1.はじめに

パソコンのマイク端子は、ZOOM(会議用ソフト)で使うだけではありません。低周波信号を入力し、測定器用のソフトが使える便利な入力端子です。しかし、その度にイヤホンプラグを出してきて、クリップで接続するという際どい作業をしていました。これでは測定する環境として少々問題がありますし、面倒で仕方ありませんでした。そこで写真1のような、専用の接続ツールを作ってみました。
 

写真1 このようなパソコンのマイク端子用ツールです。

WaveSpectra(以下WS)は、FFTアナライザのフリーのソフトです。BEACONでも何回も使用していますし、オーディオの世界では測定に欠かせない存在のようです。無線の世界としても、音声として聞くのはオーディオの周波数です。ここを疎かにしては良い無線機が作れるはずがありません。これでWSはもちろん、CW解読器等の実験でもマイク端子が格段に使いやすくなると思います。

WSはefuさんのページ(https://efu.jp.net/)でダウンロードできます。このような測定に興味のある方はパソコンに入れて試してみて下さい。もちろん、このような外部のツールが必要という事ではありません。あくまでも使いやすくするためのものです。

2.マイク端子の問題点

パソコンのマイク端子が使い難い理由は、本来の目的がマイクだからです。600Ωのライン入力があれば良いのですが、最近のパソコンの流れとしては仕方がないのでしょう。マイク端子は測定器用にあるのではありません。

更に、パソコンによってマイク端子の使い方にも相違があるようです。普通のイヤホンジャックなのですが、モノラルもあればステレオもあります。その上ヘッドホンと一緒になった端子もあり、既にわけが解りません。良くあるパターンとしては先頭のチップに信号を入れるものです。これに低周波信号を入力すれば、ほとんどのパソコンでは大丈夫のようです。中央のリングもステレオで使うパソコンがあるようです。

マイク端子はコンデンサマイクを使う事を前提に作られていますので、電源用の電圧が常時加わっています。もちろん、コンデンサマイクを使うには都合が良いのですが、使用しない場合は接続する側で電圧の影響が心配です。この電圧も遮断しておきます。マイク端子の入力インピーダンスについては、一般的にはかなり高いようです。入力のレベルをアッテネータによって正確に可変したい場合に、少々問題を生じます。

また、このような端子ですので明らかに不平衡の入力となります。ここに平衡の出力を接続したい場合もあると思います。パソコンの中でレベル調整をするよりも、外部で行いたい場合も多々あると思います。こういった場合でも不自由のないようにしておきたいと思います。

かように、いろいろと考えるとマイク端子は案外と厄介に感じてきます。その度に細工をして入力するのも良いのですが、結構面倒な作業です。測る度に結果が変わっては測定になりません。そこで、これらの問題を一気に解決しようと考えました。

3.回路

簡単なツールですので、手持ちの部品を生かして図1のように考えてみました。入力には、最大40dBで2dBステップの平衡型のアッテネータを入れています。接点数は21です。これはジャンクで手持ちにあった東京光音製のH40DSを使っています。そして600Ω:600Ωのトランスを用いて平衡から不平衡に変換しています。これも手持ちのジャンクですが、サンスイのST-71が使えると思います。こうしたのは、入力が不平衡でも平衡でも対応できるからです。トランスには周波数特性があるため低い周波数が下がってしまいます。それよりもトランスがある事を優先し、どんな出力でも測れるようにしています。またパソコンのグランドレベルを、他のノイズを嫌う測定器と切り離す事もできます。
 

図1 回路図になります。

不平衡のL型に置いた抵抗は、アッテネータとインピーダンス変換を兼ねています。マイク端子側のインピーダンスは、2kΩ程度のようですが明確に決まっていないようです。そこでトランスから見たインピーダンスが600Ωになるように、ザックリと変換しました。電力的には11dBのアッテネータになります。これで可変アッテネータの値が概ね正しく設定できるようになります。この値の設計は、No.192の「20W用アッテネータ」にあるエクセルの(1)と(2)で計算をしたものです。さすがに(3)の消費電力の計算は不要です。

600Ω:600Ωのトランスが手持ちにあったため使いましたが、600Ω:2kΩのトランスでインピーダンスを変換してしまう方法でも良いと思います。図2のように、抵抗によるインピーダンス変換が不要にできます。ただ、600Ωから多少のズレを考えて、600Ω 3dB位のアッテネータを入れておくと良いでしょう。50Ωでも良く行う方法ですが、高周波でいうSWRを一定値以内に収める事になります。試してはいませんので、実験してみて下さい。
 

