1.はじめに
No.191では写真1のようなフランジタイプの終端抵抗を使った、3Wのダミーロードを紹介しました。この終端抵抗は4GHzで30Wというものですので、次は写真2のようなダミーロード内蔵のパワー計にしてみました。つまり終端型電力計です。
 

写真1 No.191と同様に、4GHzで30Wの終端抵抗を使いました。
 

写真2 このような終端型電力計に仕上げてみました。
 

パワー計とした場合、30Wまでは何とかなるとしても、メータの校正が問題になってしまいます。4GHzまで検波するダイオードに加え、確認用信号源の問題があります。私としては144MHzや435MHzのリグすら持っていませんので、結局、安定した信号源であるIC-7300Sの出力が使える1.9~50MHz用という極めて平凡なスペックになりました。平凡なスペックですので、No.192のアッテネータも充分に使える事になります。

2.実験

写真3はNo.191と同じように作ったユニットです。同じアルミ板ですがカットの方向を変えて、3W用より面積が広くなるようにしました。これに大型の放熱器を付ければ20W程度は可能と考え、実験をしました。信号源は、1%ステップで安定した出力の得られるIC-7300Sです。この時だけは、7300Sではなく7300Mにしておけば50Wまで動作確認できたのこと思いましたが、まあこのような時だけです。もっとも終端抵抗が30Wまでですので根本的に無理です。
 

写真3 No.191と同様に作ったダミーロードのユニットです。20Wで使う事を考えてアルミ板の面積は広くしています。
 

まず始めにダミーロードとして使える事を確認しました。IC-7300Sは50MHzでは20W出せます。従って20Wまで使えないと不便です。No.130で作った「2CH温度計」で、放熱器の温度を確認しながら進めました。97×70×40mmの放熱器を買って来て試し、充分に余裕がある事を確認しました。

問題はメータの振れです。LTspiceを使って回路のシミュレーションをしました。簡単かと思っていたのですが、レベルと周波数特性の確保が難しく大変でした。このような電力計で問題になるのは、電力が下がってくるとダイオードの立ち上がり特性の影響が出てくる事です。電力が低くなると二乗目盛が維持できなくなります。特にQRPのパワー計では顕著になってしまいます。最終的には高周波電力を与えて、振れ具合を確認するしかありません。また、周波数が高くなると、ダイオードの検波効率が下がります。つまりf特が悪くなります。二乗目盛が使えるように作った結果なのですが、20Wと5Wの2レンジで50MHzまでとしました。1W以下のQRP専用のパワー計については、別の方法を考えています。

パワー計、つまり電力計とはしていますが、回路的には電圧計です。電圧を測って目盛に電力を書き込みますので、フルスケールが100ならセンターは25になります。つまりフルスケールの1/2の位置の電力は、1/4という二乗目盛になります。もちろんP=V2/Rから導き出されます。細かい事は省きますが、本来は平均電圧で表示した電力計とするのが正しいのかもしれません。無変調のキャリアであれば正しく表示しますが、AM変調等のように振幅がたえず変化する信号の電力は正しく測れません。一般的な電力では全く問題はありません。

3.回路
図1のような回路としました。このようにまとめてみると、何の変哲もない普通の回路になりました。しかし、これでも前述のようにシミュレーションと実験を行い考えた一つの結果です。


図1 今回実験を行った回路図。
 

使ったダイオードは秋月電子で購入した、高周波用ショットキーの1SS154です。チップ部品ですので扱いにくいのですが、特性は良さそうですし安価に入手可能です。ゲルマでも使えると思いますが、50MHzで感度が下がるかもしれません。試してみて下さい。

構造的にも、この回路図どおりになっています。ケースの入力にはBNC-J-Jの角座付きの変換コネクタを用い、ここからBNC-PのケーブルでダミーのBNC-Jに接続します。このBNC-J-Jコネクタの片側は外部からの入力に使います。もちろん、入力は無駄な変換コネクタを省略する事も可能です。実験からの流れでこのような形になりましたが、入力からダミーロードまでは直接接続する方が良いでしょう。

検波回路は、シールドの付いたユニバーサル基板の端切れを用いています。JSTのコネクタで出力し、トグルスイッチとVRの入ったボックスを経由してメータを振らせています。

また、このままの回路でダミーロードの代わりに実際のアンテナを接続すると、スプリアスが増加するはずです。無線設備規則を超える可能性がありますので、ご注意ください。全く異なる話ですが、感度の良いSWR計ほどスプリアスを作る可能性があります。それはダイオードが波形を僅かに歪ませるからです。

4.作製
実験と製作を同時に進めた部分が多く、実は記事で分けるのは容易ではありません。ダミーロードはNo.191の延長です。放熱がしやすいように面積を広くしただけです。この部分はNo.191を参照して下さい。まず、写真3の状態で測ったのが、測定結果1のリターンロスです。ダミーロード単体での特性です。
 

