IP無線機とは?メリット・デメリットやほかのトランシーバーとの違い

無線機の導入を検討している企業のご担当者様にとって、どの無線機がいいのかは悩むところではないでしょうか。現在、さまざまな業務の現場で広く活用されている無線機の1つが、IP無線機です。
この記事では、IP無線機の基本的な特徴やメリット・デメリット、ほかの無線機との違いについて解説します。

IP無線機は携帯電話と無線機の特徴を併せ持った通信機器

IP無線機とは、携帯電話回線を使って通信を行う無線機のことです。IP無線機のIPとは「インターネットプロトコル(Internet Protocol)」のことで、通信機器を識別するIPアドレスに基づいてインターネット通信を行うために定められたルールを表します。IP無線機にはIPアドレスが割り振られており、インターネットを介して音声やデータを送受信することができます。

一般的な無線機は、無線機同士が直接電波をやり取りして通話するため、無線機の電波が届く範囲でしか通話できません。しかし、IP無線機は携帯キャリアの通話エリア内であれば、どこでも通話することができます。
さらに、IP無線機は一般的な無線機と同じような機能を兼ね備えているのが特徴です。たとえば、複数の無線機とグループ通話ができたり、着信時に相手が通話ボタンを押さなくても音声を届けたりすることができます。

1台で送信と受信の機能を兼ね備えた無線機をトランシーバーといい、IP無線機はIPトランシーバー、PoC(Push-to-Talk over Cellular)トランシーバーなどと呼ばれるのが一般的です。また、通信回線を指してLTEトランシーバーなどとも呼ばれます。なお、スマートフォンと同じように、Wi-Fi®などの無線LANを使用するWi-Fiトランシーバーもあります。

IP無線機のメリット

携帯電話と無線機の特徴を併せ持ったIP無線機には、さまざまなメリットがあります。IP無線機のおもなメリットは、下記の通りです。

通信範囲・通話距離が広い

IP無線機のメリットは、携帯電話のサービスエリア内であれば全国どこでも利用できる通信範囲の広さです。電波を直接やり取りする無線機のように通話距離の制限がないため、遠距離通話が必要な場面でも使用できます。

免許や登録申請が不要

従来の無線機には免許や登録申請が必要なものもあり、5年ごとの更新が必要ですが、IP無線機であれば、免許や登録は不要です。手続きにかかる手間や費用が省け、すぐに使用を開始することができます。

同時通話やグループ・全体通話ができる

IP無線機のメリットは、同時通話やグループ通話、全体通話ができることです。無線機ではどちらか一方が発信する「こちら◯◯です、どうぞ」「はい、こちら…」といった交互通話が一般的ですが、IP無線機では相手が話しているあいだも応答できる、同時通話に対応していることが多くあります。

また、携帯電話と異なり、複数の相手との同時通話が可能です。あらかじめ相手を指定してグループを作成し、グループのみで通話したり、チーム全体で通話したりすることもできるので、効率的に情報共有することができます。

GPSで位置情報の共有ができる

IP無線機の多くはGPS機能を搭載しており、位置情報の共有が可能です。管理者から位置情報の確認ができ、作業員や車両の位置をリアルタイムで正確に把握できるようになるなど、効率的な運用ができます。

混信せず、音質がクリア

IP無線機のメリットに、従来の無線機で見られることがある混信(関係のない人同士の通話が聞こえたり、送信できなくなったりすること)がないことが挙げられます。また、従来の無線機に比べて、雑音が少なく、会話が聞き取りやすいのが特長です。

相手が着信の操作をしなくても音声が届く

IP無線機では、着信時に通話ボタンを押すといった携帯電話のような操作が必要ありません。信号を受信するとそのままスピーカーやイヤホンから通話が聞こえるので、緊急時や相手が手を離せない作業をしている中でも、迅速に情報を伝えることができます。

IP無線機のデメリット

多くのメリットがあるIP無線機ですが、デメリットもあります。ここでは、IP無線機の2つのデメリットについて解説します。

本体料金とは別にランニングコストがかかる

IP無線機のデメリットとして、本体の料金とは別に月額の通信料金が発生することが挙げられます。従来の無線機に比べてランニングコストが高くなる場合がありますが、携帯電話の一般的な月額利用料金よりも安く契約できる場合がほとんどです。

