1.はじめに

No.170ではIC-7300S用のスピーカをキットで作りました。今ではワッチに欠かせないものになっています。このようなスピーカは、どうして「このような感じで聞こえるのか」が知りたく、以前からf特を測りたいと思っていました。そこでスピーカのf特を、測定システムとして考えてみました。測れるならば測りたいという、これも一つの病気かと・・。

正確なものは無理としてもザックリと測り、こうだから高い周波数が良く聞こえるんだとか、CW用にはこのスピーカで十分だとか、その程度が解れば私には十分です。何しろ還暦を過ぎて、耳の性能がガタ落ちです。ハイレゾのような特性を測っても私には意味なく、最近では完全にローレゾ仕様の耳です。それはNo.177のオージオメータで証明されてしまいました。

そこで以前からこの工作教室でも何回か使っていますが、「efuさんのページ」(http://www.efu.jp.net/)にあるフリーソフトのWaveSpectraを用いる事を前提として、測定用のアンプを作ってみました。アンプといっても受信機用のスピーカを測る程度しか考えていませんので、1000円以下の廉価なキットです。オーディオアンプには違いありませんが、明らかにマニアのレベルではありません。そして写真1のように、テスト用のアンプにまとめてみました。

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写真1 このようにまとめた、テスト用のアンプです。

2.測定方法

測定用のアンプを作るとして、実際には測定をシステムとして考えなくてはなりません。いくらザックリといっても、何しろf特です。周波数による音のレベルを測るのは、前述のパソコンのソフトWaveSpectraです。発振する方は、同じefuさんの作られたWaveGeneを使う事にしました。どちらも同じ場所からダウンロードできる、フリーのソフトです。これを2台のPCで、それぞれのソフトを動かしています。1台のパソコンで両方のソフトが使えるはずなのですが、どうしても上手くできませんでした。ここで止まるよりも、パソコンを2台使う方が早いと考えて進めました。多少乱暴だったかもしれません。

この測定の接続が図1になります。パソコン1でWaveGeneを動かして発振させ、オーディオの周波数をスイープします。これを測定用のアンプで増幅し、被測定スピーカを鳴らせます。この音をコンデンサマイクで拾い、パソコン2で動かすWaveSpectraで解析するという測定システムです。なお、私のパソコン環境では図1が良さそうでしたが、使用するパソコンによってはアンプ不要でスピーカ直結でも使えるかもしれません。このような測定ではマイクも重要なはずですが、これはシロウトの私に選択は無理です。とりあえず家にあるコンデンサマイクを使っています。まあスピーカほどのクセはないでしょうし、測るスピーカからすると何でも良いだろうとしました。本当はとても大事なはずです。

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図1 このようにパソコンを使用した測定システムです。パソコン1はデスクトップで、パソコン2はノートを使っています。

この時のWaveGeneの設定は、周波数を20Hzから20kHzまでをスイープさせます。音のレベルはアンプのボリューム等と関係しますので、WaveSpectraで測ってみて良さそうなところにします。スイープの時間は180秒を使いました。なお「efuさんのページ」によると、このような測定の場合、WaveGeneのスイープはLOGではなくリニアにすべきだそうです。しかし、実際にはデフォルトではLOGでスイープしているようで、これをリニアに変える方法が分かりません。WaveSpectraの設定は、かなり難解です。まず普通の測定に慣れてからなのでしょう。何しろ機能が多いので、簡単に説明する事は不可能です。私もそれほど理解できてはいません。その上で肝心なのは、Peakを押して最大レベルをホールドしておく事です。これで結果をパソコンに画像として保存する事ができます。

更に「efuさんのページ」では、1台のパソコンで両方のソフトを同期させる事で「周期スイープ」という方法が紹介されています。こちらがお勧めの方法だそうですが、私の場合はパソコンを2台にしないと動かせませんでした。本当は最初に戻って考え直す方が良さそうです。