図2 600Ω:2kΩのトランスが使えるなら、こんな感じでしょう。
 

600ΩのAF用平衡型の可変アッテネータが手持ちにあったため、図1のようにしましたが、これが不平衡の可変アッテネータであれば、図3のようにトランスと位置を交換するだけです。概ねですが、この3つのパターンになると思います。図3も試してはいませんので、実験してみて下さい。
 

図3 不平衡の可変アッテネータを使うのであれば、こんな感じでしょう。

もちろんトランスが無くても、不平衡入力として使用可能です。アッテネータは不平衡用しか使えません。逆に周波数特性を考えると、余分なものはない方が良いという考えも正しいと思います。平衡、不平衡とインピーダンスのマッチングという事では合っていると思いますが、趣味のオーディオの面から見て違っているポイントがあるかもしれません。

本機の回路は、平衡と不平衡を考えてみる必要があります。実は、某所で使っている測定システムを少々試してみたかった事があります。普通に使われている図4のような平衡出力であれば、不平衡で受けても問題は生じません。ところが同じ平衡であっても、図5のようにトランスのセンターがアースされていると、平衡で受けるしかありません。これを不平衡で受けてしまうとトランスがショートされる事となり、出力が取り出せません。この使い方の相違は何なのでしょう? このような事情もあって、平衡入力にせざるを得なかったのが裏話です。従って、平衡でも不平衡でも接続できるようになりました。
 

図4 一般的に使われる不平衡の出力です。
 

図5 この装置で使われていた不平衡の出力です。

4.作製

まず、持っている部品を並べたところが写真2です。バラックで組立てて実験をしたセットが写真3です。これで問題なく動く事を確認し、図6の実装図を作りました。これを基に写真4のように基板を作製しました。このハンダ面が写真5になります。
 

写真2 手持ちの部品を集めたところです。
 


写真3 バラックで組立てた様子です。

図6 図1から作った実装図です。
 

写真4 作製した基板です。
 

写真5 ハンダ面になります。

これに合わせたケースを探し、写真6のリードP-4を使う事にしました。ほぼアッテネータに合わせたというのが現状です。このような場合、大きさだけではありません。アッテネータは中から入れるのですから、シャフトの長さと角度を考えておかないと後で泣く事になります。つまり入りません。(今までに何回も泣きました)
 

写真6 ケースに使ったリードのP-4です。


穴あけをしたところは写し忘れてしまいました。そのアッテネータを入れてみたところが写真7です。実は「入った!」とホッとした瞬間で、少々際どかった感じが解ると思います。良くあるのですが、安心して次の作業に入ると写真を忘れるのです。次に部品を取り付けて、配線を行います。始めは基板をホットボンドで固定しようかと思っていたのですが、狭くてホットボンドの先が内部に入れられませんでした。そこで貼り付けボスを使い、基板に1か所だけネジ穴を開けて固定しました。もちろん安定に固定できれば、どちらでも良いと思います。写真8が完成した内部の様子です。基板を固定したネジも見えます。
 

写真7 うまくアッテネータが入りました。
 

写真8 内部の様子です。


入力にはパソコンへのイヤホンプラグを直付けとしました。このイヤホンプラグはパソコンに合わせています。ステレオ用だけど片側だけしか使っていないという、私の古いパソコン用です。このパターンは多いようです。

5.測定結果

入力にはNo.47で作ったDDSのAF用SGを用い、パソコン側はWSを使って周波数特性を測ってみました。低い周波数はすぐに終わるのですが、高い周波数のエリアは大変に時間がかかります。測定結果1のように、20Hzから20kHzまでほぼフラットです。20~40Hz付近ではトランスの影響がありそうです。少々下がりますが、アマチュア無線で使うレベルとしては充分にフラットと言えるでしょう。
 

測定結果1 WSで周波数特性を測ってみました。
6.使用感

今まではソフトを立ち上げて、次に接続を考えていました。これだと何も考えずに接続ができます。アッテネータでレベルが変えられるのは極めて便利です。パソコンは便利なのですが、基本的な設定は外部で可変できる方が使いやすいです。パソコンの設定でマイクのゲインを調整していたのでは操作が煩雑になって測定になりません。まあ、時代から遅れた方法かもしれませんが、測定しながらの調整にはこの方が圧倒的に便利です。写真9のようにアッテネータの目盛が読めますので、データとして記録しておくにも便利です。
 


写真9 アッテネータの目盛です。