

トランシーバーを導入しようとしたときに、気になるのが通信距離です。選んだトランシーバーが必要な範囲で通話できるものか、また、必要以上にハイスペックな機種を選んでしまっていないか、なかなか判断がむずかしいかもしれません。
この記事では、トランシーバー選びの参考になる、トランシーバーの通話距離を決める3つの要素「無線機の種類」「送信出力」「使う場所の環境」のほか、距離別のおすすめ無線機や通信距離を延ばす方法を解説します。
この記事の目次
通話距離は無線機の種類で変わる
トランシーバーの通話距離を左右する最も大きい要素は、無線機の種類です。トランシーバーにはいくつかの規格があり、同じような形をしていても、種類によって通話距離がまったく違います。
以下は、トランシーバーの種類と通信距離、送信出力、免許・登録の必要性の違いです。
種類 | 通信距離 | 最大送信出力 | 免許・登録 | |
---|---|---|---|---|
市街地 | 見通しの良い場所 | |||
特定小電力トランシーバー | 約200m~500m | 約2km | 0.01W | 不要 |
デジタル小電力コミュニティ無線 | 約200m~500m | 約3km | 0.5W | 不要 |
デジタル簡易無線機 | 約500m~1km | 約1km~4km | 5W | 必要 |
IPトランシーバー | 日本全国(携帯電話の通信圏内) | - | 不要 | |
無線LAN(Wi-Fi)トランシーバー | 同じネットワーク内 | - | 不要 | |
衛星通信トランシーバー | 地球上のほぼすべての場所 | - | 不要 |
大きく分けると、トランシーバー同士で直接電波をやりとりするものと、携帯電話回線のようにいったんほかの通信経路を経由して通話するものがあります。また、通話距離の短いものほど、手軽に、ローコストで使える傾向があります。
電波をやりとりするタイプ
■特定小電力トランシーバー(最大送信出力:0.01W)
免許や登録手続きの必要がなく、買ってすぐに使える手軽なトランシーバー。屋内なら数十メートル、屋外でも数百メートル離れていても通話できます。
■デジタル小電力コミュニティ無線(最大送信出力:0.5W)
こちらも、買ってすぐに使える手軽なトランシーバーで、特定小電力トランシーバーの50倍の出力となり、4・5階建ての建物内ぐらいであれば十分通話できることが多いです。
■デジタル簡易無線(最大送信出力:5W)
登録手続きだけで使えるトランシーバーです。購入後、書類を提出するだけのかんたんな登録手続きと、年間400円※の電波利用料が必要ですが、かなり強力な電波を出せるため、ワイドな通話エリアを確保できます。屋内と屋外などの通話も可能で、見通しがよければ屋外だと5km以上の通話が可能なこともあります。
2025年2月現在
他の通信経路を使うタイプ
■IPトランシーバー
通話に携帯電話回線を利用するトランシーバーです。販売業者による通話設定と、月々の携帯電話回線利用料(多くは1800円※~)が必要。電波の強さは携帯電話と同様で小さいですが、携帯電話の電波が入るところであれば通話できるので、ほぼどことでも通話できます。
2025年2月現在
■無線LAN(Wi-Fi)トランシーバー
スマホやパソコンが通信するWi-Fi®の電波を使って通話できるトランシーバーです。同じネットワーク内であれば、アクセスポイントを通じてつながる無線LAN(Wi-Fi)トランシーバー同士が通話することができます。利用料はかかりません(ネットワーク回線の利用料は除く)。携帯電話の電波が届かない倉庫の中などでの利用も可能です。
■衛星通信トランシーバー
人工衛星を経由して通話をするトランシーバーです。衛星電話のように、地球上のほぼすべての場所で通話できます。使用エリアの広さによって決まる月額料金が必要ですが、通話料金もそのなかに含まれることが多いです。
通話距離はアンテナの長さによって変わる
アンテナが長い機種ほど、電波を受信しやすいです。一方で、アンテナが長すぎると持ち運びに不便という側面もあります。とくに、特定小電力トランシーバーは、アンテナの付け替えができないものがほとんどですので、アンテナの長さは慎重に選びたいものです。
ちなみに、アンテナの長さは、ただ長ければよいというものではなく、そのトランシーバーが出す電波の周波数に合わせて適切な長さがあります。周波数に合わない長さのアンテナを使うと、本来の通話距離が出なかったり、トランシーバーの故障に繋がることもあります。とはいえ、多くのトランシーバーは、最適な長さのアンテナが付属していますので、あまり心配することはありません。
通話距離は周囲の環境によって変わる
無線機の電波は、無線機同士のあいだに障害物があると届きにくくなります。床やビルの壁がその代表的なものです。とくに、金属やコンクリート、水槽などの水のかたまりは、電波をとても通しにくいです。したがって、入り組んだ建物内での通話や、地上階と地下階などの通話は、高出力でも届きにくい傾向があります。
逆に、ガラスは電波を通しやすいので、ビルの上層階と下層階でも、窓の近くに立って話すと通話できる……というようなケースもあります。
中継器で通話距離を延ばすことも可能
特定小電力トランシーバーや、一部のデジタル簡易無線機は、専用の中継器があるものもあります。無線機同士が直接電波の届かない位置にあっても、中継器まで電波が届けば通話することができます。2階建てのレストランで、1階と2階で通話できない…というケースでも、階段に中継器を設置することで通話できるようなケースもあります。
距離別おすすめトランシーバー
各ジャンルから、おすすめのトランシーバーをご紹介します。
特定小電力無線

