1999年10月、上海市の繁華街、静安区青少年活動センターの大教室に日本と中国のアマチュア約60名が一同に会して「第1回国際SSTV上海大会」が盛大に開かれました。日本からJA1XVY JA3CF JA4HM JA6APのSSTV愛好者30名余が大挙して上海に繰り込んだのですから、日中のアマチュア無線史上でも珍しい大規模な交流が実現したことになります。中国側は北京からBY1PKの要人を含むBY1SKの数人、地元、上海のBY4AA BY4AY BY4ALC BY4AOH BY4BSK BY4BHPのクラブ代表者が多数、それに上海の著名なSSTVer BA4AD&BD4AD Davy夫妻が参加して大規模な技術交流が始まりました。

大会を記念して"BT499SSTV"という珍しいコールサインの特設局が免許されました。"499"という見慣れない数字が気になりますね。記念局に使われるBTは、Bが中国をTはTemporaryのTを表し、臨時に特設されるクラブ局に与えられるプリフィックスです。BTに限り西暦の99や00を挿入し、必ずしもエリアの数字を入れなくても許可がおりているようです。数字の499はエリアの4と西暦の99を足して499、そしてサフィックスのSSTVの4文字も珍しいかもしれません。このように自由に付けられる特設局のコールサインですが、なぜ4+99になったのか、その謎を解いてみましょう。

この会合を熱心に推進したK氏はBT99SSTVとBT4SSTVの二つの特別なコールサインを中国側に提案しました。中国を訪問するSSTVの愛好者が30名を超えた時点で、特設局が一つではオペレートの希望に応えられないと判断してのこと。かつて北京で開かれたIARU第3地域総会のBT××IARU、ARDF大会のBT××ARDFなどのコールサインが国際大会にあわせて免許されました。BTで始まるコールサインはかなり自由に組み立てているのを知っていましたから、エリアを表示しなくても良い、サフィックスが4文字でも許されると確信していました。

99から499に化けたコールサイン

上海の担当者X氏は、なんとエリアの"4"にこだわり"499"にしてしまいました。その結果、ここに風変わりなコールサインBT499SSTVが誕生したのです。これを全く予想しなかったK氏は、事前にコールサインボード(BT99SSTV BT4SSTV)をつくり日本から上海へ持参していたのですから悲劇の始まりです。ほどなくホテルの一室で日中の打ち合わせが行われました。上海側のX氏ができたての2種類のカードを部屋に持ち込んできました。カードにはBT499SSTVの文字がくっきりと明瞭に印刷されています。

日本側のスタッフが覗き込んで「この4は?」「上海を示す4です」とニコニコ顔のX氏。「電波管理委員会からエリアの4を入れるように指示されました」とまで言われては返す言葉もありません。BT99SSTVを実現するために過去の免許例を調べて日本からBT××IARU、BT××ARDFのカードを見本に郵送し、北京の1をIARUやARDFの特設局のコールサインに入れなくても許可がおりていますよ、と実例を示してお知らせしましたのに。 "499"の数字を眺めてしばしうろたえていました。

印刷のやり直しはできませんし、上海市電波管理委員会への変更申請を考えますと事実上不可能に近いことを悟りました。そして免許状に"499"文字がしっかりと記載されていて観念しました。ここで気を取り直して「499面白いじゃないですか!」と心の乱れを隠して、精いっぱいの取り繕いに転じました。おそらく事情に明るくない係員の指導で不思議なコールサインが誕生してしまったのではないかと推測しています。

BT99SSTVとBT499SSTVが入り混じって

記念局のSSTVソフトはK0HEO Donが開発した"WinPix Pro"を使うことにして上海を訪問しました。JA2BWH 杉澤一さんを通じてWinPixProを管理するG.V.Associates Inc.にご協賛をいただいてソフト使用の許可をもらい、事前にBT99SSTVとBT4SSTVのコールサインを登録しましたから、送信画像のヘッダーにBT99SSTVとしっかり書き込まれていて書き換えや削除ができません。コールサインを変更できるのは、日本・韓国・中国および台湾の販売と技術サポートをする杉澤さんだけです。

画面のヘッダーには「BT99SSTV」、画像の下には「de BT499SSTV」のコールサインが同居する奇妙な送信画像になりました。WinPixProを使う限りこの混乱から逃れることができませんので、やむを得ずオペレーターが口頭で事情説明して切り抜けることにしました。実際の交信では、皆さん好意的に交信をワッチされていて「了解!先ほどから聞いていました BT499SSTVですね」と事情を飲み込んでくださり、次々と何事もなく交信が続いたのはラッキーでした。

全体では日本と中国のアマチュアが言葉の壁を乗り越えて、技術&友好交流に大成功を収めることができました。それというのも奇妙なコールサイン499がSSTV愛好家の好奇心をあおる予想外の効果も上げましたし、思わぬアクシデントを通じて友好第一、臨機応変、忍耐など国際交流の大事な心構えを学ぶ機会となったのも、また確かといわざるを得ません。