2013年、QST 1月号(p.30~35) Robert Nickels、W9RANの記事(SDR & DVB-Tドングル)に衝撃を受けました。USBメモリに似た形状のDVB-Tが「ドングル」と呼ばれ、その機能がワンセグTVチューナーであり、ノートPCのUSBポートに接続してテレビの試聴を用途とするのはご存じのとおりです。この中国製のドングルが10~20ドルの手ごろな価格で買えるところから人気を集めました。

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R820T SDR & DVB-T(上)とDS-DT305BK PC用ワンセグテレビチューナー(下)

写真はRealtek RTL2832デコーダーチップとElonics E4000チューナーチップを用いたワンセグチューナーです。SDR#というソフトウェアで動作させると広帯域受信機になりました。受信周波数範囲が64MHz~1700MHz、RFスペクトラムは2MHz幅、外部アンテナにつなぐとFM放送が受信できました。しかし、自分には実用に至らず次第に興味を失い、どこかへしまい込んでしまいました。

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QST 2018年6月号の表紙

2018年、QST 6月号p.43~47に「Expert Electronics ColibriNANO SDR Receiver」by VA2PVの記事が掲載されました。従来のドングルと同じような形に見えますが、重厚感が漂い、どこか違う雰囲気です。記事を拾い読みするとダイレクトサンプリング技術を使ったハイエンドの受信機として、また簡易スペアナとしても使え0.01から55MHz全体の信号レベルを表示できるバンドスコープモードとわかり興味がわいてきました。早速行動を起こしました。通販で注文して山中湖村山荘合宿に出かける前日にドングルが届きました。とりあえずタブレットPC(MateBook E)とColibriNANOを持って行き、SDR受信機の全容を体験することにしました。

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ColibriNANO SDR受信機(MateBookのキーボードに載せて撮影)

RFダイレクトサンプリングSDR受信機

RFダイレクトサンプリングは入力信号をそのままデジタルサンプリングして処理する技術(ダイレクトであり、ゼロIFであり、デジタル信号処理)です。一つのLSIで信号処理を済ませることから製造コストが安くなるメリットがあります。QST(2018年6月号)の記事ではColibriNANOの値段が$290と紹介されていましたが、エレクトロデザイン社(EDC)のネット通販では¥27,000でした。これに消費税,240と送料¥1,000が加わり計30,240円をPayPalで支払いました。

なお、日本語のユーザーマニュアルがColibriNANOに同梱されていますが、Expert ELECTRONICSのWEBサイトにも参考になる情報がいろいろあります。

https://eesdr.com/en/products-en/receivers-en/colibrinano-en

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ユーザーマニュアル(左)を傍らにMateBook Eを操作するJF1GUQ(山梨県山中湖村のシャックにて)

ソフトウェアEXPERT SDR2のダウンロード

はじめに受信機を操作するプログラムをWEBサイトからダウンロードします。ExpertSDR2、HDSDR、SDRsharpの三つのソフトウェアがありますが、ここではExpertSDR2をPCにインストールしました。プログラムはeesdr.comからColibriNANO receiverを選択、WindowsならExpertSDR2 v.1.2.0をダウンロードしました。

https://eesdr.com/en/products-en/receivers-en/colibriddc-en#downloads

CoribriNANOの仕様は、

https://eesdr.com/en/products-en/receivers-en/colibrinano-en#characteristics

ColibriNANOのブロックダイヤグラムは、

https://eesdr.com/en/products-en/receivers-en/colibrinano-en

内部写真は以下でみられます。

https://eesdr.com/en/products-en/receivers-en/colibrinano-en#photo

Huawei MateBook E

PCは2017年暮れに入手した2 in1モバイルパソコン(Huawei MateBOOK E)を使いました。PCの仕様はディスプレイ12インチips液晶(タッチパネル)、ストレージ256GB、メモリ8GB、CPU Core i5、重量640g、OSはWindows10です。因みにドングルにつなぐPCの必要要件は、CPUがi3、i5、i7または同等のAMDプロセッサー、4GBのRAM、HDD/SSDの40GB以上の空スペース、15~27インチのディスプレイとなっています。

SMAケーブルと変換コネクタ SMA-J⇔M-J

ドングルのアンテナ端子がSMAなので、写真で見るような両端SMAケーブルと変換コネクタを用意しました。

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両端SMAケーブル(RG-316)とSMA-J⇔M-J変換コネクタ

