1.はじめに

No.152では写真1の疑似音声発生器を紹介しました。その後のNo.155では写真2のデジタルAFレベルメータを紹介しました。これらは占有周波数帯幅(以降はOBW)の測定をするために作ったものです。この他にOBW測定機能の付いたスペアナが必要となります。最初は写真3のリゴルのスペアナを使うつもりでしたが、途中でOBWモードが「お試し」の期限切れとなって使えなくなってしまいました。ソフトの別途購入を促されたわけですが、使用頻度の割には結構な価格になってしまいます。そこで、無ければあるものを使って工夫しようと考えました。

使うスペアナには、CQ出版からキットで出された写真4のAPB-3を使ってみる事にしました。No.6364で紹介したAPB-1でも、同様に使えそうです。リゴルのスペアナを使わなかったのはRBWが最少で100Hzと少し広く、SSBで使うには問題がありそうだからです。APB-3のRBWは最少で12Hzと狭く、十分な性能です。

APB-3にはOBW測定の機能がありません。そこでデータを取り出してパソコンで計算するソフトを作る事にしました。従って今回はハードの製作ではなく、パソコン上のソフトという、今までに前例のない異質のものになりました。ソフトと言っても単なるエクセルのシートですので、インストール等は不要です。もちろんAPB-3でなくても、RBW等の性能がある程度以上で、CSV形式でデータを取り出せるスペアナなら使う事ができると思います。

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写真1 No.152で紹介した疑似音声発生器です。

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写真2 No.155で紹介したデジタルAFレベルメータです。

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写真3 2年前に購入したリゴルのスペアナです。

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写真4 CQ出版のAPB-3です。

2.測定方法

測定については、総務省のHP(http://www.tele.soumu.go.jp/j/ref/material/test/)にある方法に準じています。頻繁に出てくる「総務省の手順」とは、このHPにある別表第35によるものです。但し、他のOBW機能付きのスペアナと比べる事ができないため、どの程度の信頼性があるかは不明です。この別表第35の一部ですが、スペアナの設定方法について抜き出してみました。表1はSSBの場合の設定になります。表2はAM,FM等の場合の設定になります。

また、添付しているエクセルの表3は一応SSBを想定し、またミニマムにしてあります。測定回数は総務省の手順では5~10回ですが、1~5回にしています。APB-3はRBWが12Hzまで狭くできますが、30Hzでの設定を想定しています。これらは行数と列数を制限し、エクセルのファイルとして大きくし過ぎないためです。マクロは使わずに、セル内の式を積み重ねていますので、それほど難解ではないと思います。このまま表を大きくするのも、AMやFMでの応用も簡単でしょう。

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表1 総務省のスペアナの設定方法です。SSBの場合です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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表2 総務省のスペアナの設定方法です。AM,FM等の場合です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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表3 作製したエクセルの表です。この指定位置に数値を入れる事でOBWを計算します。(※クリックすると画像が拡大します。)

ソフトダウンロード「占有周波数帯幅(OBW=Occupied Band Width)計算シート」

3.APB-3のデータ取り出し

APB-3は測定後に画面を右クリックし、「測定値をクリップボードにコピー」を選んでデータを保存します。この場合はシングルスイープが良いでしょう。但し理由は解りませんが、スペアナのレベルをdBm単位とした最新バージョンではエラーとなってしまいます。そこで、購入時からの旧バージョンを使う事にしました。この場合は絶対値が重要ではありませんので全く問題にはなりませんし、補正するにしても簡単です。

このようにして取り込んだデータは、エクセルのシート上にカーソルを置いて貼り付けます。APB-3の設定によって異なりますが、データは数百行から数千行になります。

4.各行と各列

ここではエクセルの各行に入れる数字の意味と計算方法、各列に貼り付けたデータの意味等を説明します。まずは計算シートを開いてみて下さい。説明のため、行にはカッコ番号を、列には丸番号を割り振って区別しています。数字を記入する行や列は黄色で指定してあります。これ以外には計算式が入っていたりしますので、壊すと計算できなくなる事もあります。

以下は各行と各列の説明になります。

 

 

(1)センター周波数

APB-3のスペアナモードで測定した時に信号の中心にする周波数です。AMであればキャリアの周波数になります。SSBであれば信号の中心周波数で良いと思いますが、総務省の表1では「試験周波数」となっています。私には意味が良く解りません。⑥使用データの決定に使います。

 

 

(2)周波数スパン

SSBは表1によって3kHzの3倍の9kHzに、AMは表2によって6kHzの2~3.5倍の12~21kHzに周波数スパンを設定するようになっています。そのようにAPB-3を設定し、同じように記入すれば良いと思います。SSBの場合に9kHzという中途半端な値に固定になるのは理解できません。表3のデフォルトでは10kHzにして測っています。APB-3では中途半端なスパンは設定できないからです。⑥使用データの決定に使います。

