14)方向性結合器

1.はじめに
写真1
写真1:自作した方結です。左→右への信号の一部(−20dB)を下のコネクタより取り出すという、テプラで作った表示です。

方向性結合器は、方結とかDC(Directional Coupler)と呼ばれている測定用のツールです。第8回目の「FRMSその3」では、市販品の方結を使ってSWRを測る方法を紹介しました。このときに方結についても説明していますので、ぜひ一読して下さい。

さて、今回はこの方結を自作してしまおうという、ちょっと無茶なものです。一応100MHz程度まで使える写真1のようなものができました。従ってFRMSやFREXと組合わせて、SWRの測定も可能となります。

2.動作原理
図1
図1 【拡大図】 ちょっと難解な図になってしまいましたが、反射波の電流の方向は、進行波と異なるという点がポイントです。

図2
図2 【拡大図】 良くあるCMカップラの回路です。線間電圧によってiC1とiC2が流れ、電流によってIMが流れます。Rを流れる電流としては、打ち消される側と2倍になる側ができます。

図3
図3 【拡大図】 実験、製作した方結の回路です

方結は方向性を持った結合器です。つまり、伝送路上に流れる信号を、進行波と反射波に分けて取出す事ができます。

簡単な動作原理を説明しておきますと、図1のような伝送路があるとします。このうちA点の電圧を考えますと、左から右への進行波によって生ずる電圧と、右から左への反射波によって生ずる電圧の合成になります。これに対し電流も合成されますが、進行波と反射波では向きが異なります。つまり、A点において仮に進行波による電圧が+側ピークで、電流も+側ピークだったとします。反射波による電圧も+側ピークだったとすると、電流は−側ピークとなります。もちろんピークの位置は時々刻々変化しますし、電圧と電流のピークが一致するとは限りません。この電流と電圧(による電流)を合成する事で、進行波や反射波を打ち消す事ができます。従って、進行波と反射波を分離できる事ができます。

図2は良く見るCMカプラの原理です。CMカプラはC(容量)によって電圧を、M(相互インダクタンス)によって電流を取り出します。抵抗には線間の電圧によってコンデンサには電流が流れますが、これはiC1=iC2となります。一方線路を流れる電流によってiMが流れます。すると一方(右側)は和となり、もう一方(左側)は差の方向となる事を示しています。次に発振器と負荷の位置を入れ替えた場合、iMの方向が反対となるため和と差の位置が反対になります。このようにして進行波と反射波を分離します。図2の回路は、ダイオードで整流しSWR計としても使われます。

このCMカプラによって方結を作る事も可能ですし、大電力の方結はCMカプラで作られます。ところが、CMカプラは周波数特性が平坦ではないという欠点があり、高い周波数ほど結合度が上昇してしまいます。そのため、ネットワークアナライザのような測定器にはCMカプラは向かないようです。

図3は片方向の方結の回路です。T1で電流をピックアップし、T2で電圧をピックアップすし、合成するものです。T1が電流をピックアップする部分の動作を図4に示します。T1は10:1に巻く事で、20dBカップラーになる事で知られています。巻き数が10:1ですからインピーダンス比は100:1になります。Rを50Ωとした場合に、伝送路上には等価的に0.5Ωが入る事となります。負荷で消費される電力はP=I2Rですから、0.5Ωで消費される電力も1/100となります。すなわち、この50Ωの代わりにスペアナを接続しておくと、−20dBの信号が観測される事となります。

図4
図4 【拡大図】 電流カップラの部分の動作は、インピーダンス変換によって50Ωが等価的に0.5Ωなったとすると解りやすいと思います。20dBカップラとして良く知られている部分です。

図5
図5 【拡大図】 電圧カップラの部分も同様に説明ができます。インピーダンス変換によって50Ωが等価的に5kΩになったとすると、同様に20dBカップラになります。


一方、T2は伝送路に加わる電圧をピックアップします。この動作を図5に示します。T2の巻き数を同様に10:1とした場合、インピーダンス比は100:1ですからRを50Ωとした時は、伝送路上では並列に5kΩが入る事となります。この5kΩで消費される電力は、P=V2/Rとなりますので負荷で消費される電力の1/100つまり−20dBとなります。

