1.はじめに

No.196のマイクロワットメータ3は外部の基準で校正するという機能で、実に上手く動きました。これに少々悪ノリをして、次はダイオード検波で作ってみようとしました。AD8307ではレンジは広く取れるのですが、精度に難点があると考えたからです。No.200No.202で実験を重ね、実際に途中まで組み立てました。ケースの穴あけをして仮組そして動作チェックまで進めました。ところが、ここで問題点が発生しました。ここまで進めないと解らない問題でした。-50dBmまで測れ、同じダイオードを使ったNo.162のマイクロワットメータよりもレンジが拡大しました。これで充分なのですが、時間と共にノイズレベルがズレてしまいました。再調整をしても、またズレてしまいます。-40dBmであれば何とかなりそうなのですが、ここまで来ると「これで完成」というのは気が進みません。そこで、取りあえずこのマイクロワットメータ4は一度お休みにする事にしました。決して諦めたつもりはありません。

スライドさせて先に作ろうと考えたのが、ずっと簡単にできる「はず」だったミリワットメータです。ところが作ってみると簡単ではなく、別の問題がありました。トラブルを何とか解決し、写真1のような-15~+25dBmを測るミリワットメータにまとめました。穴あけ済のケースはそのまま引き継ぎました。No.196と同様に0dBmの基準を内蔵させて、校正できるようにしています。

写真1 このようにまとめたミリワットメータ

2.ダイオードの特性

No.162でも紹介しましたが、ダイオードの特性は図1のようになります。JA1ATI逸見OMがハムジャーナルNo.79に書かれた記事が元になります。よく見ると-10dBm付近で「へ」の字のように曲がります。この左側の直線部分を使い、究極まで小さいレベルを測ろうとしたのがNo.162であり、未完成のマイクロワットメータ4でした。この「へ」の右側を使ったミリワットメータはもっと簡単に作れるだろうと、これも別に計画していました。

図1 ダイオードの特性を測定したもの (No.162で使った図)

図1の特性ですし、実際にNo.162では直線として使っています。この右側も直線と思っていましたので、0dBmで校正すればちょうど良いミリメータが作れるはずです。簡単に作製し、このテーマは終わると思ったのが大きな間違いでした。仮組で作製して測ってみると大きくズレが生じました。しかも、ダイオードを変えると挙動が大きく変わります。No.162では「へ」の左側を使っていたため基本的に特性は同じでしたが、右側は全く異なるようです。そこで、ダイオード毎に特性測定をしました。その一部が図2になります。これはSMAサイズの検波器に入っていた、由緒ありそうなダイオードを取り出して測ったものです。横軸が入力で縦軸はA/D変換の出力になります。図2は直性になってくれると思っていたのですが、「へ」の右側はカーブするようです。よく見ると、図1の右側も同じようにカーブしているように見えます。従って直線としては扱えず、No.162の計算方法は使えません。逆に多少「へ」の左側になっても使えそうに思えたのがニヤリとした部分です。結局このダイオードを使う事にしました。

図2 「へ」の右側は、このようにカーブ

そこで、測定した結果をエクセルでグラフにしてみました。まず、IC-7300Sの出力を7MHzのCWとして、出力を10%に設定します。1Wの出力を電力計で確認しました。これにNo.192の固定アッテネータとステップアッテネータを用いて+27~-13dBmの信号を作りました。このレベルはスペアナや他の測定器を総動員して確認しています。この信号をダイオードで検波し、16ビットのA/Dコンバータに入れて結果を記録しました。次にこの結果をエクセルに投入し、各々の値を自乗します。A/D変換の結果は電圧ですが、電力にするにはP=V2/Rなので自乗になります。そして0dBmの時のA/D変換した結果を使い、10×LOG10(測定値の自乗 / 0dBmの測定値の自乗)を計算します。正にdBmの計算式になります。ダイオードで検波した電圧がリニアに変化すれば、これで正しいdBmの値が算出できるはずです。設定したdBm値と、計算したdBm値を比べたのが図3となります。このような誤差が出てしまいました。縦軸が入力したdBm値で、横塾がA/D変換からの計算値です。図2と図3は縦軸と横軸が逆になっていますので、曲がり方が逆です。そこでエクセルの機能を使って、「近似曲線の書式設定」を選びます。一番合致しそうな式で補正する事にし、良さそうだったのが「多項式近似」で次数は「2」でした。この図3にはその式が表示されています。赤いラインが近似式ですので、ほぼピタリと合いました。但し、この式はダイオードを交換すると変わってしまいますので、個別のものになってしまいます。図2と図3について縦軸と横軸を逆にしたのは、この近似式をエクセルで出す目的からです。このようにする事で0dBmによるキャリブレーションと、dBm値への計算と補正を行っています。

図3 入出力の特性

ちなみに秋月電子で入手した1SS154では図4のようになりました。ゲルマでは図5のようになりました。どちらでも使う事は可能と思います。近似式も表示していますが、どの程度の精度となるのかは不明です。これらの図の上下の離れた位置に測定点があります。近似式が不自然に曲がらないように故意にデータを追加したもので、測定した値ではありません。