ドッキングステーションMateDock E

MateBook EノートPCに電源とUSBポート兼用する端子が一つなので、充電しながらUSBポートを同時に接続するドッキングステーションが必要になります。Huawei MateBook専用のMateDockを用いました。これは有線LANポート×1、VGA×1、HDMI×1、USB3.0×2、USB type C×1を備えているためPCを多用途に使う時の必需品となります。

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ドッキングステーションMateDock E

USB延長ケーブル

MateDockのUSBポートとUSB Type-Cとの間隔が狭いため、ドングルを直に挿せないためUSB延長ケーブル(1m)を用意して、その先にドングルを挿しました。

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MateDockのUSBポートに延長ケーブルでドングルつなぎました

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ExpertSDR2によるコントロールパネルを表示

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MateBook EのUSB Type-Cポートに変換アダプタを介してドングルを接続

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7,084kHz LSBを受信中(※クリックすると画像が拡大します。)

アマチュアバンドに特化

受信開始は左上の電源スイッチのアイコンをクリックします。PCのスピーカーから音が聞こえないときは、同じ並びの「SC」を押します。コントロールパネルを見る限り、受信バンドは1.9MHz~2Mの11バンドとGEN(General)に分けられて、ExpertSDR2ソフトウェアがアマチュア向きであることが分かります。バンド切り替えはバンドボタンをクリック、周波数の変更は周波数の数字にマウスポインタを合わせてマウスの左右ボタンで周波数を変更します。

コントロールパネル

その他の操作はHF帯トランシーバーの操作とほぼ同じですので、モード・バンド・アッテネータ・RFゲイン、ボリューム等についての説明を必要としません。「SM」ボタンをクリックで左下に大型のSメータが現れますし、受信周波数の傍にもSメータがあります。ほかにも周波数表示が二つあることからサブ受信機付き、2波同時受信が可能と分かります。ユーザーマニュアルに、「説明されていない設定をしてもソフトウェアに致命的な損害を起こすことがないので、安全に実験することができます。SDRの主要な設定と信号処理はソフトウェアの中に保持されます。」とありますので、直感的にコントロールパネルを操作しても構わないようです。

受信機の動的データ

QST2018年6月号p.46にCalibriNANO s/n EEDO2091700133はARRL Labが実測したデータが掲載されています。それによるとメーカー仕様:周波数分布範囲は0.120-800MHz、USB電源のみ並びにモードはSSB、CW、AM、SAM(synchronous AM)、FM、FMN、WFMは指定通り、そして受信機の動的テストが詳細に報告されていますので、参照をお勧めします。因みに、試用したドングルのs/nはEEDO2091700244でした。

受信時の感想

ロングワイヤーにつないで7MHz帯と14MHz帯のSSBモードを受信してみた印象では、通信型受信機で短波帯を聴いているときと同じ感じでした。つまり、従来型のSSDドングルと全く違う本格的な受信機を操作している感じで大いに評価できます。山荘シャックに居合わせた仲間たちも同じ印象を抱いていたようです。自宅に戻りトライバンドHB9CVアンテナをつないで、短波放送(AM)を聴いてみました。フェージングを伴う海外放送は懐かしく、久しく忘れていたBCLの記憶を蘇らせてくれました。この時、DELLデスクトップPCにExpertSDR2をインストールして、コントールパネルを24インチのディスプレイに展開しましたので、見やすく操作できたのは言うまでもありません。

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ExpertSDR2ソフトウェアで操作中のColibriNANOの制御画面。ラジオNIKKEI(3,945kHz)を受信中(※クリックすると画像が拡大します。)

おわりに

R820T SDR & DVB-TでHFアマチュアバンドを受信したいと思い、簡易なHF帯コンバータを購入して準備していましたが、ColibriNANO SDRレシーバーの登場でコンバータの実験を中断してしまいました。このSDR受信機はロシアで開発、Taiwanで製造、米国のQSTに製品レポートを発表、日本の代理店が販売するなど、国際分業が進められた結果、ネット通販で最新のドングルが手に入りました。良き時代の到来を喜んでいいのでしょうが、どのような使い道が褒められるのか考えを巡らせているところです。

参考資料: QST 2018年6月号p.43-47 Expert Electronics Webサイト「ColibriNANOのプログラムインストールと操作」(日本語版)エレクトロデザイン(株)「ColobriNANOダイレクトサンプリングHF/6M SDR受信機ユーザーマニュアル」V1.0J(日本語版)エレクトロデザイン(株)