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No.4 HFモービル、南半球を走る
木枯らしが吹きすさぶ、いつになく寒い成田空港をJL771に乗って9時間、陽光がまぶしい真夏のシドニー空港に降り立ちました。真っ青な空に入道雲が浮かび心地よい風が頬をなでます。とっさに樹木が発散する夏のにおいを嗅ぎ取りました。ここは日本から数千キロ離れた南半球、日本とは季節が逆転するオーストラリアです。
真夏のクリスマス、初めて接したときの驚きが記憶のかなたに遠のき、いまでは違和感もなくなりました。街角の花屋さんにカラフルな花がならび行き交う人々はTシャツと短パンの軽装で颯爽と歩いています。住宅街に入ればどの家の庭先にも手入れの行き届いた花が競うように咲き乱れ、草花の発散する芳しさに思わず足をとめて見入ってしまいます。
シドニー空港の税関に向かうとき、スーツケースにしまいこんだICOMのIC-706MKⅡG HF~430MHzトランシーバーとモービルアンテナ(HV-7)が気になりました。日本の免許状、従事者免許証、英文証明書も持参していますし、かねて取得したVK1MHの免許状も携帯しています。税関からお尋ねがあればトランシーバーを持っていることを話そうと考えながら、入国審査に向かいました。にこやかに迎えてくれる職員に「グッモーニン」と挨拶。旅行目的と滞在日数を答えて入国の手続きが終了。心配していた税関はフリーパスでした。
レンタカーをモービル局に仕立てる
日本でエイビスに予約したレンタカーを空港で受け取り、いざダウンタウンへ。車はNISSANの2.4リッター、エンジンは小気味良くまわり一目で気に入りました。エアコンを効かしてセントラル駅に程近いEMTRONの事務所を目指しました。TEDのアンテナやEMTRONのリニアアンプを製造してヨーロッパとアメリカに輸出しているオーストラリアではちょっと知られた企業です。オーナーのVK2AOTのルディさんと親交を結んでから、シドニーにきたら必ず寄るようにしています。
何年か前に立ち寄ったとき、メルボルン製のパソコンのスロットに基板を差し込むタイプの受信機を見せられて驚いた思い出があります。ルディさんは以前、大学の教職についていたというだけに、電気屋さんのオーナーと言うよりは"教授"と呼ぶほうががふさわしい風貌と、1メートル90センチの長身から想像できないやさしさが溢れています。電話で訪問を告げると「早くいらっしゃい」と歓迎してくれました。今回も開発中の新型のリニアアンプを見せてもらい、「電解コンデンサを高品質のものに代えた」とか、「デジタルインジケータをコストの低いアナログメーターに変更した」などと丁寧な説明がありました。
翌朝、宿泊したANAホテル・シドニーのチェックアウトを済ませて、駐車場の片隅でレンタカーに無線機とアンテナの取り付けを始めました。他人から見れば少しは怪しい行動に引け目を感じながら素早く目立たないように作業を進めました。ボンネットを開けてDCケーブルをバッテリーに直結、ドアの隙間からケーブルを室内に引き込みに成功。続いてアンテナ基台をトランクリッドに取り付けて5D2V同軸ケーブルを後部座席の隙間を見つけて通し、助手席まで引き込みました。アンテナ基台の取り付けはボディにしっかり食い込むようにネジを回すこと、これが電波を飛ばすコツです。念のためにテスターで導通を確認しておきました。
無線機は日本から持ってきたICOMの新鋭機IC-706MKⅡG、コンパクトで持ち運びが楽です。性能はデスクトップ機にもひけを取らないDSPユニットを装備。160mバンドから430MHzまでをカバーするオールバンド・オールモード・トランシーバーです。レンタカーへのセッティングですから、グローブボックスの蓋を開けてIC-706MKⅡGをおきました。もちろん発進時に無線機が飛びなさないように両面接着テープなどで固定しました。
アンテナはHV7(7MHzから28MHz)を組み立てアンテナ基台に装着しました。各バンドの同調は、IC-706MKⅡG内蔵のSWRメーターと、SWRグラフ表示機能を使って確認しました。SWRグラフ表示機能はモービル用アンテナの共振点も一目でわかり、調整も楽に行えました。バンドごとに先端のエレメントを変えながら共振周波数を確認します。使用周波数から少しズレているようならミリ単位で伸ばすか縮めて追い込みます。
マイクに向かってCQを出せばIC-706MKⅡのデジタルパワーメーターはピークで100Wを示します。日本では移動局の上限は50Wですが、ここオーストラリアでは移動・固定の区別がない包括免許ですから、フルパワーの運用が楽しめます。コールサインはキャンベラの友人、荒大助さん(VK1ARA)にお願いしてVK1MHを取得しました(このときは個人局で取得、後にモービルハムラジオクラブに変更)。
21MHz帯SSBで日本の局が聞こえる中、ニュージーランドのCQをキャッチしました。オーストラリアの隣国ですから信号も強力です。コールすると一回で応答がありました。シドニーからキャンベラに向かうモービル運用であることを伝えますと、「固定局並みの強い信号だ」と素直に喜んでくれました。ルートは海岸線に取りましたので、左手の海のかなたがニュージーランド、右側がなだらかな山並みのロケーションです。なぜ、日本人がオーストラリアで電波を出しながら走っているのか不思議に思われたようなので、日本のコールサイン(JA1FUY)やキャンベラの友人を訪ねる途中であることなどを紹介しながら、和気藹々、ラグチューに興じながらHFモービル局は南半球の陽光を浴びて疾走しました。これぞHFモービルの真髄!だからアマチュア無線がやめられないと幸せな気分に浸りながら夕刻には、友人が待つ首都、キャンベラに到着しました。