2020年7月末、山梨県南都留郡山中湖村の山荘へ行きました。HB9CVアンテナ(WARCバンド)のエレメントが90度傾いて、トライバンドアンテナのエレメントに接触しており、修復のため仲間と共に向かいました。といいましても、私がタワーに登るのは、2000年以降は年齢並びに体力的にも無理なことから、地上からタワーを見上げて作業を見守るサポート要員を務めるか、作業の一部始終を写真に残す役割しか残っていません。それでも久しぶりの山荘シャックの活動とあっていそいそと出かけました。

強風にあおられて

山荘のアンテナはクランクアップタワーの上部にマストを立て、下段にトライバンド(14 / 21 / 28MHz)のHB9CVを設置、さらに2.5mほど上段にWARCバンド(18 / 24MHz)のHB9CVのアンテナを取り付けています。アンテナはいずれもミニマルチ製で、免許された電力が1kWなので耐電力は2kW以上のものを使っています。

山中湖村は富士山の麓に位置し、標高1,000mの高原リゾート地にあり、世界遺産「富士山」と構成資産の「山中湖」に近い大自然の中にあります。このような環境からクランクダウンしたタワー上のアンテナであっても、富士山の麓を吹き荒れる強風にあおられてエレメントが曲げられる事例がたびたび起こります。
 

 
▲上段HB9CVのエレメントが90度ずれて下段HB9CVのエレメントに接触している

修復を試みる

 
▲マストに足場を取りつけている様子


アンテナマストの先端近くに設置された大型アンテナの近くまで登って修復しようとすると、足場が充分に確保できないこともあり、作業は困難を極めます。以前、高所作業車を山中湖の山荘まで来てもらい作業したことがあり、アームの先の作業用籠に乗り込み安全を確保した上でぜいたくな修復作業を行ったことがあります。このような方法での作業が望ましいのは当然ですが、それなりの出費を覚悟しなければなりません。
 

 
▲マストクランプがブームの水平を維持できなくなった


今回はマストクランプを緩めてブームを所定の位置に戻す簡単な作業と予想して、人力による修復に取り掛かりましたが、作業を進めるにつれて予期しない困難が待ち構えていました。作業に当たったのは60歳代の自称若手の2人で、安全帯を装着してタワーに登りました。足場が悪いこともあってエレメントを水平に戻すのは容易な作業でないと分かっていました。マストクランプを緩めて内部を直視すると、ブームが限界を超えて回転したのが原因と判りました。ここでエレメントを水平に戻すと作業が完了すると安堵したのが、後になって大きな間違いだったのです。

足場が悪い

マストにしがみついての作業は安全帯を装着していても、足元が不安定なためにマストクランプにたどり着くのが精一杯です。従ってマストクランプと同じ高さで作業できないむずかしさがあるため、エレメントを水平に保ちながらマストクランプを締め付ける作業がほぼできません。高所作業車の籠に乗り込んで手元で行う作業と違い、マストにしがみついてようやくマストクランプに手が届く状況とでは作業環境に雲泥の差があります。

修復を断念する

結局、エレメントが90度回転したWARCバンドのHB9CVアンテナを水平に戻す作業を断念するに至り、アンテナを降ろすことになりました。WARCバンドの18MHzと24MHzは使用頻度が低く、ダイポールアンテナに代替できることもあり躊躇することなく、HB9CVアンテナを取り除くことにしたのは、結果的に良い判断だったと思います。
 

 
▲安全帯を装着して作業
 

 
▲一見したところマストクランプに異常が見られないが・・・

 
▲地上に降ろしたHB9CVアンテナ

落下事故に注意

青年期には仲間と一緒になってアンテナタワーを建て、大型アンテナを持ち上げて設置するなどの共同作業は楽しい思い出として残っています。いつの頃からか、アンテナ工事が危険な作業として認識されるようになり、工事に参加する時は保険の加入が求められるようになりました。ある時、工事を手伝ってくれた仲間が事故に遭い「この人は誰?」という怖い話が残っています。近隣のアマチュア無線家にとってアンテナ工事は、アマチュア仲間の大事なイベントであり、手伝いは友情の証でもあった時代がありました。

新聞の報道によりますと、「山形県鶴岡市の住宅の敷地で、タワーの解体工事をしていた60代の男性作業員のが作業場から転落して死亡しました。」

という悲しいニュースが流れました。

また次のような怖い話が伝えられます。
「アンテナ調整中にタワーの15mの位置で感電して、身動き取れなくなったこともありました。感電死のほとんどは筋肉マヒによる、高所からの転落死が最も多いと聞いたことがあります。 感電すると意識ははっきり声も出るのですが、手足がマヒして自由が利きません。声を出して電源を切ってもらい、安全ベルトにぶら下がって助かりましたが、もしかすると転落してお陀仏だったかもしれません。」
 

 
▲アンテナ直下は工具などの落下に気をつけたい

まとめ

最近のアンテナ工事並びにアンテナタワーの撤去は専門の「解体業者」に任せるのが一般的です。とりわけ、アンテナの調整は地上で十分に行ってからタワーに上げるのが良い方法です。どうしてもタワーに登って調整・点検を行う場合は高所作業に慣れた人に任せるか、たとえ費用がかかったとしても自らを危険にさらすことのないように、専門の業者に依頼するのが良いと思います。簡単なワイヤーアンテナを展開するだけでも危険を伴うこともあります。アンテナの設置や補修には慎重に取り組んでいただきたいと思います。