1.はじめに

このマイクロV発生器を作るキッカケは、No.162のマイクロワットメータに遡ります。これはダイオードで検波した後の直流電圧を読んで、-15~-40dBmを測るものでした。この-40dBmの時の直流電圧は概ね0.01mV、つまり10μV程度になります。1μVまでを測る事ができれば、レンジが-50dBm程度まで拡大できるはずです。これをA/D変換してCPUで読めば、レンジ切り替えも不要となり。メータの目盛作製で苦労する事も無くなります。

このような発生器も電圧計も、異種の金属が接触する事で発生する電圧もあり簡単ではありません。1μVまでは無理としても、可能な限りの微小電圧を測りたいと考えました。そのために、まずは10μVの微小電圧を作る事を目標として、写真1のような「マイクロV発生器」を作製しました。作製と言うよりも、ほぼ実験記になります。

 
写真1 このような小型のケースに押し込んだマイクロV発生器。

2.実験

微小電圧を作るのに一番簡単な方法が、D/A変換を用いる事でしょう。基準電圧を低めの4096mVとして、10~4000mVをここで作る事としました。D/A変換に使ったのが12ビットのMCP4726ですので、4096mVまでを1mVステップで作る事ができます。しかし、実験の結果から10~4000mVまでを10mVステップで作る事としました。10mV以下になると出力電圧に誤差が出て来るようですので、最小電圧は10mVとしています。最小値は可能な限り小さくしたいのですが、取りあえずは抑えました。

電圧はロータリーエンコーダをCPUで読み込んで可変します。これで10~4000mVの範囲では自在に可変できます。しかし最小値が10mVでは、目標の10μVとは桁違いです。遠く及びません。

次に写真2のデジタル式の可変抵抗で分圧してみました。従って構成としては図1のようになります。何しろ手探りですので、このような出力を測るものがありません。しかし、これで1/1000に分圧する事ができますので、最小桁が10μVになります。もちろん、これは計算上だけですので簡単&単純ではありません。後段にオペアンプ等を入れてインピーダンスを低くする事も考えたのですが、オフセットの問題もあってそのままにしました。

 
写真2 出力電圧の分圧に使ったデジタル式の可変抵抗。
 

 
図1 構成図。
 

写真3は安価なデジタルテスターですが、これで0.1mVつまり100μVまで測れます。もちろん誤差もありますので、100%信頼すると危険です。「もっと微小値を細かく測るもの」は、これから作ろうとしているわけです。
 


写真3 安価なデジタルテスターですが100μVまで測れます。
 

このようにバラックで回路を組んで、様々な試行錯誤をしてみました。まずデジタルテスターで測ってみると、既に限界が見えるようです。100mV以下にしてデジタル可変抵抗を最大の999に設定すると、高めの電圧を表示します。10mVでは11.3mVになります。0mVでも1.2mVになります。電源をOFFすると0mVになりますので、D/A変換器の限界なのでしょう。1mVの出力は、誤差を考えないと使えない事になります。MCP4726のデータシートにはオフセットエラーが記載されていますが、これに相当するのかと思います。D/A変換器の出力を100mVにして、出力をデジタル可変抵抗で分圧すると0.1mVまで上手く出力しました。このような使い方をするようにして、D/A変換器では極端に低い値は設定しない方が良さそうです。しかし、先に進む実験では仕方ありません。次に10mVで設定しデジタル可変抵抗で最大の999に設定しますと、少し高めですが11.3mVと概ね正しく出力されているのが確認できました。デジタル可変抵抗の設定を下げてみると、0.1mVまでは正しく出力しているらしいと確認できました。しかし、このデジタルテスターでは0.01mVつまり10μVの桁までは解りません。

3.回路

作る事自体が実験なのですが、その実験の結果図2のような回路としました。D/Aコンバータは秋月電子で購入した12ビットのMCP4726です。この基準にはLM4040 AIM3-4.1を使ってみました。
 

 
図2 回路図。
 

写真2のデジタル式可変抵抗は、かなり前にQSYして頂いたもので、規格やメーカ等は不明です。正しい名称も良く解りませんが、このようにデジタル的に分圧したいような用途に最適です。ただ、どの程度の精度があるのかは不明です。ボタンを押して設定を変えますのでサムホイールスイッチと呼んで良いのか解りませんが、左側が0~9kを変えます。中央が0~900Ω、右側が0~90Ωになっています。これでデジタル的に分圧できるわけです。トータルで9.99kΩとなり、10Ω足りません。そこで、完全に気休め程度なのですが、10Ωの抵抗をシリースに入れています。このようなものでなくても、目盛付きのヘリカルポテンショメータが使えると思います。もちろん10Ωは不要となります。従って出力電圧は、LCDに表示した電圧にサムホイールスイッチで設定した0.XXXを掛け算した値となります。

4.作製

図3のような実装図を作製し、それをもとに基板を写真4のように作製しました。これはいつもの手順です。ジャンパー線も図4のようにハンダ付けをしました。使っているのは、秋月電子のCサイズの基板です。ハンダ面は写真5になります。この左端に見えるのが、D/A変換の基準になるLM4040 AIM3-4.1です。チップ部品なので部品面に付けられず、苦し紛れにハンダ面で強引にハンダ付けしました。ハンダした感覚的には全く問題ありません。ユニバーサル基板ですので、これが一番固定しやすい方法と思います。
 
図3 実装図。
 

 
写真4 このように基板を作製しました。
 

 
図4 ジャンパーのレイヤーです。

 
写真5 ハンダ面になります。
 

ケースには写真6のタカチ電機工業のMB7-5-10を用いました。これがちょうどピッタリ入りそうなサイズでした。これに写真7のように穴あけをしました。少々きつかったのですが、写真8のように基板と各部品を固定し配線しました。ただ、ケースを閉めるネジが基板に接触するので、写真9のように基板を削って処理をしました。一発勝負のシロウト工作ですので、少々危なかったかと思います。デジタル式の可変抵抗は写真10のように実装をしています。ケースの高さはこの可変抵抗で決まったようなものです。最後にテプラで写真11のように表示して仕上げました。

 
写真6 使用したタカチ電機工業のMB7-5-10です。
 

 
写真7 穴あけはこのように上側だけです。
 

 
写真8 このような位置関係となりました。
 

 
写真9 ネジが基板に接触したので削りました
 

 
写真10 デジタル式可変抵抗の実装です。
 

 
写真11 このようにテプラで表示して完成としました。
 

参考程度とは思いますが、ソフトはここへ置いておきます。

5.使用感

写真3のデジタルテスターで試すと、ほぼ問題はありません。100μVまでしか測れませんので、ここで問題があるようでは目的が達せられません。何とか10μVまでは・・という目的があるわけです。

測れないものは解りませんが、D/A変換器の出力は100mVでは安心して使えそうです。10mVでは多少の誤差がありそうですが、ある程度は使えそうです。これにデジタル可変抵抗を組み合わせ、何とか10μVは出せそうです。

この先は自作したマイクロV電圧計の実験と重なる事となります。これには思いの他苦労しました。使用感というよりも苦労感しかありません。実験なのですが、実用的な使用感まで達するレベルではないと思います。実際には電圧計の方と同時に作っているのですが、合わない原因がどちらにあるのかが良く解りません。両方にある可能性もあります。