JR渋谷駅から程近い、宮益坂交差点角の英会話学校AlexにサラリーマンKの姿がありました。今日は初めての授業の日。47歳にして英会話をモノにしたくて先週、入学金と授業料を払い込んだばかり。体験授業では親子ほどの歳の差のクラスメートに混じってさんざん冷や汗を流したKは、自分の貧しい英会話のレベルに愕然としながらあの恥ずかしいシーンを思い返してやる気が満ちてくるのを感じていました。

ニュージーランド第2の都市、オークランドでIARU、世界アマチュア無線連合の第3地域総会が開かれたときのことです。さようならパーティーでNZART(ニュージーランドのアマチュア無線連盟)の役員とその夫人たちが各国の代表にねぎらいと別れを惜しみました。同じテーブルの夫人が無口なKに声をかけてきました。「あなたは英語が話せますか?」Kは、ほとんどしゃべれないのに「少し・・・」と英語で答えました。

夫人は突然、「おはよう、こんにちは」と笑みを浮かべながら日本語を口にしました。いたわりの心遣いに感謝しながら「ハハ・・・」と力なく愛想笑いを浮かべる自分に怒りがこみ上げ、恥ずかしさで顔が真っ赤になりました。「まるで赤ちゃん並じゃないか」と言葉にならないつぶやきと共に社会的な地位や年齢にふさわしい扱いを受けられない苛立ちがKの居心地の悪さに拍車をかけました。

ゼロからのスタート

海外のWebサイトから目的の商品を探したり、注文ができるのも英語を操れればこその恩恵です。インターネットの未来型コミュニケーションツールの「OdigoやHottelephone」が日本でも英語に強い人たちに使われているのをご存知でしょうか。英会話の達人たちは、文字によるチャットに加えてボイスチャットに着目。早くからマチュア無線の支援ツールとして縦横に使いこなしておられます。こんなにも面白くて有用なソフトが日本のメディアで紹介されない理由の一つに、設定手順が英語を読みながら進める難しさにあると言われています。

中学と高校の6年、受験戦争を突破して大学の4年、計10年間。せっかく英語を学んでも簡単な会話ができないのはどうしたことでしょうか。先に紹介したKは英会話学校のレベルチェックで月曜から日曜日まで、1月から12月までをきちんと言えなかった恥ずかしいレベルでした。それでも大丈夫、やる気を起こしさえすれば英会話を始めるには、50歳を過ぎてもそれなりの会話ができるようになると、その後のKが証明してくれました。

実践はアマチュア無線で

海外援助活動で知り合った中国やシンガポールの友人たちとHF帯のパケット通信で毎日のように交流しました。BY4AA、BY4ALC、BA4AD、9V1XOの友人たちがいわばKにとっての英語の教師というわけです。タイピングにも次第に慣れて、単語のつづりや構文を覚えるのに役に立ちました。フォーンによるおしゃべりは、はじめ20分くらいが限界なのに、回数を重ねるうちに時間が少しずつ延びて1時間でも平気になりました。

中国を訪問したときに、上海から森と湖の都と呼ばれる杭州に英語教師のCと2泊3日のドライブに出かけました。聴く、伝える、誰の助けも借りない英語だけの世界に放り込まれました。構文のおかしさにたまりかねたCが文法を手ほどきしてくれました。35年前に習った中学時代の英語が蘇るにつれて恥じ入るばかり、そのつど頭脳が刺激されて学習効果がいっそう高まったような気がしました。

恥ずかしさを潜り抜けると

電波の上で英語を聴き取り、そしてスピーチの場がアマチュア無線に与えられていますが、初心者は拙い会話を友人たちに聴かれたくないという心理に陥るようです。本来、奔放であるべき会話をワンパターンな交信に終始するのはいかにも惜しい気がします。みっともなくてもいい、格好つけるのをやめようと気持ちを切り替えたときがレベルアップの好機となります。

恥ずかしさから逃れる方法に、アルコールの力を借りるのが良いといわれています。素面の時と打って変わり口が軽やかになるのは事実で、うまくなったと錯覚する効果も期待できます。パーティーで外国人から逃げ回る苦労から解放されて積極的に会話を楽しめるようになります。相手の会話を全部聴きとれなくても大丈夫!一部でも理解できれば聞き返すなり、こちらの話題に引き込めれば会話が成立するものです。

55歳からでも遅くない

小さな企業を世界的な大会社に育てたM氏が60歳から英会話をモノにされたという話が有名です。米国の経営者の集まりでスピーチを披露して喝采を浴びました。若干の英語の基礎と自己訓練、そしてテーマが明確であれば、流暢でなくても聴き手を感動させることができると何かの本で読んだような気がします。ここらあたりに英会話以前にきちんとした日本語が求められる所以でありましょう。

アマチュア無線家は、マイクのボタン(PTT)を押すだけで海外とおしゃべりができる環境にあるのですから、これを生かさない手はありません。中学の英語教科書をおさらいしたらオンエアで実践あるのみ、練習相手を見つけたら表現を一つまた一つと加えて行けば、気付いたときには結構な英語の遣い手になっているはずです。 IT革命がひたひたと進む中、パソコンの知識に並び英会話はだれにでも話せて特別な技に見られない、そんな時代がすぐそこまで来ているように思えます。55歳目前の方、英会話が身を助けてくれます。いまから英会話に取り掛かっても決して遅くはありません。そしてゴールデンエイジを迎えられた方には、英会話の学習が日々の楽しみと知識欲を満足させてくれる大切なツールになると信じます。努々(ゆめゆめ)疑いませんように!