なお、アイコムのIPトランシーバーの場合、通信キャリアはNTTドコモの回線、auの回線を選ぶことができます。また、2枚のSIMを入れて切り替えて使うことができるデュアルSIMに対応したものもあります。

キャリアのサービスエリア外では通信できない

IP無線機は、携帯キャリアのサービスエリア外では通信ができません。山間部や地下など、キャリアの電波が届かない場所では使えないことに注意が必要です。
ただし、2022年の総務省調査「携帯電話を利用できない不感地域の状況について(令和4年度末現在)」によると、携帯電話回線の人口カバー率は99.99%に達しており、現在では通信できる場所が増えているため、デメリットは解消されつつあります。

なお、携帯電話システムに障害が発生した場合には、場所を問わず影響を受ける可能性があります。その場合は、2つの異なるキャリアを利用できるデュアルSIMのIP無線機を使用することで、リスクを減らすことができるでしょう。

IP無線機とほかの無線機との違い

無線機には、特定用途向けの一般業務用無線機やアマチュア無線機、トランシーバーなどさまざまな種類がありますが、それらとIP無線機はどのように違うのでしょうか。IP無線機とほかの無線機との違いについて解説します。

一般的な無線機との違い

IP無線機と一般的な無線機では、使用する電波の種類や通信範囲、免許・登録申請の必要性の有無が異なります。

一般的な無線機は、割り当てられた特定の周波数(チャンネル)を使用する通信機です。無線機から電波を飛ばして、同じチャンネルを使用している無線機と相互に通信を行います。機種によって電波を飛ばす強さが異なり、数百m~数kmと、おおよその通信範囲が限られているのがIP無線機との大きな違いです。無線機同士で直接電波をやり取りするため、通信範囲内であれば、携帯電話のように圏外になることがありません。

日本では、電波を使用するに当たっての法律(電波法)が定められています。趣味で楽しむアマチュア無線機や、行政などで使用される一般業務用無線機・アナログ無線機といった特定用途向けの無線機、デジタル簡易無線機は、強い電波を出力するため、使用する際には免許や登録申請が必要となる場合があります。この点もIP無線機との違いです。

特定小電力トランシーバーとの違い

免許や登録申請が不要な無線機には特定小電力トランシーバーもありますが、IP無線機とは通信範囲が大きく異なります。

特定小電力トランシーバーは機器同士で直接電波をやり取りするタイプの無線機で、しかも出力する電波が弱いため、通信距離が短く、建物内や近距離での使用に用途が限られます。IP無線機は使用する通信キャリアの電波がカバーしているエリアであれば日本のどこでも通信でき、より多様なシチュエーションでの利用が可能です。

インカム?無線機?トランシーバー?何が違うの?

無線機というとインカムを思い浮かべる方も少なくありません。インカム、無線機、トランシーバー…業務の現場で使われる無線機にはさまざまな呼び方があるため、何が違うのかわからないという方も多いのではないでしょうか。結論から言うと、すべて同じものを指しています。

電波を使って信号や音声をやり取りする通信機を無線機といい、送信・受信の両方が行える無線機をトランシーバーといいます。
インカムは、無線機(トランシーバー)にヘッドセット(マイクとイヤホン)を接続したセットを指すのが一般的です。たとえば、IP無線機にヘッドセットを接続しても、デジタル簡易無線機にヘッドセットを接続しても、「インカム」と同じ呼び方をされることになります。

インカムは「インターコミュニケーションシステム」の略語で、元々は特定のエリア内で行われる無線通信全般を表していました。現在ではヘッドセットを使用することが増えたため、ヘッドセット部分を指してインカムと呼ぶ業界も少なくありません。

インカムは手で通信機を持たなくても通話ができるため、パソコンを操作しながら通話を行うオペレーター業務や、両手を使った作業が必要な現場などで幅広く使われています。また、通話音声がイヤホンをつけている人以外に聞こえないので、静粛性や秘話性を求められる接客業務のほか、一部の警備業務でもよく使われます。

IP無線機の種類

IP無線機には、おもに下記のような種類があります。それぞれの特徴を解説しますので、IP無線機を導入する際の参考にしてください。

ハンディ型IP無線機

ハンディ型IP無線機は、一般的に「トランシーバー」と聞いて想像されるような、小型で身につけたり手で持てたりするタイプのIP無線機です。携帯性に優れ、比較的軽量なので、作業現場やイベント会場、大型店舗など、徒歩での移動が多い業務現場での通信に適しています。
複数の携帯回線を使用できるデュアルSIM対応モデルや、デジタル簡易無線と一体になったモデルも発売されています。IP無線機の中では機種が豊富なため、用途に合ったモデルが見つけやすいでしょう。

