大規模な災害が発生したとき、最初に困るのが「連絡手段がなくなる」ことです。普段頼りにしているスマートフォンが、災害時にはつながらなくなるケースは少なくありません。本記事では、災害時でも使える連絡手段を7つ比較し、用途に合わせたおすすめの製品まで解説します。自治体・企業のBCP担当者から、個人で防災対策に取り組む方まで、「いざというとき」の備えにお役立てください。
この記事の目次
災害時、なぜ携帯電話・スマホがつながらなくなるのか
携帯電話・スマートフォンがつながらなくなる原因はおもに3つです。
- 基地局の損壊・停電
携帯電話は基地局を経由して通信するため、地震・洪水・停電で基地局が機能を失うと通信が途絶えます。
- 回線の混雑(輻輳)
災害直後は多数の人が一斉に通信しようとするため回線が飽和するため、通信各社がアクセスを制限することがあります。
- バッテリー切れ
停電が長引くと充電できなくなり、携帯電話やスマートフォン自体が使えなくなります。
携帯電話は「通信インフラが正常に動作していること」を前提とした機器です。通信インフラ自体が被災する災害時こそ、携帯電話以外の連絡手段が必要になります。
携帯電話以外で使える災害時の連絡手段7選【比較表】
携帯電話が使えなくなった場合に頼れる連絡手段を7つ紹介します。それぞれの特徴と注意点を把握し、状況に応じて使い分けることが重要です。
| 手段 | インフラ依存 | 免許・登録 | 双方向のやりとり | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 災害用伝言ダイヤル(171) | 固定・携帯回線 | 不要 | △(録音・再生) | 安否確認の伝言を録音・再生。回線が使えれば有効 |
| 災害用伝言板(web171) | インターネット | 不要 | △(文字) | ネット経由で安否情報を登録・確認 |
| 00000JAPAN | Wi-Fi環境 | 不要 | ○ | 災害時に開放される無料Wi-Fi® |
| SNS・LINE安否確認 | インターネット | 不要 | ○ | LINEの「安否確認」機能は低通信量で送信可能 |
| 公衆電話 | 固定回線 | 不要 | ○ | 災害時は無料開放。固定回線が使えれば有効 |
| 衛星電話 | 衛星回線 | 不要※ | ○ | インフラに依存しない通信方式。ダイヤル式で操作がやや複雑 |
| 無線機(トランシーバー) | 不要 | 種類による | ○ | 端末同士が直接通信。携帯インフラに依存しない |
衛星電話は免許不要ですが、事業者との契約および総務省への届出が必要な場合があります。
災害用伝言ダイヤル(171)
NTTが提供する音声伝言サービスです。固定電話や携帯電話から「171」に電話し、被災地の電話番号をもとに安否情報を録音・再生できます。回線自体が使えれば利用可能で、通話が混雑しているときでも比較的つながりやすい傾向があります。
災害用伝言板(web171)
インターネットを通じて安否情報を文字で登録・確認できるサービスです。スマートフォンがインターネットに接続できる状態であれば利用でき、家族や知人が遠方から安否を確認するのに役立ちます。
災害用統一SSID「00000JAPAN」
大規模災害時、通信各社やコンビニ・公共施設のWi-Fiスポットが「00000JAPAN」というSSIDで無料開放されます。パスワード不要で接続でき、SNSやメッセージアプリが使える状態になります。
SNS・LINE安否確認
LINEの「安否確認」機能は通常のメッセージより少ない通信量で動作するため、回線が不安定な状況でも送受信できる可能性があります。SNSへの投稿は広範囲に情報を拡散できる利点もあります。
公衆電話
固定回線を使う公衆電話は、災害時に無料開放されます。携帯基地局がダウンしていても、固定回線が使えれば通話できます。ただし、公衆電話の設置数は年々減少しており、場所を事前に把握しておくことが重要です。
衛星電話
人工衛星を経由して通信するため、地上のインフラがダウンした状況でも使用できます。しかし、ダイヤル式で操作がやや複雑な点がデメリットです。なお、無線機タイプの「衛星通信トランシーバー」はボタン一つで使える別カテゴリの機器で、後述します。
無線機(トランシーバー)
携帯電話網や固定回線に依存せず、端末同士が電波で直接通信します。インフラが被災した環境でも安定して使えるのが最大の強みです。種類によって通信距離や免許の要否が異なります。詳しくは次章で解説します。
携帯電話・スマホと無線機、災害時に強いのはどっち?
