"The Mobile DXer"というタイトルの新刊書をデイトンハムベンションで買ってきました。本格的なキャンピングカーの前で、著者のAC6WOがマイクを握ってにんまりしている表紙が気に入りました。この本の発行元はあのCQを発行するCQコミュニケーションズ社注1です。The Radio Amateur's Journal CQは、日本でUS CQと呼ばれています。内容は精選されたインタビュー記事や新技術の紹介、トランシーバーの評価記事などで一杯です。そのUS CQの8月号の表紙に、アイコム株式会社の井上徳造社長(JA3FA)が登場されました。"ミスターICOM"の敬称とともに会見の様子が3ページにわたり収録されています。WA6NGHによるレポートは、創業から今日までの大躍進を確かな表現で綴ってあり、発展の様子を改めてたどることができます。ご一読をお勧めしたいと思います。

そのUS CQを出版するCQコミュニケーションズ社の新刊書が"The Mobile DXer"です。週刊誌より一回り小さいサイズにカラー写真を多用した全122ページは、手許に置きたい珠玉の一冊です。定価は12.95ドル、日本円で1,500円くらい。著者のAC6WO Dave MangelsがMobile DXingにのめり込むきっかけのエピソードを巻頭で熱っぽく紹介していて印象的です。何気なく出したCQに、中央アフリカ共和国のTL5Aからコールされて飛び上がらんばかりに驚く様子が描写されています。TL5Aとの劇的な交信が運命的な出会いだったと、その場の感動を素直に書き記していて好感が持てます。本書は英語版ながら、アマチュア用語が頻繁に出てきますし、難しい言葉が使われていませんので容易に読み進むことができます。

本文では小型HFトランシーバーとして評価の高いIC-706MKⅡG(HF+50MHz+144MHz+430MHz)が詳しく紹介されています。クルマに搭載するトランシーバーに求められる条件について、全体のサイズ、周波数カバー範囲、送信出力、モードなどのチェック項目を上げてモービルトランシーバーの適性を解説していて、現役モービルDXerの厳しい目がありました。本体から分離した前面パネルを安全運転に支障のない場所を選んでドライバーから見やすい位置に取り付け、本体部は車の後部にマウント金具を使って設置する方法などを紹介しています。

筆者にも転機となる一つの交信がありました。それは東京都内を走る車同士のラグチューに無邪気に遊んでいた頃の話です。通勤途中の車からカリブ海を航行する気象庁のマリタイムモービル(Maritime Mobile)と21MHz帯SSBで交信したことに始まりました。「ええっ 本当にカリブ海?」と聞き返すほどの疑い深い、そして劇的な交信でした。全長2メートル程度のアンテナは周波数にもよりますが、例えば7MHz帯のモービルアンテナの効率は送信出力の10%程度注2に過ぎません。この小出力の電波が超遠距離のカリブ海を航行する船に届いたのですから素直に感動したのは言うまでもありません。結局、この交信をきっかけにしてDX交信にも目が開いて行きました。

時代が移り変わり、筆者のクルマにはお気に入りのIC-706MKⅡGMとアンテナチューナーAT-180(HF帯~50MHz帯まで)を搭載しています。これ一台でHF/6m/2m/70cmの各バンドをオールモードで送受信ができるようになり、モービルシャックのレイアウトが簡単になりました。移動する局に許された50Wの電力は海外の局と交信するには十分な電力ですし、受信感度と送りの出力電力のバランスは実に良く取れています。IC-706MKⅡGMは前面パネルと本体をセパレートケーブルで接続してセンターコンソールに取り付けました。前面パネルの厚みがわずかで取り付け場所を選ばないのがとてもありがたく感じます。

本体とアンテナチューナーAT-180は助手席の下に設置しました。同軸ケーブル(5D2V)は室内の床を通してトランクリッドのアンテナ基台まで引きました。直流12Vの電源はブレーカーとヒューズを介してエンジンルームのバッテリーに接続してあります。特別の工夫はありませんが、バッテリー上がりを防ぐために、エンジンキーを切ればトランシーバーの電源が同時に切れるようにしてあるほか、直流電源の短絡事故に備えて遮断回路を二重に設けてあります。ほかに電波の飛びを左右するアンテナ基台の車体へのアースなど、モービルシャックづくりの要点はきちんと押さえてあります。

AC6WOの著作に啓発されて、普段やらないことに挑戦してみました。フリーウェアのソフトウェアとして評判の高いMMSTV注3です。以前から関心を持ちながらダウンロードを果たしていませんでした。MMSSTV Ver.1.04は745KB、あっけなくダウンロード、そしてパソコンへインストールを終了。デスクトップに日本語のMMSTVのウインドウを展開しました。メイン画面にはSM5EEPやHA1ZH、GM4NIHと交信するT22SC(JA0SC)の画像が次々に映し出されて、幸先の良いスタートになりました。

スロベニアのS51TNは鮮明な画像を日本へ送り込んできました。ヘッダーにMMSSTVの文字を発見しました。ヨーロッパの局が使っていると聞いてはいましたが、実際に画像で見るのは初めてです。英語版のVer.1.01はQSTの8月号p.61にも評価記事が紹介されていましたから、世界的な普及に向けて弾みがつくでしょう。いずれPSK31などと共にMMSTVについてもご紹介する機会を持ちたいと思います。

注1 CQ Communications, Inc. 25 Newbridge Road. Hicksville, New York 11801 USA
注2 JA1CA岡本次雄、JA1AR木賀忠雄・共著「モービルハムの技術」実効放射電力と電界強度p.136
   電波実験社
注3 MMSSTV 作者:JE3HHT
   MMSSTVはフリーウェアのソフトウェアです。