エレクトロニクス工作室
No.157 占有周波数帯幅(OBW=Occupied Band Width)の計算シート
1.はじめに
No.152では写真1の疑似音声発生器を紹介しました。その後のNo.155では写真2のデジタルAFレベルメータを紹介しました。これらは占有周波数帯幅(以降はOBW)の測定をするために作ったものです。この他にOBW測定機能の付いたスペアナが必要となります。最初は写真3のリゴルのスペアナを使うつもりでしたが、途中でOBWモードが「お試し」の期限切れとなって使えなくなってしまいました。ソフトの別途購入を促されたわけですが、使用頻度の割には結構な価格になってしまいます。そこで、無ければあるものを使って工夫しようと考えました。
使うスペアナには、CQ出版からキットで出された写真4のAPB-3を使ってみる事にしました。No.63と64で紹介したAPB-1でも、同様に使えそうです。リゴルのスペアナを使わなかったのはRBWが最少で100Hzと少し広く、SSBで使うには問題がありそうだからです。APB-3のRBWは最少で12Hzと狭く、十分な性能です。
APB-3にはOBW測定の機能がありません。そこでデータを取り出してパソコンで計算するソフトを作る事にしました。従って今回はハードの製作ではなく、パソコン上のソフトという、今までに前例のない異質のものになりました。ソフトと言っても単なるエクセルのシートですので、インストール等は不要です。もちろんAPB-3でなくても、RBW等の性能がある程度以上で、CSV形式でデータを取り出せるスペアナなら使う事ができると思います。
写真1 No.152で紹介した疑似音声発生器です。
写真2 No.155で紹介したデジタルAFレベルメータです。
写真3 2年前に購入したリゴルのスペアナです。
写真4 CQ出版のAPB-3です。
2.測定方法
測定については、総務省のHP(http://www.tele.soumu.go.jp/j/ref/material/test/)にある方法に準じています。頻繁に出てくる「総務省の手順」とは、このHPにある別表第35によるものです。但し、他のOBW機能付きのスペアナと比べる事ができないため、どの程度の信頼性があるかは不明です。この別表第35の一部ですが、スペアナの設定方法について抜き出してみました。表1はSSBの場合の設定になります。表2はAM,FM等の場合の設定になります。
また、添付しているエクセルの表3は一応SSBを想定し、またミニマムにしてあります。測定回数は総務省の手順では5~10回ですが、1~5回にしています。APB-3はRBWが12Hzまで狭くできますが、30Hzでの設定を想定しています。これらは行数と列数を制限し、エクセルのファイルとして大きくし過ぎないためです。マクロは使わずに、セル内の式を積み重ねていますので、それほど難解ではないと思います。このまま表を大きくするのも、AMやFMでの応用も簡単でしょう。
表1 総務省のスペアナの設定方法です。SSBの場合です。(※クリックすると画像が拡大します。)
表2 総務省のスペアナの設定方法です。AM,FM等の場合です。(※クリックすると画像が拡大します。)
表3 作製したエクセルの表です。この指定位置に数値を入れる事でOBWを計算します。(※クリックすると画像が拡大します。)
ソフトダウンロード「占有周波数帯幅(OBW=Occupied Band Width)計算シート」
3.APB-3のデータ取り出し
APB-3は測定後に画面を右クリックし、「測定値をクリップボードにコピー」を選んでデータを保存します。この場合はシングルスイープが良いでしょう。但し理由は解りませんが、スペアナのレベルをdBm単位とした最新バージョンではエラーとなってしまいます。そこで、購入時からの旧バージョンを使う事にしました。この場合は絶対値が重要ではありませんので全く問題にはなりませんし、補正するにしても簡単です。
このようにして取り込んだデータは、エクセルのシート上にカーソルを置いて貼り付けます。APB-3の設定によって異なりますが、データは数百行から数千行になります。
4.各行と各列
ここではエクセルの各行に入れる数字の意味と計算方法、各列に貼り付けたデータの意味等を説明します。まずは計算シートを開いてみて下さい。説明のため、行にはカッコ番号を、列には丸番号を割り振って区別しています。数字を記入する行や列は黄色で指定してあります。これ以外には計算式が入っていたりしますので、壊すと計算できなくなる事もあります。
以下は各行と各列の説明になります。
(1)センター周波数
(2)周波数スパン
(3)OBW計算%
(4)RBWの設定
測定条件を記録するためにセルを設けていますが、実際の計算には使用していません。もちろん、狭いほど細かく計算する事ができますが、行の数的には30Hzを使うようにしています。周波数スパンとの兼ね合いもありますが、12Hzにする場合は行数を増やす必要があると思います。
(5)パワー計の値
(6)APB-3補正
(7)外部ATT
(8)補正値
(9)測定回数
(10)測定データ数
(11)使用データ数
(12)総電力1
(13)総電力2
(14)総電力%
(15)帯域外可能電力
データの⑧↓計算と⑨↑計算から限界値を探すために使います。そして⑩%内?に範囲内であれば「TRUE」を表示します。
(16)maxの周波数
(17)minの周波数
(18)OBW
①周波数
②レベル
③帯域電力
④平均電力
⑤補正電力
⑥使用データ
⑦TRUE電力
⑧↓計算
⑨↑計算
⑩%内?