 

 

(3)OBW計算%

意味不明の表現ですが、無理矢理に短くしたためです。法的には全電力の99%が占有周波数帯幅に入る必要があります。そのため一般的には99を記入しますが、異なった値での計算もできるようにセルを用意したものです。99%固定ではつまらないですので・・。(14)総電力%の計算に使います。

 

 

(4)RBWの設定

APB-3で測定した時のバンド幅を記入します。SSBは表1によって3kHzの3%で90Hz以下に、AMは表2によって6kHzの3%で180Hz以下に設定するようになっています。

 

測定条件を記録するためにセルを設けていますが、実際の計算には使用していません。もちろん、狭いほど細かく計算する事ができますが、行の数的には30Hzを使うようにしています。周波数スパンとの兼ね合いもありますが、12Hzにする場合は行数を増やす必要があると思います。

 

(5)パワー計の値

OBWの測定をする時には、別の測定器を使って出力を測ると思います。その値の記録ですが計算には使用しませんので、未記入でも構いません。(12)総電力1との比較という意味合いです。

 

 

(6)APB-3補正

APB-3を使った場合、縦軸の単位はdBで、dBmではありません。APB-3の新バージョンのソフトはdBmですが、数値をクリップボードに保存できずエラーとなってしまいます。そこで旧バージョンを使っていますので、単位をdBmにするために-5を記入します。計算には使用しますが、未記入でもOBWの結果は同じです。(8)補正値の計算に使います。

 

 

(7)外部ATT

送信機を測るのですから、APB-3の入力には当然アッテネータを入れているはずです。そのアッテネータの値を記入します。計算には使用しますが、未記入でもOBWの結果は同じです。次の(8)補正値の計算に使います。

 

 

(8)補正値

(6)APB-3補正(7)外部ATTの値から、実際には何倍になるのかを計算します。⑤補正電力に使用します。

 

 

(9)測定回数

1~5回を記入するようにしていますが、総務省の測定方法では5~10回となっています。本来はもっと表を大きくするべきです。平均を取れるように測定回数を記入します。④平均電力の計算に使います。合計した結果を割るだけなので、OBWの結果には影響しません。

 

 

(10)測定データ数

測定した全データ数を自動で算出します。APB-3の場合は設定したスパンよりも相当に広いデータが存在します。数えるだけで使っていません。

 

 

(11)使用データ数

(2)周波数スパンによって、自動的に使われるデータ数が計算されます。⑥使用データ列がTRUEとなった数です。APB-3上の画面に現れるデータの数ともいえます。総務省の手順では400以上のデータが必要とされています。RBWの設定によってデータ数が変わりますので、400以下になった場合にはRBWを狭く設定するか、可能な範囲で周波数スパンを広くする必要があります。

 

 

(12)総電力1

⑦TRUE電力の列をSUMして使用するデータの総計を計算していますので、総電力としています。このようなノイズのように分布する電力は、ATT以外に補正も必要です。従って補正はしていますが、正しい電力にはなりません。(5)パワー計の値と比較して桁違いの差がないかを確かめる程度です。単位はmWになります。

 

 

(13)総電力2

(12)総電力1の単位をWにしただけです。

 

 

(14)総電力%

これも意味不明の表現ですが、(3)OBW計算%×(12)総電力1です。つまり、帯域内に入るべき電力になります。(15)帯域外可能電力の計算に使います。

 

 

(15)帯域外可能電力

苦し紛れの長い表現ですが、帯域内に入らなくても良い電力の50%です。つまり、(12)総電力1-(14)総電力%の半分で、(3)OBW計算%で99%を設置した場合は0.5%の電力になります。

 

データの⑧↓計算⑨↑計算から限界値を探すために使います。そして⑩%内?に範囲内であれば「TRUE」を表示します。

 

(16)maxの周波数

⑪%内周波数の列の中からmaxの値を探します。(3)OBW計算%で設定した%に入る上限の周波数です。

 

 

(17)minの周波数

⑪%内周波数の列の中からminの値を探します。(3)OBW計算%で設定した%に入る下限の周波数です。

 

 

(18)OBW

(16)maxの周波数-(17)minの周波数を計算し、総務省の手順通りにkHzにします。これがOBWの計算結果となります。

 

 

 

 

①周波数

データ1~5で貼り付けた中で周波数(Hz)を表す列です。

 

 

②レベル

データ1~5で貼り付けた中でレベルを表す列で、dBmとして扱います。なお、5回分のデータがない場合には、不要なデータまで足し算してしまいます。不要部分のデータは周波数もレベルも消しておいて下さい。

