2000年はクラブ局JA1ZNG(QTC-JAPANハムクラブ)の移動運用を仲間と共に存分に楽しみました。はじめは東京郊外の青梅市・御岳山(海抜約800m)を移動運用地に選びました。御岳山は登山電車の終点、駅舎に隣接する貸し別荘に駅のホームから直行できる利点があり、無線機やアンテナの持ち運びがあっという間に済んでしまいます。この貸し別荘は御岳登山鉄道の経営で、アマチュア無線の運用を積極的に勧めている珍しい施設でもあります。ただし無線機や電源、アンテナと同軸ケーブルなどの機材はかさばりがちですので、運ぶ際には他の乗客の迷惑とならないように細心の注意を払いました。

御岳山は800mながら関東を一望に出来る位置にあり、VHF・UHF帯の電波伝播には目を見張るものがあります。いつものようにICOMの小型HF・50MHz・144MHz・430MHzオールモードトランシーバの傑作、IC-706MKⅡGM 、そして電源は信頼の高いPS-85をバッグに入れて持ち込みました。そしてアローラインAL-207F(H)を部屋から少し突き出たベランダに立ててアンテナ設置を完了。はじめ430MHz帯のFMでCQを出しました。早速、都内からハンディ機でコールして下さった方がいて、ファイブナイン(RS59)で楽々と交信ができました。部屋の中でハンディ機を手に歩き回り一番良く聞こえるところで静止して話しているということでした。このハンディ機による長距離交信の体験が、アマチュア無線を長く続けるきっかけになればと願いました。結局、このとき100QSOを達成することができました。

続いて埼玉県飯能市の郊外にある正丸峠(海抜約700m)のコテージにも大勢の仲間と共に移動運用を行いました。コテージは山の斜面に20棟ほどが点在していました。アマチュア無線をやるには一番高いところ、それも周りをさえぎるものがない場所が良いに決まっています。予約担当者は、電波の飛びの良い頂上のコテージを2棟しっかり予約してくれました。駐車場から頂上のコテージまでは無線機材を自力で持ち上げなくてはなりません。急な斜面を重い機材を持って運ぶのはなかなかの苦労で、駐車場とコテージの間を休みながら何回も往復しました。今回の移動チームに加わった小学4年生と中学3年生の女子は平気な顔で上り下りして疲れを見せません。時には走り出す元気さに若者のパワーを見せ付けられました。

箱根・玄岳でコンテストに参加

玄岳(くろだけ)には2回ほど移動運用にでかけ、当時ようやく手が届くようになったSSTV(スロースキャン・テレビジョン)を持ち込んでJASTA(日本アマチュアSSTV協会)主催のニューフェースコンテストに参加しました。1回目はハイエースに無線機材を一杯に積み、アンテナはHF帯のV型ダイポールやツェップ型、バーチカルのR5それに430MHz帯の八木アンテナなどをぎっしり積んで出かけました。このときはHF帯のコンディションがすぐれず、もっぱら430.950MHz(当時、現在は430.450MHz)でCQを出し、東京方面の20局ほどと交信していただきました。お膝元の静岡県とは2局程度と記憶しています。

このときの電源は発動発電機を使う本格的な移動運用のスタイルでしたが、無線機材がおおげさな割には、交信局数が伸びない悩みがありました。

日を改めて、今度は乗用車のバッテリーを電源として運用する簡単な移動運用を試みました。それでもアンテナポールを立ててHF帯のツェップアンテナを張ったり、430MHz帯の10エレメント八木アンテナを使いました。無線機は車に搭載したIC-706MKⅡ(当時)とノートパソコンの組み合わせです。パソコンの電源に、このとき初めてDC-ACコンバーターを使い、車のエンジンを回し続けました。いま考えますと空気汚染の元凶だなーと反省することしきりで、充電済みのバッテリーと太陽電池の組み合わせなどを考えるべきだったと反省していますが、その後、商用電源がない場所へはなぜか出かけていません。

JD1小笠原・父島からのコンテストに参加

JD1はJAと別エンティティーで珍重されていますが、その小笠原・父島に5人の友人たちと小笠原丸に乗って出かけました。このときも予備機を含めて無線局が3つつくれるほどの機材を運びました。船会社へ機材の持込を打ち合わせたり乗船券の手配、宿泊の予約と運用のお願い等々、出発前までにやらねばならないことが多く、小笠原丸に乗り込む頃には、積み込みを無事に済ませた安心感からどっと疲れて寝込んでしまいました。それに5千トンの大型船と言っても太平洋の航行は波が高くてひどい船酔いに悩まされました。

JD1のSSTV運用は、それまでにないに等しくヨーロッパや北米からSSTVの運用が大いに期待されていました。もちろんIVCA* が発行するIVCA50、75、100アワードにもJD1はのどから手が出るくらい欲しいエンティティです。国内のSSTV愛好家もてぐすねを引いて待っていましたから、総勢5人は、移動局を建設する頃には悲壮感が漂ってきました。外国のSSTVerに情報提供を買って出て下さった方から頻繁に電話が入るようになり、遊びが遊びでなくなる瞬間とでも言いましょうか、そんな緊迫感で皆、使命感に燃えていました。

当時、発売されたばかりのICOMのHF・50MHz・144MHzマルチバンダー、IC-746を持ち込みました。デスクトップタイプのIC-746は操作が簡単で移動運用にもってこいの機能を備えています。その上ノイズリダクション(NR)はSSTVでは画像の乱れを最小限に抑えてくれるなど素晴らしい性能を見せてくれました。アンテナをつなぐのももどかしく電源スイッチをON、バンドを21MHz帯にして受信しましたが、さすが小笠原の空は都会のようなノイズがなく、ウソのような静けさです。それでもDXは聞こえてきません。14MHzに切り換えてもコンディションはぱっとしません。

東京からはCQを出してくれと矢のような催促が入り、いささか慌てるもコンディションが悪くては手も足も出ません。そうこうしている内に弱い信号をキャッチしました。なんとか絵にしようと目を細めたり、見る角度を変えてやっとコールサインがわかったのです。アフリカのFR5ABでした。なんどもコールして交信成立!幸先が良いと一同バンザイ。この後、待ちかねた日本の局のうれしいパイルアップを受けることになりました。

* IVCA: International Visual Communication Association