車載型IP無線機

車載型IP無線機は、車両に搭載して使用するIP無線機です。運転中にスマートフォンを手に持って通話したり、通話のために画面を注視したりすると道路交通法違反となりますが、車載型IP無線機なら、操作をしなくても音声が聞こえてきますし、画面を見なくても話すことができます。
従来の無線機と異なり通信エリアの制限がないため、物流や長距離バス、タクシーといった広域を移動する車両での使用にも適しています。
 

モバイルIPフォン

モバイルIPフォンは、電話とトランシーバーの機能を搭載した2in1端末で、アイコムのオリジナル製品です。これまで紹介してきたIP無線機と異なる特徴として、LAN通信とLTE通信の両方に対応しており、どこにいても内線・外線電話の送受や転送ができることが挙げられます。
トランシーバーのように複数端末への一斉同報が可能で、業務に関わる通話を一台で行うことができます。

IP無線アプリ

IP無線アプリは、スマートフォンにインストールして使用する通話アプリケーションです。トランシーバーのように一斉通話を行うことができます。スマートフォンを利用するため、無線機を購入する必要がなく、導入コストを抑えられます。これまでにIP無線機を使用したことがなく、導入を検討されている場合は、まずIP無線アプリで使用感を確かめてみるのもおすすめです。
アイコムでは、スマートフォンでトランシーバー機能が使えるアプリ「IP500APP」をご用意しています。

IP無線機の活用事例

IP無線機は、地下街や高層ビル、複合ビルといった従来の無線機が苦手とする環境のほか、屋外での大規模イベント、工事現場など、さまざまな業務現場で活用されています。また、携帯電話回線への信頼性と、広範囲で使用できる利便性から、多くの自治体や行政機関がIP無線機を採用しています。

アイコム製品の具体的な導入事例については、下記をご覧ください。

導入事例

おすすめのIP無線機

IP無線機の導入を検討されている方に向けて、おすすめのアイコム製品をご紹介します。利用シーンや、用途に合った機種を選ぶ際の参考にしてください。

IP510H

IP510Hは、2024年7月に発売した、新モデルのIPトランシーバーです。従来のLTE回線のみによる通信だけでなく、Wi-Fi環境下での通信も可能で、Wi-Fi®の電波が届く、またはWi-Fi®のカバーエリア内であれば使用することができます。

この製品の詳細は、下記をご覧ください。

IP510H製品ページ

IP700 PLUS

IP700 PLUSは、IPトランシーバーとデジタル簡易無線が一体となったハイブリッドIPトランシーバーです。携帯電話回線のエリア外やLTE回線のトラブル時でも、デジタル簡易無線で連絡することができるため、不測の事態へ備えることができます。

デジタル簡易無線を使用するには、電波法に従い免許手続きや登録手続きが必要となります。

この製品の詳細は、下記をご覧ください。

IP700 PLUS製品ページ

IP210H

IP210Hは、電話とトランシーバーの機能を搭載した2in1端末です。IPフォンの機能として、内線と外線に対応しているだけでなく、IPトランシーバーとしても使用可能です。Wi-Fi®とLTE回線(別途SIM契約が必要)に対応しているため、屋内外を問わず、通話場所を選びません。最長約30時間運用可能な長時間使える大容量バッテリーにより、充電しにくい場所での携行も安心です。

この製品の詳細は、下記をご覧ください。

IP210H製品ページ

IP無線機はメリットが大きく、さまざまな業界で活用できる

IP無線機にはランニングコストがかかるなどのデメリットがありますが、携帯電話回線を使用した通信エリアの広さを持ちながら、無線機ならではの機能が使えることなど、多くのメリットがあります。免許や登録申請が不要なことから導入がスムーズで、さまざまな業務現場で活用が期待できるでしょう。

アイコムは無線通信機器の総合機メーカーとして高機能のIPトランシーバーを提供しており、多くの企業様や団体、自治体に製品を導入いただいています。ビジネス用途に合わせた機器のご提案も可能ですので、企業のご担当者様はお気軽にご相談ください。