つまり図3は、電流と電圧をそれぞれ−20dBずつピックアップして、合成するという事になります。合成する方向が和の場合、合成した出力は2倍になります。差の方向で合成された場合には合成出力はゼロという事になりますが、実際にはゼロという事はありえませんので、結合度より30〜40dB程度まで下がれば十分に使用できます。合成する部分は色々な回路があるようで、正しく合成されるように、コイルの巻数なども工夫されているようです。

3.作成
写真2
写真2:方結を図3の回路で試作した様子です。そこそこ使える事を確認しました。

写真3
写真3:内部はこの様にキタナイ配線になっています。カット&トライは、写真2の段階で終わってるはずなのですが・・。

写真4
写真4:コイルの線などは細いので、測定中に触れると条件が変わってしまいますので、ホットボンドで固定しました。キタナイものにはフタをしておきます。

写真5
写真5:0〜200MHzの結合度を測定しました。20dBとなりました。

写真6
写真6:0〜200MHzの方向性を測定しました。100MHzまでは30dB以上とれています。

写真7
写真7:低い周波数も忘れてはいけません。0〜1MHzの方向性を測定しました。500kHz以上であれば問題なさそうです。

図3の回路をバラックで実験したのが写真2になります。これで一応使えそうである事を確認しました。同じ回路で作り直したのが冒頭の写真1です。BNCコネクタ3個を小さな生基板一枚でハンダ付けして固定しています。コイルと抵抗の足は短くし、BNCコネクタにハンダ付けしています。ところが、この後で更に試行錯誤をしたために、内部は写真3のように修正の痕跡がキタナク残ってしまいました。結果的に図3の回路に落ち着いています。コイルの線が細いのでホットボンドで内部を固定し、完全に埋めてしまった様子が写真4になります。もちろん汚れ隠しという側面も、大いにあります。

4.動作確認
動作確認はスペアナとTGを用いて行いました。図6のように接続し、結合度を測定したのが写真5になります。上から2divのところの明るい線が、ノーマライズした基準線となります。ここからどの位下がったかをみますが、200MHzまで−20dB一定でほぼ直線という事が解ります。

図6
図6 【拡大図】 結合度の測定をする接続になります。

この時点で、この結合度を使って再度ノーマライズを行っておきます。次に図7のように接続を変更します。この接続では、負荷は正しい50Ωですから反射は起こらず、スペアナの表示はずっと下がります。しかし、方結のバランスの悪さから、進行波の僅かな漏れを表示します。これが写真6で、方向性を表します。20MHzまでは−40dB以上、100MHzまでは−30dB以上、200MHzまでは−20dB以上というところでしょうか。この方結では、100MHzで30dB以上のリターンロスの測定は不可能という事になります。

図7
図7 【拡大図】 方向性の測定をする接続です。

50Ωの負荷としても、多少の反射は起こりますので、どこまで信頼性があるかを考えると、もう少し検討が必要になります。しかし、自作の方結よりも、市販の50Ωの方がずっと優秀と考えた場合、写真6は「方結の方向性」となります。

このように、100MHz程度までのSWR測定には何とか使用できそうな方結が完成しました。精度が下がる事を承知すれば、150MHzくらいは・・という程度でしょうか。なお、低い周波数については写真7のように、500kHz以上であれば使用可能です。

5.終わりに
測定器はもちろん、重要な部分であるはずの「方結は買うもの」とは思いますが、アマチュア的に自作が可能か試したく、実験的に作りました。方結は今まで製作や実験の記事を見た事がありません。参考例がほとんど無く、試行錯誤の結果ですので、まだまだ改善の余地はたくさんあると思います。また、動作の説明もほとんど見る事ができません。あえて書いてみましたが、自己流のため不十分なところや間違いがあるかもしれません。この点はお断りしておきます。

今回は実験という事もあって1方向だけの実験としましたが、両方向とした方が電気的に対象に回路を作る事ができるため、バランスの良いものが作れるように思います。いずれ試したいと思います。

このようなものを試作すると、つぎのアイデアに発展する可能性があります。地味なものの自作ですが、それがまた楽しいのです。また、メーカ製の方結を使う時でも、一度自作をしていると内部も特性も解りますので、一歩先を考えた測定ができるかもしれません。