1.はじめに

No.167ではIC-7300S用の電源を作りました。この電源は、ピークを測る電圧電流計を内蔵し、結構面白く使っています。しかし面白いのは良いのですが、このままでは他の用途には使えません。また、実験用とすると電源容量が10Aと少々大き過ぎますし、LCDの表示が0.1Aの単位というのも難点です。そこで最大電流を5A用として、写真1のような「ピーク電流計」を作ってみました。電流の正のピークと負のピークを測るのが主な目的ですが、もちろん平均電流も測ります。この他に電圧も同じように測れるようにしました。他の電源等に付加して使います。ついでに、USBの電圧電流も測れるようなアダプタも作りました。写真1内の上にあるのが、このアダプタです。

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写真1 このようにアルミ板上にまとめた「ピーク電流計」です。

ところで、ピークというのは定義が曖昧です。どの程度の立ち上がり時間で測るのが良いのか、どこから単なるノイズと考えるのか良く解りません。そこでフィルタのコンデンサを切り替える事で、条件の異なる測定ができるようにしました。結局は測るものによって都合の良さそうな「感じ」になるようにしているだけですが、何が良いのかは作った私も解っていません。

2.回路

図1のような回路で、基本的にはNo.167とほぼ同じです。センサーには5A用のACS712(5A用)を使っていますので、少しだけ回路が異なります。このACS712はフィルタとしてコンデンサを接続するようになっていますので、目的に合わせてジャンパーピンで切り替えてみました。図2はデータシートからの値を基に作ったグラフですが、このようにコンデンサによって立ち上がり時間のtrを変える事ができます。図2を見て解るように0.0022μFはtr=0.01ms、0.047μFはtr=0.1ms、0.33μFは1msとなります。もちろんそれほど正確な値ではありませんが、目安が解ると便利でしょう。

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図1 回路図です。

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図2 センサーのデータシートから作ったグラフです。

測定可能な最大電流値を下げると、ノイズレベルも下がります。試してみたところ0.01Aの単位まで表示できるようになりましたので、16文字×2行では少々窮屈になってしまいました。仕方なくスライドスイッチを用いて、電流と電圧を切り替えるようにしています。この考え方は、No.167とは決定的に違うところです。もちろん、チラつきがないという事ではありません。ジャンパーピンでtrを切り替えながら、ピーク値とノイズを考えて使う必要があります。当然ですがtrを短くするほどピーク値は鋭く取れるようになるものの、ノイジーな感じになってしまいます。

3.作製

電圧も測りますので、グランドレベルも接続する必要があります。そこで入力用の端子台には6Pを使い、電流のINとOUTにグランドとしました。このような端子台を使う事を前提として、工作を行っています。端子台とICの間は写真2のような工作を行いました。ラグ端子をカットしてICの足に直付けとし、他はDIPへの変換基板を介して基板のハンダ面で配線しています。変換基板を使った、写真3のようなユニットを作りました。裏側から見ると写真4のように、少々縦長の変換基板だと解ります。GND用ラグ端子を、直接ICのピンにハンダ付けするには都合の良い構造です。これは秋月電子で見つけた基板です。ACS712も同様に入手しています。

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写真2 端子台とセンサー間の接続です。

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写真3 変換基板で作ったセンサーのユニットです。

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写真4 裏側からの方が、構造が解りやすいかもしれません。

基板は図3の実装図を作ってからハンダ付けしました。写真5のようなユニバーサル基板を使いました。これは中国製の基板と思います。秋月B基板とほぼ同じ大きさで、縦横の数が少しだけ異なる程度です。これも基本的にはNo.167と変わりません。基本的な作り方もNo.167とほぼ同じで、もっと上手く収める事も可能と思います。ケースには入れずに、写真6のようにアルミ板の上に乗せてまとめました。

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図3 実装図になります。

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写真5 使用したユニバーサル基板です。

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写真6 ケースには入れずに、アルミ板上に固定してまとめています。