IC-4400/IC-4400L
コンパクトで軽量、なおかつ防水・防塵のタフなトランシーバー。ニーズに合わせて選べる、ロングアンテナバージョンとノーマルバージョンがラインナップされています。店舗内連絡などに最適。中継器にも対応しています。
デジタル小電力コミュニティ無線

IC-DRC1MKII
免許手続きなどが要らないのに高エリアをカバーする出力が魅力。屋外でのイベント運営や、学校など数階程度の建物内での通話に最適。FMラジオ機能も付いているので、いざというときの防災用途にも。
デジタル簡易無線

IC-DPR7S PLUS
5Wの高出力で、5km圏内程度をカバー。建物の内外でも余裕で通話できることが多く、幅広い用途で使える無線機です。かんたんな無線機の登録手続きは必要ですが、ワイドな通話範囲はその手間に十分応えるものです。
IPトランシーバー

IP502H
ここ数年急激に導入が進んでいるのが、このタイプのトランシーバーです。通話エリアが広いことはもちろん、相手の送信が終わらなくても電話のように同時に話せるなどの魅力も。月々の回線使用料がかかりますが、オールラウンドで使える便利さ。
無線LAN(Wi-Fi)トランシーバー

IP110H
会社内や広大な工場内で連携をとりたいとか、無線の電波が届きにくい地下駐車場と地上の事務所で通話したいというようなケースでおすすめ。パソコン用にも使えるアクセスポイントを経由して、地上と地下でも気にせず通話できます。しかも、IPトランシーバーのようなキャリア回線利用料(ランニングコスト)もかかりません。
衛星通信トランシーバー

IC-SAT100
通話距離という意味では、最強ともいえるトランシーバー。国をまたいでも通話が可能なほか、通信インフラのない海上や砂漠などの未開拓地でも信頼できるものです。いざというときのBCP用途などにもおすすめ。
業種別のトランシーバーの使用例
種類ごとの通話距離についてご理解いただけたかと思いますが、実際に使用する現場によって環境はさまざまです。
業態別のトランシーバー・無線機の使用例を以下のページにまとめていますので、ご自身の使用環境に近いトランシーバーの使用例も参考にしてください。
まとめ
トランシーバーは、種類によって通信可能な距離が異なり、周りの環境にも影響を受けます。使用する業種や目的、環境を確認して、最適な通信距離のトランシーバーを選ぶことが大切です。
アイコムは総合無線通信機器メーカーとして、さまざまなトランシーバーを提供しており、多くの企業や団体に導入いただいております。お客様のニーズに応じたトランシーバーをご提案が可能です。お気軽にお問い合わせください。
記載の通信距離は目安です。記事にあるように、無線機の使用環境などによって通話できる距離は変動します。