東京のベッドタウン、人口33万人の小都市に在住の筆者にまたとない機会が巡ってきました。自治体が発行する広報誌に「IT講習会」の市民講師を募集する記事を見かけたときに、「これだ!」と閃くものを感じました。アマチュア無線を40年も続けてきた蓄積を生かして、海外との技術交流を広めて来た経緯もあり、援助活動が一段落した今、地元とのかかわりを漠然と描いていた矢先でもありました。パソコンの手ほどきを通じて地元の人々と交流できるチャンスがやってきました。

「IT講習会」は、情報技術の基礎技能を習得するための講習会と説明されています。政府から都道府県に交付される「情報通信技術講習推進特例交付金」を利用して、成人を対象に都道府県や市町村が「IT講習会」を開いています。政府は5年以内に世界一のIT国家を作り上げる方針といい、市民レベルのIT基礎技能の習得を目指してIT環境の底上げ大作戦というわけです。

市民講師に応募

「パソコンとインターネット」は、私にとってアマチュア無線と趣味の両輪!欠くことのできないテクノロジーです。アマチュア無線を楽しむ必要から身に付けた技術が本当に人様のお役に立てるのか、まずは市民講師に応募してみることしました。パソコン歴は、AppleIIを触り始めて15年と記入しながらパソコンの進歩の速さを思い起こすことになりました。当時はマイコンと呼ばれマニアのものでしかありませんでした。AppleIIコンピューターに自作のデモジュレーターをつないで、台湾に出かけた日本のDXペディション・チームとRTTYで交信したのが、パソコンとのかかわりの始まりとなりました。

それはともかくWordとExcel、ホームページの閲覧と検索、電子メールの送受信、ホームページの制作などを教えることができることなどを記載して、近くの公民館にFAXしました。はたして採用されるかどうか待つこと2日、公民館の館長さんから電話が入りました。応募を歓迎するといい、講師歴などを聞かれて人材銀行への登録を勧められました。あれっ、これで採用なのかなと半信半疑の2週間後に生涯学習センターから市民講師に招集が掛かりました。出かけてみますと、大講堂に200名近い応募者が詰め掛けていて、市の職員の説明を受けているうちに全員が市民講師として採用されたことに気付きました。特別な選考はなく自己申告による採用と分かりました。しかも、メインの講師とサポーターのどちらを希望するか、平日か週末か、午前か午後、夜間など自由に希望することができました。基本的にはボランティア活動ということで交通費はでません。お昼にまたがるときは弁当が用意されるほか、わずかながら謝礼があると伺いました。

サポーターからスタートしてメイン講師を体験

時間帯ごとにグループ分けが進み、A1とB1グループの一員となり、同時にリーダーとサブリーダーが決まりました。何度かの打ちあわせ会議とテキストの読み合わせを経て担当する講座が振り分けられました。私はメイン講師として3講座36時間を受け持つことになり、サポーターを60時間ほど引受けることになりました。メイン講師は一日3時間、4日続けて合計12時間、受講者20名、公募により5,500人が応募して抽選により2,200名が第一期の受講者と決定しました。競争率ほぼ2.5倍という狭き門でした。

6月5日に近くのY公民館でサポーターを初体験することとなりました。メイン講師は市内で畳屋を経営するUさん、30代半ばのエネルギッシュな方で、ITの知識もなかなかのレベル、声が大きくて教え方にも説得力があります。受講者は平均年齢で58歳くらい、女性が8割を占め男性は2割という比率です。始めに予想されたとおり、マウスの操作と文字入力が難関のようでしたが、4名のサポーターによる反復指導の効果により足並みがそろうようになりました。初日、パソコンの基礎、2日目文字入力、そして3日目インターネットの利用、4日目が最終日、電子メールの送受信、これが4日間のカリキュラムです。

幸運にもサポーターを30時間ほど経験してからメインの講師を務めることになりました。人前で海外援助やSSTVの話題について講演した経験はありましても、一度に3時間も講義するのははじめてですから、パソコン用語のチェックなど事前準備を怠りませんでした。講師・サポーターの心得に質問に誠実に答えるようにとあり、肝に銘じて講義に臨みました。受講者の年齢は27歳から最高齢84歳まで。高齢者に配慮して、ゆっくりした口調で繰り返し基礎技能をやさしく教えるように心がけました。時にはWebサイトのe-typingに接続してゲーム感覚でタイピングを練習していただきましたが、10本の指使いに受講者全員が夢中になる一幕もありました。

おしまいに講義用の機材をご紹介します。20台のA4ノートパソコン(CPUモバイルセレロン550MHz)にWindows98MeとWord、IE5などを使い、講師用のノートPC画面を液晶プロジェクターで大型スクリーンに映し出して講義を進めました。使用回線は会場によりISDN 7回線をそれぞれ3台に分配、CCN(City Cable Net)は1回線から21台に分配しています。テキストは県が制作した「パソコンに挑戦」(A4判80頁、無料)を使いました。講師・サポーターには「講師用マニュアル」(A4判18頁)が用意されました。1期から4期まで約1万人の受講者を見込んでおり、講師は延べ800名に上ります。