図4 1SS154では大きくカーブ

図5 ゲルマではこのように

3.回路

No.196と同じ流れですので、似たような回路の図6となりました。センサーをAD8307からダイオードに変更しただけです。ダミーとしては100Ωの1/2Wを2本パラにしています。51Ωでも大差ないのですが、気持ちの問題程度でしょう。入力は最大で0.5W程度となり、QRPp用とすればちょうど良いあたりになりました。ダイオードで検波した直流信号を16ビットのA/Dコンバータで測り、それをソフトで処理してLCDに表示させるだけです。

図6 回路図

基準として48MHzの0dBmを内蔵し、それで校正ができるようにキャリブレーションのスイッチを設けています。No.196と同様に、HPの437Bが基準の大元になります。437Bと同様に50MHzを使いたいところですが、発振器の入手によって48MHzを使っています。大差はないと思いますが、やはり50MHzを使いたかった部分です。
 

4.作製

LCDを含むCPUの部分は図7の実装図を作製し、ハンダ付けを行いました。図8がハンダ面となります。図9はジャンパーになります。部品を付けた様子が写真2となります。このハンダ面が写真3となります。

図7 CPUの部分の実装図

図8 実装図のハンダ面のレイヤー

図9 実装図のジャンパーのレイヤー

写真2 CPUの基板に部品を取り付けた様子

写真3 ハンダ面

検波部は写真4のように、真鍮のワイヤーを使って配線してみました。そのままBNCコネクタごとケースにネジ止めしました。このような方法ですので実装図は作っていません。もちろん真鍮である必要は全くありません。銅線でもスズメッキ線でも良いと思います。生基板を使っても良いと思います。写真5のような真鍮線がダイソーで入手できたので使ってみただけですが、この真鍮はハンダの乗りが悪く考えものでした。

写真4 検波部分は真鍮のワイヤーを使用

写真5 ダイソーで入手した真鍮

途中での測定になりますが、100Ωを2個パラにした時のリターンロスが測定結果1になります。ダイオードは付けていませんので、完全なダミー状態として測っています。ダイオード等を付けてから測ったのが測定結果2です。50MHz以下では少々悪化したのですが、60MHz以上では不思議に良くなりました。最悪でもリターンロスが47dBありますのでSWRは1.009となり、50MHz以下では全く問題ありません。144MHzでは50dBありますので、SWRは1.006となります。430MHzでも27dBありますのでSWR1.094となります。ダミーのような測定は、SWRよりもリターンロスの方が良し悪しを明確に表せますので便利です。

測定結果1 ダイオード無しの状態でのリターンロス

測定結果2 ダイオードを付けた時のリターンロス

基準発振器の実装図は図10となります。図11がハンダ面になります。これはNo.196とほぼ同じで、写真6のように作製しました。半固VRには多回転を使用しましたが、普通のもので充分と思います。

図10 基準発振器の実装図

図11 ハンダ面

ケースは未完のマイクロワットメータ4からの流用という事情があり、多少大きめのYM-150になりました。内部の様子は写真7のようになりました。スイッチ類を上蓋に取り付けますので、上下間の配線が写真8のように必要になります。48MHzで0dBmの基準発振器は、写真9のようにBNCコネクタをネジ止めする事でケースに固定しました。調整がやり難いのですが、ワイヤーの取り回しを優先しています。蓋を閉じたところが写真10になります。この状態で更に動作チェックを行い、テプラで表示をしました。裏側からは写真11のようになります。

写真7 ケース内部の様子

写真8 ケースの上下間の配線

写真9 基準発振器はBNCコネクタで固定

写真10 閉じるとこのように

写真11 テプラで表示して完成

5.ソフト

いつもの方法ですが、BASCOM AVRを使っています。上手なソフトとは思えませんが、ここに置いておきますので参考にして下さい。

前述のようにA/D変換した値からdBm値を計算し、更に近似式で補正してLCDに表示しています。dBm値よりW値を計算し、合わせて表示しています。ダイオード毎に測定して近似式を書き換えなくてはなりません。これは一般的ではないのですが仕方ありません。近似式の部分を図12に示します。この部分を変更する必要が出てきます。

電源をONにすると、校正を促すように「SET 0dBm」と表示します。0dBmの基準をONにして入力し、CALのボタンを押下する事で校正が完了します。再度校正する場合には、CALボタンを押下します。再び「SET 0dBm」と表示されますので、同様の操作で校正を行います。

なお、PCの環境はWINDOWS XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmk2ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。
 

図12 近似式

6.使用感

思ったよりも使い勝手の良いレベルメータとなりました。-50dBmを目指すのも良いとは思いますが、実際に測る事が多いのはもう少し高いのでしょう。-15~+25dBmというレベルは使いやすいと思います。入力に10dB程度のアッテネータを使えば、更に使いやすいかもしれません。但しNo.196のマイクロワットメータ3とは異なり、アッテネータを入れてキャリブレーションすると誤差が大きくなります。補正の方法をもう少し考えれば何とかなりそうです。QRPの送信機なら、これ一台で全部済んでしまいそうです。このソフトで理想的とは全く思いませんが、使いやすいです。

上手くない点が校正の方法にあります。0dBmの基準で校正し、そのまま基準を測ると測定値は0dBmにならなくてはなりません。ところが、これが+0.1dBmになってしまいます。これは計算した値を近似式で補正してしまうためで、ここで誤差を作るのは上手くありません。改善の方法はありそうですので、何とかしたいと思います。