⑪%内周波数
5.OBWの計算方法
表3はエクセルで作ったOBW計算用ファイルです。この中に「原本」というシート名があります。原本は壊さないように、シートのコピーを作っておくと良いでしょう。デフォルトでは7MHzのSSBを測った時の値が入っています。以下は各行、各列の説明と重複する部分があります。もちろん、測定器の設定等を含めて、総務省の手順を理解しなければなりません。
APB-3で取り込んだデータは、指定した位置で貼り付けます。これで①周波数と②レベルの列にデータが入ります。総務省のHPでは、この測定は5~10回の平均を取るようになっています。レベルを一度電力に変換し、1~5回の電力を平均しています。周波数の単位はHzです。なお、必ず同じ設定で測定して下さい。異なる設定をマージュするような高級機能はありません。
次に測定範囲ですが、APB-3をスペアナにしてスパンを設定した場合、実際にはもっと広く測定しています。データを貼り付けてから①周波数を見ればすぐに解ります。これだと計算に不便ですので、必要な範囲を指定します。(1)センター周波数と(2)周波数スパンです。基本的にはAPB-3と同じ設定で良いと思います。
(3)OBW計算%はOBWを計算するのに使う、何%がOBWに入らなくてはならないかの基準です。法的には99%ですので、通常は99固定です。
最低限これだけのデータを入れればOBWの計算ができます。但し電力は合いません。(6)APB-3補正と(7)外部ATTを記入する事で補正はしますが、パワーメータの値とは異なるはずです。別の補正をする必要がある事と、そもそも一般のパワーメータは電圧を測るため、変調時の電力は正しく表示できません。
6.使用感
何しろ自分で作ったシートなので、問題なく使用できています。但し、前述のように結果を比較する事ができません。この計算で合っているのかは良く解りません。いずれにしろ、あくまでも参考データというレベルになります。
2年程前に仕入れたリゴルのスペアナが、最初はOBWが測れたものの使えなくなってしまいました。トライアル期間を過ぎたためのようなので、苦し紛れにAPB-3を使った方法を考えました。何しろ「疑似音声発生器」を作って、「デジタル式AFレベルメータ」を作って、ようやく測ろうとしたら測れない。これじゃ目も当てられません。しかしAPB-3を使った方が、ノイズフロアも低くRBWも狭く設定できます。性能的にはずっと良さそうですので、これからの送信機の製作時には必ず使用する事でしょう。
なお、総務省の方法から外れる部分があります。それはスペアナの検波方法でサンプリングを指定されているのですが、APB-3では検波方法が明記されていません。おそらくオーソドックスなポジティブピークだと思われます。この影響が良く解りません。
ホワイトノイズから始まり、疑似音声発生器、デジタルAFレベルメータという流れで続いた一連のシリーズも、やっとアマチュア的な手法でOBWが測れそうです。浅学のためどこかに間違い、勘違いがあるかもしれません。これで終了か否かは別問題です。また、同じような事を始めるかも・・。