連絡手段を選ぶ上で重要な視点が「通信インフラへの依存度」です。災害時はそのインフラ自体が被害を受けるケースが多く、依存度が高い手段ほど使えなくなるリスクが高まります。いざというときに「つながらない」とならないよう、インフラに頼らない手段を確保しておくことが重要です。
通信インフラに依存する手段 / 依存しない手段の違い
上記7つの手段を大きく分けると、「通信インフラが必要な手段」と「インフラが不要な手段」に分類できます。
- インフラが必要
スマートフォン、携帯電話、SNS、web171、00000JAPAN
- インフラが不要(または低依存)
公衆電話(固定回線のみ)、衛星電話・衛星通信トランシーバー、無線機
災害時にはインフラ自体が被害を受けるケースが多いため、インフラに依存しない手段を確保しておくことが防災の基本です。
無線機が「災害時に役立つ」と言われる理由
無線機(トランシーバー)は基本的に、携帯電話の基地局や、インターネット回線を使わず、端末同士が電波を直接やり取りすることで通信します。そのため、通信インフラが被災・停電・混雑した状況でも影響を受けません。
また、PTTボタンを押すだけで即座に通話が始まるため、「ダイヤルして、呼び出し音を待って、相手が出るのを待つ」という電話特有の手順が不要です。複数人と一斉連絡ができるので、避難誘導や安否確認の場面で威力を発揮します。
結論として、災害時のコミュニケーションという観点では無線機に優位性があります。災害時の通信手段に、無線機を「もう一本の柱」として備えることを検討してみてください。
災害時に役立つ無線機の種類と選び方
一口に「無線機」といっても、種類によって通信の仕組みや用途が大きく異なります。使う目的やシーンごとに、有効な通信手段を整理して紹介します。
自治体・企業のBCP担当者向け:簡易無線・ハイブリッド・衛星通信トランシーバー
組織的な防災・BCP対策には、広域をカバーし冗長性の高い通信網の構築が求められます。アイコムでは以下の製品を提供しています。
■デジタル簡易無線機「IC-DPR7S PLUS」
端末同士で直接通信できるトランシーバー。お互いの電波が届く範囲であれば通話が可能で、災害時に携帯電話がつながらなくなった場合でも安定して使えます。
■ハイブリッドIPトランシーバー「IP700PLUS」
LTE回線と簡易無線の2つの通信方式を搭載。携帯電話回線が不通になっても、端末同士の直接通信に切り替えて使用できます。
■衛星通信トランシーバー「IC-SAT100」
衛星回線を経由するため、離れた拠点とも通信ができ、地上の通信インフラが停止した状況でも利用できます。ボタン一つで通話できる無線機タイプのため、使い慣れた操作性のまま、衛星通信の冗長性を確保できます。
これらを組み合わせることで、「携帯電話回線が使える間はIP通信、ダウン時はハイブリッドへ切り替え、最悪の場合は衛星で確保」という多層的な通信網を構築できます。
個人・地域コミュニティ:デジタル小電力コミュニティ無線
家族や地域コミュニティでの防災通信には、アイコムの「IC-DRC1MKⅡ」(デジタル小電力コミュニティ無線機)がおすすめです。
免許・登録申請・通話料がすべて不要で、購入したその日から誰でも使えます。市街地で約500m〜2kmの通話範囲を確保。GPS機能を搭載しており、通話相手の方向・距離を画面に表示できるため、避難時の家族の見守りにも役立ちます。また、FMラジオ受信機能を内蔵しているため、停電中でも災害情報の収集が可能です。USBで充電できるため、モバイルバッテリーとの組み合わせで長時間の使用にも対応します。
町内会や自治会の防災訓練でも導入されており、「地域全体で備える」ためのコミュニケーションツールとしても活用されています。
無線機を選ぶときに確認したい3つのポイント
- 通信インフラへの依存度
携帯電話回線が止まった場合に備え、インフラに依存しない手段との組み合わせが重要です。
- 免許・資格の要否
デジタル小電力コミュニティ無線や特定小電力トランシーバーは免許不要。業務用無線機は登録・免許が必要な場合があります。
- 通信距離とカバー範囲
使用シーン(家族間・避難所内・広域エリア)に合わせて選びましょう。
【導入事例】無線機を実際に災害対策として活用しているケース
実際にアイコムの無線機を防災目的で導入した自治体の事例を2件紹介します。
東京都奥多摩町:山間地域の情報孤立を解消
都内最大の面積を持ち、山間部が多い奥多摩町では、携帯電波が届かないエリアの住民が災害時に「情報孤立」するリスクが課題でした。
消防団の幹部にはハイブリッドIPトランシーバー(IP700)を配備し、衛星通信トランシーバー(IC-SAT100・IC-SAT100M)で電波の届かない山間エリアをカバー。「使い慣れた無線機と同じくボタン一つで通話できる」操作性が採用の決め手となり、低コストで防災行政無線に相当する通話エリアを確保しました。
千葉県南房総市:災害後の通信手段を抜本的に見直し
大型台風の被災後、通信手段を見直した南房総市では、インフラに頼らず使える簡易業務用無線機(IC-DPR7SBT)を地域センター・避難所・消防団に配備。
IPトランシーバー(IP502H)を消防団幹部に、ハイブリッド機(IP700)を分団長クラスに導入しました。さらに市役所の対策本部と遠方の避難所間には、衛星通信トランシーバー(IC-SAT100)を採用し、「どんな状況でも情報共有できる」多層的な通信体制を確立しました。
まとめ
災害時、携帯電話・スマートフォンは基地局の損壊・回線混雑・バッテリー切れによって機能しなくなるリスクがあります。だからこそ、携帯電話以外の連絡手段を事前に把握し、備えておくことが重要です。災害用伝言ダイヤルやSNSなど手軽な手段と並んで、インフラに依存しない無線機は、組織的な防災からご家族の安全確認まで幅広いニーズに対応できる信頼性の高い選択肢です。
アイコムでは中高生を対象に、本記事内でもご紹介したデジタル小電力コミュニティ無線を使った防災訓練プログラムを実施するなど、無線機の普及を通じた地域防災への取り組みも行っています。
用途に合った製品を選び、「いざというとき」に確実につながれる環境を整えましょう。
