トランシーバー(無線機)とは?種類や選び方、メリットを解説
トランシーバー(無線機)とは
トランシーバーは、人と人をつなぐコミュニケーションツールです。携帯電話やスマートフォンが普及した現代も、トランシーバーを使う人は減るどころか、ますます増える傾向にあります。たとえばレストランで、空港で、イベント会場で。消防など命に係わる業務をサポートしていることもあります。これは、トランシーバーがほかに代えられない便利さを備えていることを示しているともいえるでしょう。ここでは、スマートフォンや携帯電話と比べながら、その特長をご紹介します。
トランシーバー(無線機)のメリット
一度に多くの人に同じ情報を伝えられる
もっとも大きな特長が「同報」できることです。ボタンを押して一度話すだけで、多くの人に同じ内容を伝えることができます。携帯電話だと、一人ひとりに電話をかけ続けなければいけません。同報できるからこそ、多くの人と情報をすばやく共有することができるのです。また、直接自分に関係がない情報でも同報することで全体の進行を全員で把握できるので、適切なタイミングで準備ができたり、次の場面を踏まえた対応を素早く取れるという効果もあります。
ランニングコストが低い
携帯電話を使うには、毎月の回線使用料や通話の都度、通話料がかかります。
トランシーバーの多くは、通話にランニングコストがかからないか、年に数百円のわずかな費用で通話することができます。
ほかのインフラに依存しない
携帯電話はキャリアが設けた中継局に電波を飛ばすことで通話しています。
たとえば、インフラが普及していない山奥や離島、海上などでは中継局まで電波が届かず、通話できないこともあります。
また、万一の大災害時に、電力設備や通信設備が被災すると、とたんに通話が困難になります。
端末同士が直接やり取りするタイプのトランシーバーなら、お互いの電波が届く限りどこでも通信することができますし、インフラに依存せずに通信できるので、いざというときのライフラインとしても有用です。
トランシーバー(無線機)の種類と選び方
トランシーバーとひと口に言っても、種類はさまざま。目的を実現するのにもっとも適した1台を選ぶことになります。
用途・距離・機能の3点を見ていくことで、おおよそ選ぶことができます。トランシーバーを扱う販売店に相談するのも手軽です。
1 用途
無線機のなかには、特定の業務専用のものがあります。アイコムのサイトで、つぎのジャンルに分類されている無線機は、用途がきまっているものです。
使う目的が以下のものに当てはまるか、まずは確認してみましょう。
各種業務用無線機
命に係わる消防や救急に関わる連絡や、電気やガス・水道といったライフラインを維持・管理するための連絡用の無線機です。ほかの通信に妨げられないよう、特別なチャンネル(周波数)が割り当てられています。これらの無線機は、用途が限られていて、一般の方は扱うことができません。
海上通信機器、航空無線機
航空機や船舶の安全運航のために使う無線機です。なかには、自動車の免許と同じように、扱う人に免許が必要なものもあります。
アマチュア無線機
趣味として楽しむための無線機です。電波法という法律で、業務連絡や仕事での利用は原則として禁じられています。
使用には、自動車免許のように国家試験にパスして操作資格を得たり、無線機が正しく設備されていることを示す免許が必要です。
これらの用途以外で無線機を使うのであれば、つぎは、通信したい距離で選んでいきます。
2 距離
無線機は、その通信方式や規格によって、通信できる距離が大きく変わります。カバーしたいエリアの広さや特徴で、選ぶ無線機の「ジャンル」を決めることができます。
特定小電力トランシーバー
もっとも手軽で、数百メートル程度の範囲をカバーする無線機のジャンルが「特定小電力トランシーバー」です。
通信距離が短いかわりに、面倒な手続きや免許も必要とせず、買ったその瞬間から自由に使えます。
小電力デジタルコミュニティ無線機
同じように気軽に使えるのが、2018年に新たに生まれた「小電力デジタルコミュニティ無線機」です。これは、特定小電力トランシーバーより強い電波を出し、屋外であれば1km程度の距離を結ぶ通信が可能です。こちらも買ってすぐに使えます。
デジタル簡易無線
さらに広いエリアでのコミュニケーションが必要であれば「デジタル簡易無線」を検討してください。機種によって電波を飛ばす強さが異なりますが、1~数キロ程度の距離であればほとんどのデジタル簡易無線機で通信できるでしょう。ただし、強力な電波を出す無線機ですので、無線機を使う前にかんたんな登録手続きや免許手続きが必要となります。
ここまでは、無線機同士が直接通信するタイプの無線機です。さらに広い通話エリアが必要なときは、まったく異なる方法で通信する無線機を使うことになります。
IPトランシーバー
日本全国をほぼカバーできるのが「IPトランシーバー」です。IPトランシーバーは、携帯電話の回線を使って通信するので、携帯キャリアの電波があるところであればどこでも通話できます。無線機同士が直接通信するタイプのものは、地下と地上など、電波をさえぎるものがあると通話しにくいという弱点がありますが、IPトランシーバーなら問題ありません。携帯電話が「圏外」になるところでなければ、どこにいても連絡することができます。