電源や負荷との接続用に、写真7のような端子付きのクリップも作っておきました。もちろん圧着端子ですので、専用工具の「電工ペンチ」を用いて圧着しています。ハンダ付けでも使えないという事はないでしょう。ハンダはアルミや銅に比べて抵抗が大きく、電流によって発生する熱で溶ける事もあります。専用の工具でしっかりと圧着するのが一番です。この場合最大で5Aまでですので、問題になる事はないとは思います。センサー用ICへの接続がハンダ付けですので、あまり気にしても仕方ありません。しかもクリップですので、規格的には2Aになってしまいます。また端子は常時接続するような使い方ではないので、脱着の容易なY型を使っています。ここに丸型では不便でしょう。No.167では丸型を使っています。

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写真7 クリップ付きの端子付を作って測定します。

また、写真8のようにUSB-Aコネクタのオスメスを逆向きにしたユニットを作りました。パソコンとUSB機器の間等に入れて、消費電流と電圧が測れるようにしました。写真9のような冶具です。裏側は写真10のように配線しています。赤線が電流用のセンサーに接続されます。もちろん、仕上げとして絶縁性のゴムシートを貼っていますので、ショートする心配はありません。

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写真8 USB-Aコネクタのオスメスです。

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写真9 このようにユニバーサル基板上にまとめた冶具です。

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写真10 基板裏の配線です。良く見えませんが、捕縛用のワイヤーで固定しています。

4.ソフト

ソフトについては、ここに置いておきますので参考にして下さい。ソフトではA/D変換を2000回行い、その中で平均を計算しピークと同時にLCDに表示します。この2000回が適正なのかは場合によるのでしょう。もっと回数を減らして早く表示する事は可能ですが、読めなくては意味がありません。無理なく読める程度に早くしています。

なお、PCの環境はWINDOWS XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkII ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。

ソフトダウンロード

5.調整

電圧はTINY861Aの9ピンに入る10kΩ半固VRを調整し、デジタルテスターなどの信用のできる基準値と合うようにします。

TINY861Aの7ピンに入る10kΩ半固VRは、0mA時にゼロ表示するように調整します。ところがこれを合わせるのが大変で、多回転にするか固定抵抗と組み合わせるべきだったと思います。ソフトで合わせる方法もありますので、試しても面白いでしょう。

6.使用感

写真11は中国製と思われるUSBコネクタの消費電流と電圧を測るセンサーです。300円代と安くて面白いと思って買ったのですが、どうも表示がチラチラ変化し過ぎて疑問に思っていました。そこで写真9の冶具を使い、シリーズにして比べてみました。写真12がその様子です。その結果、測定結果に極めてノイズが多く、極端にチラつく事が解りました。変動の幅が0.5Aと大き過ぎです。抵抗負荷で1A程度を測ると、ノイズが50%という感じになってしまいます。もちろん、この中国製に対抗しようと作ったものではありませんが、ついでに解ってしまった事です。

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写真11 中国製らしきUSB用の電圧、電流計です。

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写真12 シリーズに接続している様子です。

表示としては写真13のように、0.01Aまで測れるようなりました。ピーク表示では0.02Aほど誤カウントしていますが、これは仕方ないでしょう。ピークの正側の他に負側の表示もしてみましたが、何の意味があるのかは作った本人も解っていません。でも面白そうです。

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写真13 このように0.01A単位で表示しました。

本来の目的として、自作のトランシーバに接続して測ってみました。この場合、変動するSSBの方が面白そうですので、以前作った7MHzのトランシーバ(CQ誌2014.3~5)の送信時の電流を測ってみました。当然ですが音声によってピークが大きく変動します。無音では概ね0.33Aですが、音声を入れると正のピークで0.38~0.56Aと大幅に変動します。平均では0.40A程度でした。これは当然です。フィルタを変える事によっても変化しますが、どのフィルタが良いのかは今一つ解っていません。上記はtr=1msに設定したもので、0.01msにするとピークでは0.65Aとなりました。

CPUのA/D変換をしてLCDに表示しますので、タイミングによってはピークが測れない事もあります。平均だけだと気にする事は無いと思いますが、必ずピークが捉えられるというものではありません。このような特色を理解して使う必要があります。やはりピークというのは難しいと思います。

いずれにしても、普通の電流計で見えないところが見えるのは面白いと、勝手に思っています。この次に実験用の電源を作る時には、是非ともに内蔵させたい機能です。