」で、AFの出力です。ここはさっと終わりました。

 ステップ9は「コネクタ」の取り付けです。さて、ここでどのようにまとめるのかを決めなくてはなりません。なお、マイクロSD用のICとソケットやタクトスイッチ等など、余る部品が多少あります。恐らく、今後WEB上で何らかのアナウンスがあるのかと思います。

 基板に付着したハンダのヤニの清掃について、車の水抜き剤が紹介されていました。今まで使った事が無かったのですが、初めて買いました。綿棒に付けてこすると、面白いようにヤニが取れ基板が綺麗になります。これは仕上げには行っておくべき作業でしょう。残った液は(ほとんど残るのですが)火気厳禁で保管が面倒なので、車に飲ませてしまいました。

 このようにステップに分かれていて、その都度チェックを行います。この位の規模になりますと当然といえば当然の手法なのですが、キットにおいてここまで実行するのは並大抵の事ではありません。

4.アッテネータについて

 取りあえずいろいろと試してみる事としました。写真6のようにバラックの実験で、スペアナ、ネットアナの動作状況を中心にチェックしました。これでは少々不安定で、腰を据えたチェックができません。そこで写真7のように、仮に生基板上に固定して実験を続けました。

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写真6. 基板を作りバラックでのテストを始めた頃です。

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写真7.生基板上に固定して試験をしました。

 A/Dコンバータの入力電圧から最大のレベルが決まっているようです。画面上の0のレベルは+6dBmになりますが、OVER表示となってしまいます。OVERが消える-2dBm以下で測定すべきでしょう。

 このためアッテネータは10dBを3回路で、30dBを入力に入れる事にしました。これで500mW(+27dBm)位の信号は直接入力できますので、スペアナとしての使い勝手は良くなります。可変のアッテネータが入ると、測定の状態が解りやすくなりますので、歪ませる事なく正しい測定がやりやすくなります。もちろん、どのような測定を目的とするのかによっても変わってくると思いますので、アッテネータを入れれば良いというものではありません。アッテネータには写真8のように2回路のトグルスイッチを用いています。アース側には銅のテープをトグルスイッチ上に貼り付け、その上にハンダ付けしています。なお、回り込みが無いように、アース側の銅テープは直接アースせずに浮いたままにしています。また、入出力の同軸にはFBを入れています。

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写真8. トグルスイッチを使った10dB×3のアッテネータです。

 元々スペアナは数100mWまで測れると便利です。QRPなら直接測れてしまう事もありますが、10Wでも20dBカップラや方結を使う必要があります。この出力はだいたい数100mWになりますので、数100mWをターゲットにすると、ちょうど使いやすいくらいになります。

 もし40〜50dBのアッテネータにする場合は、抵抗のW数を大きいものにすると良いと思います。そうでないと、あまり意味の無いものになってしまいます。

 アッテネータは出力側にもあった方が良いとは思いますが、ネットワークアナライザやインピーダンスアナライザにして測定する場合には、ソフトでレベル調整ができますので問題はありません。

5.ケース

 ケースはタカチのYM-180を使用しました。BNCコネクタを手持ちのものにしたのと、アッテネータを入れた関係もあり、かなり余裕を持った大きさになっています。ノイズ対策については次回に回す事としますが、内部の配線は写真9のように行っています。

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写真9. ケースに入れた様子です。

 ケースに入れようとした時に、電源スイッチをどうしようか考えてしまいました。このままだとUSBのプラグインが電源ONになるのか、パソコンと連動してONになるのかになってしまいます。使い方というのか、机上のポジションの問題になるのですが、このままでは「測定器」というよりも「アクセサリー」という感じになりそうです。そこで、リセッタブルヒューズの片側を外し、電源スイッチを入れる事にしました。写真10の赤い配線が強引に入れた電源スイッチです。「測定器」という感じで並べられますし、パソコンと同期して電源が入りっぱなしという事も無くなります。棚から出して裏側のUSBを毎回つなぐ、というような作業も不要になります。実際に使いやすく出来たと思っています。図1にケース内の配線を示します。基板内については「おじさん工房」のHPを見て下さい。

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写真10. 電源スイッチをリセッタブルヒューズの後から引き出しています。

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図1. ケース内の配線を示します。(※クリックすると画像が拡大します。)

 1回路が不調で、使う事もないだろうと考え、ロジックアナライザの端子は外に出しませんでした。かなり使い難そうですが、フタを開ければ使う事は可能です。これでスペアナとネットアナが使いやすくなりました。

 ところでレギュレータ用のICが3個ありますが、実験中に結構な熱を持つ事が気になりました。壊れるほどではないと思いますが、ケースに入れたり暑い夏が来たりと不安です。そこで、黄銅板をL型に加工してハンダ付けし、写真11のような各々のICの放熱器としました。多少の効果程度でしょうけど、気休め程度にはなります。なお、ここには出力電圧が出ますので、まとめて一枚で、という事はできません。また、ケースに接触させる時には絶縁物を入れる必要があります。

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写真11. レギュレータに付けた放熱器もどきです。

6.使用感

 アマチュア無線をしていると、一番興味あるのがスペアナモードかと思います。設定では30MHz以上も可能ですが、仕様では30MHzまでです。30MHz以上で見える値は、参考値と考えた方が良いでしょう。7MHz位の発振器や送信機の測定に限るのであれば、ジャンクで大型のものを仕入れるより良いのかもしれません。十分にスプリアスを測る事ができます。

 私も随分とキットを作りましたが、その中でも最高難度かと思います。このような素晴らしいキットを開発された技術力、企画力と努力に感服致します。難しいキットですので、後々のケアも大変な事かと思います。ユーザー側としましては、あまり負担をかけないように、HPの掲示板を利用して質問するようにしましょう。また、過去の質問を見る事で、ポイントが読めてくるかもしれません。

 次回はこのAPB-1を用いた測定方法などを紹介したいと思います。