アマチュア無線と社会貢献  米国

世界一のアマチュア無線大国、米国ではアマチュア無線家の災害支援、ボランティア活動、お祭り、マラソン大会等の各種地域イベントへの参加は日常的に行われています。ARRL(American Radio Relay League)においても「Use Your License to Serve the community」(あなたの免許をコミュニティへのサービスに使おう)と積極的に、これらの活動を推奨しています。ここでは、米国における様々な組織を通して、米国での社会貢献の実情をご紹介します。 

ARES(Amateur Radio Emergency Service)

1935年に発足した、アマチュア無線家による緊急時の通信サービスを提供する組織です。FCC (Federal Communications Commission/米国連邦通信委員会)の規則に「ボランティアとして公共に対するアマチュア業務の価値の認識と増進、特に非常時における通信の提供において…」と明確に規定されていることからも、非常通信の社会的な役割とその取り組み方が理解できます。2005年8月末の大型ハリケーン「カトリーナ」における災害復興では、ARESは数百人のボランティアのアマチュア無線家とともに、重要な通信支援を提供。被災地で、電力供給がなく、電話回線や中継施設などの通信システムがダウンしている状況で、電池や発電機で動かせるアマチュア無線機器が大きな役割を果たしました。

SKYWARN

米国海洋大気庁(NOAA:National Oceanic and Atmospheric Administration)の下部組織である米国気象局(NWS:National Weather Service)を核に設立されました。市民からの情報提供の仕組み(スポッター制度)を持ち、寄せられた情報を観測情報に含め有効活用しています。もっぱら天災に対する防災・減災を目的とする組織となっており、その中で、アマチュア無線は通信連絡媒体の一つという位置付けとなっています。SKYWARNの仕組み等で得られた気象情報は、NWSによる警報等の発表、自治体が設置するサイレンによる周知や、NOAA(米国海洋大気庁、日本の気象庁に相当)が運営するWeather channelによる放送、報道機関や民間気象業者を通じた情報の提供に利用されています。 

MARS(Military Auxiliary Radio System:軍用補助局)

1925年創設以来、数々のシーンで活躍しています。2010年のハイチ大地震での救援活動が広く知られています。「軍」は3つに大別され、陸軍/海軍・海兵隊/空軍となっており、いずれもアマチュア局の免許を保有して活動しています。

なお、ARRLではこれらARESやSKYWARNなどの活動に模範的な業績と貢献を行った21歳以下のアマチュア無線家を表彰する制度(ハイラム・パーシー・マキシム記念賞)を運用し、アマチュア無線家の活動を支えています。

また“Public service” の視点からARRLの機関誌QSTで”PSHR”(Public Service Honor Roll) という顕彰制度を運用しています。各種の社会貢献活動に参加したアマチュア無線家、アマチュア無線団体についてポイント制を導入し、そのスコアを公表しています。

米国のアマチュア無線家の団体であるARRLはその創立時のポリシーからも、日本の電波法で謳われる「公共の福祉」を明確に認識しており、非常時のコミュニケーションに関し、常日頃から意識しています。
日本では「アマチュア業務」は電波法施行規則で定義されており、限定的な定義である中、有事に有益な通信手段として、先人が数多くの実績を積み重ね、今日の「アマチュア無線の社会的貢献活動」という総務省の指導につながっています。

アマチュア無線大国としての米国における仕組みをいくつか紹介しましたが、ITU(International Telecommunication Unionとしてはアマチュア無線を“A gateway to STEM experience”とみなしています。“STEM”とはscience, technology, engineering, and mathematics です。代表的な事例としてはARISS school contactです。これはISS(国際宇宙ステーション)で活動中の宇宙飛行士と地上の子どもたちがアマチュア無線を通信ツールとしてコミュニケーションを図り、もっぱら子どもたちの質問に宇宙飛行士が答えるものです。ご存じのようにISSは上空約400kmの地球周回軌道上にあるため、ISSが地平線上に現れ地平線下に消える5分程度しか通信ができません。このような環境下で、大人のサポートを受けながら、子どもたちが大きな経験、貴重な体験をしています。

このARRIS school contactは世界各国で行われ、日本もこれまで多数実施されています。もちろん、通信相手は日本人宇宙飛行士とは限らないので、子どもたちが英語で交信することになります。STEMのみならず、外国語への入り口ともなっているのです。先進国では大きな問題となっている高齢化社会において、このような次代を担う人材の育成も、社会的貢献活動の一つとなっていると言えます。