某日、総務省から一本の電話が入りました。(総合通信局ではありません)山中湖シャック*のリニアアンプIC-4KLのスプリアステストの依頼がありました。「JARDの職員を山中湖の山荘シャックに訪問させるか、リニアアンプをJARDに持ち込んでくれないかというソフトな対応なのですが、総務省としてはスプリアス対策として、新式のリニアをお持ちならば旧マシンを免許から削除したいというのが意向なのだと感じました。現実にIC-4KLを運用していないことから撤去または新型機に取り替えてもいい。」というのがオーナーの意向でした。*山梨県南都留郡山中湖村


▲山中湖1kWシャックにて左から設備共用のJA1CVF、JA1XVY、JA1FUYのメンバー。
ほかにオーナーのJH1VVW、設備共用のJF1GUQ、JA1KJWとクラブ局JA1ZNG


総務省のパンフレット「無線機器のスプリアス規格の変更に伴い規格に合った無線機器の運用が必要です」には、背景として「世界無線通信会議(WRC)において無線通信規則(RR:Radio Regulations)のスプリアス発射(必要周波数帯の外側に発射される不要な電波)の強度の許容値が改正されました。これを受けて、総務省は平成17年(2005)12月1日無線設備規則(昭和25年(1950)電波監理委員会規則第18号)を 改正しました。また、今回総務省では、無線機器の買い換え以外の具体的な対応として、「フィルタを挿入する場合の対応」、「実力値の測定」及び「製造業者等が測定したデータの活用」による手続きを明確化しました。

経過措置
技術基準適合証明・工事設計認証の効力は、旧規則に基づく技術基準適合証明等は平成34年(2022)11月30日まで有効です。

新スプリアス規格への対応に関する具体的な手続きとして
1.機器の更新に併せた買い換え
現在お使いの無線機器を更新する際には、新スプリアス規格に適合した無線機器の使用が必要です。無線機器の買い換えに伴う変更申請又は変更届を総合通信局へ提出する必要があります。なお、無線機器によっては、変更検査が必要となる場合もあります。

2.送信出力端子と空中線の間にフィルタを挿入
現在使っている無線機器の出力端子にフィルタを挿入し、新スプリアス規格に適合すると継続して使えます。手続きとしては総合通信局に提出した変更申請の許可後、その無線機のスプリアスを測定し、工事完了届にスプリアス発射及び不要発射の強度確認届出書を提出します。

3.実力値の測定
現在使用の無線機器のスプリアスを測定し、新スプリアス規格に適合することが確認された無線機器は継続して使用できます。手続きはスプリアスの測定データ等を届出書に記載の上、総合通信局へ提出することで完了します。

4.製造業者等が測定したデータの活用
製造業者又は製造事業者を構成員とする団体の測定データにより新スプリアス規格に適合することが確認された無線機器は、総務省のHPで公表します。公表された無線機器は、スプリアスの測定が不要となります。手続きは届出書の(1)対象局の欄のみ記載し、総合通信局へ提出することで完了となります。

これらのほか、アマチュア局については、保証の手続きを活用することも可能です。

JARDによるスプリアス確認保証が必要な無線機(旧スプリアス規格機器)
① 平成17年(2005年)12月以前に免許を受け、現在も免許が継続している無線機器。

② 「スプリアス確認保証可能機器リスト」*に掲載の技術基準適合証明を受けた無線機で、平成17年(2005年)12月以降に総合通信局等に直接申請して免許を受けて、現在も免許が継続しているものが対象です。

JARDのスプリアス確認保証業務を参照ください。
http://www.jard.or.jp/warranty/spurious/index.html
①スプリアス確認保証手続きガイド
②スプリアス確認保証可能機器リスト(平成30年(2018)7月1日現在)
③メーカー測定により新スプリアス規格適合が確認されている機器
④機器単体で新スプリアス規格適合機器として保証ができない機器
⑤スプリアス確認保証料のご案内
⑥スプリアス確認保証願書・スプリアス発射及び不要発射の強度確認届出書記入例
⑦ Q & A

IC-PW1の終段管と電圧
工事設計書に必要なIC-PW1の終段管と電圧は、アイコムのWebサイト「Q & A」にその仕様の記載があります。

●1kW申請の場合 (HF 1kWかつ50MHz 500W申請の場合も含む)
終段管の名称個数: MRF150MP × 8
終段管の電圧: 45V

●500W申請の場合

終段管の名称個数: MRF150MP × 8
終段管の電圧: 40V

なお、IC-PW1はファイナルの後段にローパスフィルタを内蔵していますので、送信機系統図を記述する際は、「電力増幅 MRF150MP × 8」の後段に、「ローパスフィルタ」を書き加えます。そしてHF 1kWかつ50MHz 500W申請の場合は、送信機系統図上での「電力増幅 MRF150MP × 8」のブロック横の余白部分に、「50MHz帯の出力は自動的に500Wに低減される」と書き加えます。



▲無線局事項書及び工事設計書

旧マシンの取替
結局、IC-4KLをIC-PW1に取替、自作リニアアンプ200W並びにJRL-2000FH 1000Wを撤去することにしました。


▲JA1FUY設備共用局(1kW)工事設計書(裏面)


▲送信機系統図
 


▲無線局変更(届)書


▲ICOM HFオールバンド+50MHz 1kWリニアアンプIC-PW1
まとめ
JARDでは各地のイベントで「スプリアスの測定実験とお試し測定」を行っています。その内容は「スプリアスの測定実演」講演会、スプリアスのお試し測定会の2部構成でJARDの測定員が測定器を持ち込んで希望者にスプリアスを無料で測定するものです。新スプリアスに適合しているとその場で保証の申し込みが可能となります。詳しくはJARDにお問い合わせください。なお、ハムフェア2019では新型のHFオールバンド+50MHz 1kWリニアアンプIC-PW2の発表がありました。

後日、関東総合通信局から「新スプリアス対応へのリニアアンプ゚(IC-PW1)への交換については、インターフェア等の確認が必要となり、その一環として「電波防護指針に基づく電界強度確認表、平面図、立面図」を再提出する必要があります。確認表等の再提出は、確認の結果で内容(周辺環境等)に変更がなければ以前に提出したもので構いません。添付書類については、本来免許入ごとに添付をいただきますが、今回は設備共用元(石井様)無線局の変更と同時に設備共用先の変更申請も行われますので、上記の添付書類1部を添付してください。」の要請があり、「電波防護のための立地条件等説明書」並びに「電波防護指針に基づく電界強度確認書(アマチュア用)」を提出しました。


参考資料
「無線機器のスプリアス規格の変更に伴い規格にあった無線機器の運用が必要です」パンフレット 総務省