[米軍軍用無線機]

昭和30年代(1955年―1965年)の終わりころまでは、アマチュア無線機は自作の時代だった。このため、50MHz機を車に載せる場合は自作せざるを得なかった。自作する技術力が無いハムは仲間に頼んでいた。しかし、振動など過酷な条件下で使われるため、自作から米軍の軍用無線機に切り替わるのは早かった。とくに、東京や大阪などではかなり自由に手に入り始めた。

昭和36年(1961年)の夏ごろと思われるが、東京のJMHCが会員の車載無線機を調べている。それによると自作機は16%であり、その90%がAM波のセットであった。米軍の放出品ではRT-70がもっとも多く36%、次いでRT-68、RT-66の順となっている。RT-70は出力が0.5Wのためブースターを接続するのが一般的であった。

多くのハムが使った米軍のRT-70

この時の調査では使用機種名不明が23%ほどあり、それを含めるとFM波が80%に達していた。すでにAM波から音質の良いFM波に移行していた。次いで、タクシー無線機の放出が始まる。昭和37年(1962年)5月の同じ調査では18%がナショナル(当時の松下通信工業)のタクシー無線機を改造して使用している。

タクシー無線は昭和28年(1953年)という早い時期にに60MHzで許可され、昭和39年には400MHzに移行することが決められた。移行期間は昭和46年(1971年)までであるが、中古の無線機が出回ったことになる。ただ、東京、関西ではこのような米軍用機、タクシー無線機が手に入りやすかったが、地方では必ずしもそうではなく、自作機や、昭和40年(1965年)ころから本格的に販売が始まった車載用機を使うケースが多かったようだ。

[モービル機市販始まる]

アマチュア無線機が自作から市販品に移行した姿がはっきりするのは昭和30年代(1955年-1965年)の後半であるが、最初の市販品登場はアマチュア無線が再開された昭和27年(1952年)といわれている。そのころの市販品にはキットも多く、完成品が各社から、しかも多機種発売されるようになったのは昭和34年(1959年)以降といえる。

奈良市在住の寺田薫さんが所持している米軍、旧日本軍の通信機

そのなかで、50MHz、144MHzのVHFは当初コンバーターの販売の形で行われたが、昭和31年ころには完成品が登場している。モービル機も当初は真空管式であったが、昭和39年(1964年)年末に画期的な小型、軽量のオールトランジスター50MHz機が井上電機製作所(現アイコム)から発売される。FDAM-1の登場である。

一方、1年後にトリオ(現ケンウッド)が初のオ―ルトランジスター50MHz機TR-1000を発売。この年、井上電機製作所はFDAM-2、FM波のFDFM-1、また、車載用10WブースターFM-10を発売している。さらに年末から昭和42年(1967年)にかけては、相次いで50MHz、144MHzのマルチチャンネル機を発売。アマチュア無線機メーカーでは後発の井上電機製作所は、当初、オールトランジスターでモービルの市場にねらい定めた戦略を展開したといえる。

[爆発的に増えたモービルハム]

このような自作することも、米軍通信機、タクシー無線を改造をすることも不要なメーカー製品の登場はモービルハムを増加させた。昭和40年(1965年)当時、桑垣さんは「JMHCは全国で300局程度」とある雑誌に掲載しているが、昭和47年-48年(1972年-1973年)の「モービルハムコールブック」では約4000名に達している。

「JMHC関西」など、全国JMHCに加わらなかった組織もあり、また、地域の組織に加入しなかったモービルハムを加えるとピーク時には6000人から10000人とも推定できる。市販品の市場はこの増加するモービルハムに支えられて拡大する。車メーカーもこの動きに着目し、モービルハム向けに広告を出し、驚くべきことに自動車連盟がアマチュア無線の講習会を実施したりした。

[統一周波数の決定]

50MHz帯を利用するハムが増加するのにともない、JMHCは連絡チャンネルとして51MHzを確保しようと考えた。そのいきさつについて東京の石川さんは「JARLが非常通信用に米軍用通信機PRC6を数台購入し、51MHzを指定した。モービル局が非常通信時に役立つようにするために51MHzを連絡チャンネルに決めた」と、会報に書いている。

初の全トランジスター式50MHzの本格的車載機であったアイコムのFDAM-1

この決定は昭和36年(1962年)のことであるが、昭和41年(1966年)に開かれた「JMHC各支部合同ミーティング」の席上、この周波数を「統一周波数」と決めている。「連絡周波数」が「統一周波数」と名付けられ、各地のJMHCはこの周波数を「専用周波数」として確保することにしたため、いくつかのトラブルが発生したりした。

ある地区では、51MHzを使っている局に対して「この周波数はJMHC専用であり、使わないで欲しい」とブレークしたりした。会員と非会員を区別するために、会員はコールサインの後にJMHCを加えることを申し合わせた地区もある。やがて、50MHzの利用者が増えだすと、トラブルは増加しだしていく。