測定結果1 写真3の状態での0~600MHzのリターンロスです。ダミーロードの特性が出ています。


ピックアップ部分は最初写真4のように作っていました。BNCコネクタとダイオードの間に余分な間隔ができてしまいリターンロス、つまりSWRが悪化しました。ダミーロード側は50Ωに50Ωの同軸なので問題にはなりませんが、ダイオードの取り付け部分が問題になります。50MHzまでなのでこれでも良いのですが、SWRが悪化するのは面白くありません。もちろんある程度の悪化は仕方ありません。そこでピックアップを作り直して、写真5のようにダミーロードの部分に直結としました。抵抗にチップが使えなくなりますが、この方が少しですがSWRは良くなりました。チップ部品なら良いというものではありません。トータルでの使い方と思います。測定結果2がこの時のリターンロスです。測定結果3がスミスチャートです。同軸ケーブルに少々インピーダンスのズレがあるように見えますが、これでも一番成績の良いケーブルを使っています。同軸ケーブルとコネクタも選別が必要で、特性にバラつきがあるようです。50MHzまでとすれば、あまりこだわる必要はないと思います。また、これは微小電力を使って測ったものです。実際の測定電力ではダイオードの影響が増え、SWRは多少悪化するかもしれません。
 

写真4 BNCコネクタで作ったピックアップ部分ですが、SWRが悪化してしまいました。
 

写真5 このようにダミーロードの上側に直結しました。
 

測定結果2 完成状態にした時の0~600MHzのリターンロスです。50MHzまでとすれば充分なのですが、同軸ケーブルとピックアップによって多少は悪化します。
 

測定結果3 スミスチャートで表現した様子です。周波数が高くなると回転しながら中心から離れる様子が解ります。
 

元々メータにパワー計の目盛が描いてあったもので、相当前のハムフェアで入手したジャンクです。フルスケールが100μAで、内部抵抗をデジタルテスターで測ると945Ωでした。目盛板は外して自分で作る事にしました。これは普段から使っている、専用のソフトである「Meter」です。ダイオードで検波した電圧でメータを振らせますので、前述のとおり二乗目盛になります。このソフト上でLinearity exponentに「0.5」と設定するだけで、他に修正の細工は全くしませんでした。写真6が目盛を貼り付けたところですが、フルスケール20Wですのでセンターは5Wになります。5Wフルスケールでは1.25Wがセンターです。もちろんダイオードの立ち上がりの特性がありますので、測る電力が下がると二乗目盛から外れて行きます。更にQRPにするのであれば、全ポイントで測って目盛を決めなくてはなりません。その必要が無い程度に設定したというのが5Wのレンジです。
 

写真6 メータにパソコンで作った目盛を貼り付けたところです。
 

ケースにはタカチ電機工業のCU-14を用いました。WHDが160×90×150mmというサイズです。メータに合わせたため、少々高さが必要になります。これに写真7のように穴あけをしました。このケースは構造的に背が高く、パネル面がペナペナしてしまいます。上蓋にストッパーがあるのですが、どうしても引く方向には弱いです。そこでまず写真8のように貼り付けボスにISO規格の3mmネジのタップを切りました。この貼り付けボスにはネジが切ってありません。普通は3mmのタッピングネジを使うようになっています。このように自分でタップを切ればISO規格のネジでも使う事ができます。もしかすると、強引にネジを入れても入るのかもしれませんが・・。次に長いISOネジを写真9のように、電工ペンチで切断しました。これを写真10と写真11のように前後のパネル間に入れて補強しています。写真10側は両面テープで固定しています。これだけでケース全体のしっかり感が全く違ってきます。
 

写真7 タカチ電機工業のCU-14に穴あけをしました。
 

写真8 タカチ電機工業の貼り付けボスに3mmのタップを切って、ISO規格のネジが使えるようにしました。この場合は高さのある貼り付けボスが使いやすいです。
 

写真9 ISO規格の長い3mmネジを、前後のパネル間に合わせてカットします。
 

写真10 フロント側は貼り付けボスで固定します。
 

写真11 リア側はナットを2個用いて位置を調整して固定します。
 

内部は、ほぼBNCコネクタ等の接続だけです。20Wと5Wとの切り替えスイッチを介して調整用のVRをタカチ電機工業のSW-55の中に入れ、写真12のようにしました。これなら調整も容易でしょう。リアパネル側から見ると写真13のようになります。放熱器の右上に見えるのが補強用の3mmネジのナットです。この程度なら目立ちません。
 

写真12 内部の様子です。黒い箱が調整用VRの入ったSW-55です。
 

写真13 リアパネルからはこんな感じになります。20Wには充分に余裕のある放熱器です。
5.調整
基本的には信号源であるトランシーバーを用い、フルスケールを合わせます。前述のように、私はIC-7300Sを用いました。そして出力一を下げて行った時の表示が合うかを確認します。IC-7300Sの出力調整と、 No.192で作った1~2dBのアッテネータを用いて、様々な角度から確認をします。信頼性のあるパワー計が他に使えるのであれば、それを基準に合わせるのも良いかと思います。

50~60HzのAC100Vを使用して調整する方法もあるのですが、ダイオードは周波数が高くなると効率が下がります。そのような意味もあって私は使っていませんが、試してみるのも良いでしょう。いずれにしても、基準が無いと調整が困難と思います。

6.使用感
これで終端型のパワー計ができました。良くある定番の測定器ですが、20Wというレンジは今まで持っていませんでした。私の自作する範囲は充分にカバーしますので、安心して測る事ができます。また単なるダミーロードとしては、高い周波数まで使える事も解りました。