衛星通信トランシーバー(Satellite PTT)
さらに、海や国境を越えて世界中をカバーしたいなら「衛星通信トランシーバー(Satellite PTT)」がおすすめです。人工衛星を中継して通話するので、衛星が見える場所同士なら、地球のどこからでも連絡をとることができます。
無線LANトランシーバー
また、電波が届きにくい入り組んだ建物内や鉄扉で囲われた密室など、直接通信も厳しく携帯電話も入らないような場所と通信したいなら「無線LANトランシーバー」もおすすめです。パソコンやスマートフォンを接続するアクセスポイントで電波を中継して、同じLAN配下にあるアクセスポイントから電波を伝えて通信するものです。
必要な通信エリアから、無線機のジャンルを選ぶことができたら、いよいよ機能で選びます。
3 機能
無線機を選ぶ最後の決め手は、機能です。機能とひと口にいっても、さまざまなものがあります。カバーするエリアの広さ・特徴で選んだ「ジャンル」の無線機をまとめたカタログの機能比較表や、販売店の店員さんのアドバイスが役立ちます。
たとえば、荒天の日や水を扱うような場所で使うのであれば防水性能を備えたものを選ぶほうがよいでしょう。
また、クレーン作業のように、タイミングを合わせるような目的で連絡する業務に使うのであれば「同時通話」に対応した機種を選ぶことになります(デジタル方式の無線機は、話した内容が音になるのがわずかに遅れるため、同時通話対応機種でもクレーン作業などには適しません)。
作業車に載せたり、常に電源が供給されている必要があるなら車載タイプを、ほかにも、仕事中ずっと身に着けて使うなら小ささや軽さ、工事などのタフな業務連絡に使うなら堅牢性や音量など……。もちろん、価格も大事な要素です。
また、VE-PG4などの拡張機器を導入すれば、内線/外線電話や規格の異なる無線機と連携するなど、さらに高度な通信システムも構築できます。
アイコムは、シーンや使う環境を踏まえて開発した、多彩な無線機をラインナップしています。必ず目的に応じた円滑なコミュニケーションをサポートできる一台が見つかると確信しています。
デジタル簡易無線について
デジタル簡易無線機とは
無線機の種類のなかに「デジタル簡易無線機」というものがあります。かつては「簡易業務用無線」と呼ばれていたもので、2008年の電波法改正によって生まれた無線機の規格です。この規格のもっとも大きな特徴は、アナログ方式だった通信がデジタル方式にかわっている、ということです。これは、携帯電話や非接触型のICカードなど、生活をより便利・安心にするために電波の利用がますます増加するのを受け、限られた電波資源をより効率的に利用するためのものです。「デジタル方式」は「アナログ方式」より狭い帯域幅で通信できます。同じ幅のベンチに、大柄な人(アナログ)が座るよりも、小柄な人(デジタル)が座るほうがたくさん座れる(効率的に使える)、というイメージです。
デジタル簡易無線のメリット
デジタル簡易無線機には、電波資源の効率利用のほかにも優れた特長があります。そのひとつが高い秘話性能です。32,767通りもの秘話鍵をかけることで第三者への情報漏えいの危険性を低減できます。また、デジタルならではのクリアな音質や、豊富なチャンネル数とユーザーコードによる混信可能性の低減も魅力です。
さらに、簡易業務無線では「免許」を受けることが必要でしたが、かんたんな手続きで誰でも使える「登録」手続きで使えるデジタル簡易無線機も登場したことで、無線機の活躍シーンがさらに広がったことも大きな変化といえます。
アナログ方式の「簡易業務無線機」の利用は2022年11月末まで※
デジタル簡易無線機の登場と同時に、アナログ方式の簡易業務無線機を終了させることも定められました。具体的には、2022年12月1日以降にアナログ簡易無線機(400MHz帯)を使用すると、電波法違反となり、処罰の対象となります※。アナログ簡易無線のほか、アナログ/デジタル両モードを搭載した機種においても、アナログモードでの使用ができません。
※コロナ禍における激変緩和措置により、使用期限が2024年(令和6年)11月30日まで2年間延長されましたが、 2021年(令和3年)9月1日以降は、アナログ方式の簡易無線局は再免許するものに限られ、新たに開設(新設)することは原則として認められません。
デジタル簡易無線の種類
名称 | 免許局 | 登録局 |
---|---|---|
使用用途 | 法人などの業務用 | とくに限定なし |
チャンネル数 | 最大65ch(アナログは35ch)※1 | 最大35ch(うち5ch は上空用) |
免許・資格 | 免許が必要 使用者に資格は不要 |
開局申請が必要 |
使用者 | 免許された法人などの 社員同士の通信に限られる |
通信の相手に制限なし 免許人以外もレンタル可 ※2 |
電波使用料 (一年あたり) |
400円 / 1台 ※3 | 400円 / 1台 ※3 |
※1 アナログ簡易無線機(400MHz帯)は2022年11月30日までしか使用できなくなりました(コロナ禍における激変緩和措置により、使用期限が2024年(令和6年)11月30日まで2年間延長)。
※2 使用前か事後に、免許人による届出が必要
※3 1局あたり、登録申請・包括登録申請ともに400円(2019年10月1日現在)