 

 

③帯域電力

②レベルを計算して電力のmWにします。

 

 

④平均電力

データ1~5の③帯域電力を合計して(9)測定回数で割った平均値です。

 

 

⑤補正電力

④平均電力×(8)補正値を行い各帯域の電力(mW)を補正します。

 

 

⑥使用データ

(1)センター周波数(2)周波数スパンからOBW計算に使用するデータを決めます。「TRUE」がデータとして使用する範囲となります。(11)使用データ数を数え、⑦TRUE電力に使います。

 

 

⑦TRUE電力

⑥使用データが「TRUE」の場合のみ⑤補正電力をコピーします。それ以外はゼロとなります。つまり、使う範囲のデータだけ電力をコピーします。

 

 

⑧↓計算

妙な表現のようですが、一番ピッタリと思います。⑦TRUE電力を上から順番に足し算します。最終的には(12)総電力1⑨↑計算に一致します。

 

 

⑨↑計算

⑦TRUE電力を下から順番に足し算します。最終的には(12)総電力1⑧↓計算に一致します。もし、行を増やす必要がある場合には、この列の式を全部書き直す必要があります。最後の行から足し算を始めるだけですので簡単です。

 

 

⑩%内?

これも妙な表現ですが、⑧↓計算⑨↑計算が共に(15)帯域外可能電力よりも大きい範囲、つまり(3)OBW計算%で指定した値(法的には99%)に入っている範囲を「TRUE」とします。

 

 

⑪%内周波数

⑩%内?で「TRUE」となった行だけ、データ1の①周波数をコピーします。これが(3)OBW計算%で指定したパーセントに入っている範囲の周波数になります。

 

5.OBWの計算方法

表3はエクセルで作ったOBW計算用ファイルです。この中に「原本」というシート名があります。原本は壊さないように、シートのコピーを作っておくと良いでしょう。デフォルトでは7MHzのSSBを測った時の値が入っています。以下は各行、各列の説明と重複する部分があります。もちろん、測定器の設定等を含めて、総務省の手順を理解しなければなりません。

APB-3で取り込んだデータは、指定した位置で貼り付けます。これで①周波数②レベルの列にデータが入ります。総務省のHPでは、この測定は5~10回の平均を取るようになっています。レベルを一度電力に変換し、1~5回の電力を平均しています。周波数の単位はHzです。なお、必ず同じ設定で測定して下さい。異なる設定をマージュするような高級機能はありません。

次に測定範囲ですが、APB-3をスペアナにしてスパンを設定した場合、実際にはもっと広く測定しています。データを貼り付けてから①周波数を見ればすぐに解ります。これだと計算に不便ですので、必要な範囲を指定します。(1)センター周波数(2)周波数スパンです。基本的にはAPB-3と同じ設定で良いと思います。

(3)OBW計算%はOBWを計算するのに使う、何%がOBWに入らなくてはならないかの基準です。法的には99%ですので、通常は99固定です。

最低限これだけのデータを入れればOBWの計算ができます。但し電力は合いません。(6)APB-3補正(7)外部ATTを記入する事で補正はしますが、パワーメータの値とは異なるはずです。別の補正をする必要がある事と、そもそも一般のパワーメータは電圧を測るため、変調時の電力は正しく表示できません。

6.使用感

何しろ自分で作ったシートなので、問題なく使用できています。但し、前述のように結果を比較する事ができません。この計算で合っているのかは良く解りません。いずれにしろ、あくまでも参考データというレベルになります。

2年程前に仕入れたリゴルのスペアナが、最初はOBWが測れたものの使えなくなってしまいました。トライアル期間を過ぎたためのようなので、苦し紛れにAPB-3を使った方法を考えました。何しろ「疑似音声発生器」を作って、「デジタル式AFレベルメータ」を作って、ようやく測ろうとしたら測れない。これじゃ目も当てられません。しかしAPB-3を使った方が、ノイズフロアも低くRBWも狭く設定できます。性能的にはずっと良さそうですので、これからの送信機の製作時には必ず使用する事でしょう。

なお、総務省の方法から外れる部分があります。それはスペアナの検波方法でサンプリングを指定されているのですが、APB-3では検波方法が明記されていません。おそらくオーソドックスなポジティブピークだと思われます。この影響が良く解りません。

ホワイトノイズから始まり、疑似音声発生器、デジタルAFレベルメータという流れで続いた一連のシリーズも、やっとアマチュア的な手法でOBWが測れそうです。浅学のためどこかに間違い、勘違いがあるかもしれません。これで終了か否かは別問題です。また、同じような事を始めるかも・・。