3.作製

測定用に使うアンプですが、秋月電子の「TA8207KL ステレオ・オーディオアンプ」というキットを使いました。写真2のようなキットです。入っている部品は写真3を参照して下さい。実はこの前にも写真4のキットを試して失敗しました。失敗した理由は簡単で、図2のようなキットだったからです。出力にはスピーカを接続するだけですが、一般的に使うイヤホンジャックを安易に使ってしまいました。するとスピーカの片側が地絡してしまいます。従って電源を入れて「あれ?」と思っているうちにICが発熱して・・となった大失敗です。もちろん出力の工作を工夫し、絶縁しておけば何の問題もありません。問題があったのは、明らかに私の安易な使い方です。へそ曲がりの私は失敗したのと異なるキットを別途仕入れ、同じようにイヤホンジャックを使ってスピーカに接続したのでした。

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写真2 使用した秋月電子のキットです。

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写真3 内部に入っている部品です。

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写真4 使用に失敗したキットです。

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図2 イヤホンジャックを使うのに注意が必要な回路でした。(※クリックすると画像が拡大します。)

この新たに仕入れたキットを、取説のとおりに作りました。写真5が作った基板です。入出力には手持ちにあった基板用のコネクタを使用しました。頻繁に使うようなツールでもありません。写真6のようにアルミ板をL型に折り曲げて、上に基板を固定しました。ステレオアンプですので使うのはR側でもL側でも良いのですが、使用しない方のVRは絞っておきました。

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写真5 基板を組み立てたところです。

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写真6 アルミ板を加工して固定しました。

4.測定結果

私はオーディオに関しては全くの素人ですので、この種類の測定環境はありません。こんなものだろうと、作ったシステムです。もちろんアンプやコンデンサマイクの持つf特がありますので、誤差は相当にあると考えておく必要があります。それでも、他のスピーカとの比較なら充分過ぎると思います。その比較したスピーカも多くが小型の安物ですので、そのレベルが解るというものです。オーディオマニアであれば、間違いなく測るのに値しないものでしょう。

測定した結果、No.170で紹介した写真7のスピーカは測定結果1のようになりました。声が聞きやすいのが解ります。モービルで使うような写真8のスピーカは測定結果2のようになりました。無線機用ですが、思ったよりも低音が出ないうえにクセが強いようです。無線機の内蔵用として使えそうな写真9は、測定結果3のように以外に低音が出ている事が解りました。もう少し低音が伸びれば、無線機用としては充分なのでしょう。これでも使えそうには思えます。極端にf特の悪そうな写真10は測定結果4となりました。これはCW用には良いとしても、音声にちょっと問題がありそうです。もしかすると、高域専用なのかもしれません。私でも低い声を出すと100Hz近くまで基本波が下がります。それ以上低い音を出す必要もないのでしょうけど、測定結果4のスピーカでは声の明瞭度が良くないのも頷けます。やはり測定結果1スピーカの方が聞きやすいです。全体的には「なるほど」と思える結果でした。実際に聞いた印象と全く矛盾しません。

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写真7 No.170で紹介したスピーカです。

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測定結果1 写真7の結果です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真8 モービルで使うようなスピーカです。

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測定結果2 写真8の結果です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真9 aitendoで入手したスピーカです。

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測定結果3 写真9の結果です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真10 これもaitendoで入手したスピーカです。

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測定結果4 写真10の結果です。(※クリックすると画像が拡大します。)

このようなテストは自分で試さないと分かりません。スピーカなどは聞こえれば良いと思って、安易に小型を使っていた事を反省しました。下手をすると、音声の基本周波数が出てきません。当然明瞭度にも影響がある事と思います。クリスタルフィルタの特性を平坦にするのであれば、スピーカのf特も平坦にする事を考えるべきなのでしょう。

このように測ってみて、改めて気が付いたのが音の反射です。普段は全く意識せずにいますが、スピーカから出た音は室内のもので反射されます。それが耳に到達する時点でプラスになる波長とマイナスになる波長があるはずです。私の実験室は無響室などではなく、当然ですが反響だらけです。測定して急に減衰しているように見えるポイントが、そのマイナスになる周波数なのでしょうか。このような測定は、なるべく反射のない場所で行うべきでしょう。

5.使用感

今回はスピーカの特性を測ろうとしたのですが、パソコンが使えるような現在では案外簡単に可能である事が解りました。40年も前であれば雑誌の特性を見ているだけだったのですが、簡単に測れるというのは素晴らしい事です。「周期スイープ」も試してみたいものです。

アンプやマイクをレベルアップし、無響室で測れば精度の高い測定も可能なのだと思います。このような、素晴らしいソフトをフリーで提供されておられる「efuさん」に改めて感謝します。