エレクトロニクス工作室


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No.162 マイクロワットメータ

1.はじめに
ずい分前ですが、ハムジャーナル誌No.79(1992年)に、JA1ATI逸見OMのクリスタルディテクタを使ったレベルメータの記事がありました。ダイオードは立ち上がってからの直線部分を使うものと信じていたのですが、この記事は立ち上がる前の非直線部分(2乗特性領域)を使うという衝撃的なものでした。しかも、-35dBmのような低いレベルを測るものです。この記事に感心する事25年にして、ようやく写真1のように追試する事ができました。

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写真1 このようなマイクロワットメータです

逸見OMはマイクロ波に造詣が深く、47GHzの作品などを作られています。ハムジャーナル誌の記事もマイクロ波の測定をしようとするものですが、144MHzが精一杯の私としては50MHz帯以下を測るものと考えて作りました。また室温で使うものとして、温度補正は省略しています。ですから逸見OMの作品に比べれば試作機のレベルと思いますが、これから少しずつでも続けて実験してみようと思います。

2.ダイオードの特性
ダイオードの特性は、一般的には測定結果1のようなV-I特性で示されます。これはNo.83のカーブトレーサで測ったものです。立ち上がりの電圧はゲルマニウムやシリコン、あるいはショットキーなどの種類によって変わってきます。このV-I特性の電圧と電流はリニアで表されています。立ち上がり方を見るのが目的なのでしょう。

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測定結果1 一般的なダイオードの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)

ところがSG出力をダイオードで検波して電圧を測り、横軸がdBmで縦軸を電圧とすると測定結果2のようになります。これは手持ちのダイオードを、図1のようにして普通のデジタルテスターで測ってみたものです。負荷抵抗の68kΩは、うまく測れる値を探しただけです。レベルの低いところで少し乱れるのは、デジタルテスターの限界によるものです。測れる最小桁が0.1mVですので仕方ありません。この図の-7dBm付近にグラフの変換点があります。「へ」の字のように曲がるところですが、ここから右側がダイオードとして立ち上がるところになります。

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測定結果2 SGを入力し、出力電圧を測ったものです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図1 ダイオードの特性を測った回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)

ダイオードはこのように2つの領域があり、ショットキーバリアダイオードであれば立ち上がる0.2Vまでは2乗特性領域で、立ち上がった0.2V以上はリニア領域となります。このレベルメータは2乗特性領域だけを使ったものです。従って測れる最大レベルは-10dBm以下となります。2乗特性領域では測定結果2のように、入力電力(dBm)と出力電圧(dBμ)がスクエアになります。測定結果3は測定結果2の出力電圧をデシベルで表示したものです。電圧は20logですのでそのように計算しましたが、10logであれば完全にスクエアです。つまり、電圧が10倍になると電力は10倍という、かなり不思議な世界になります。普通は電圧が10倍になると電力は100倍です。この特性はダイオードの種類が変わっても基本的には同じようです。「2乗特性」で検索してみても、ほとんど歪に関するものしか出てきませんが、この領域を積極的に使うというのは面白いと思います。

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測定結果3 出力電圧をdBμで表現したものです。(※クリックすると画像が拡大します。)

このようなレベルメータを作ったあとで、1μV程度を測れる電圧計を作っておきたくなってしまいました。よくある事ですが、どうみても順序が逆です。そのような電圧計を作っておけば、簡単にダイオードのテストができそうです。

3.回路
回路を図2に示します。このようにダミーの両端の電圧をダイオードで検波し、オペアンプで増幅するものです。ゲインを変える事でレンジを切り替えています。最初は計装アンプを試してみましたが、逸見OMの回路の方が上手く動作しました。これは計装アンプではなく、私の使い方に問題があったと思います。そこで逸見OMの回路から温度補正を抜いた程度の、マイナーチェンジした回路になっています。使っているOPアンプは、逸見OMと同じOPA177を1段目にし、2段目はOP07を使いました。これらは秋月電子で入手容易です。

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図2 回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

ダイオードをどうするかと考えた場合、HP(今はアジレント→キーサイト)のクリスタルディテクタは簡単には入手できません。これは専用のダイオードを使ったセンサーで、ジャンクでも相当に高価なものです。そこは目的が短波帯ですので、普通のダイオードを試す事を考えました。ダイオードは何でも良いというのもではないとは思いますが、ゲルマでもある程度の特性を出す事ができました。OA90など、何種類かを試して使える事を確認しています。そこで、作り方としてはプローブ型とせずに、ケース内にダイオードを入れるようにしました。
移動して使うような性質の測定器ではないので、電源を内蔵する事にしました。プラスとマイナスの電源を使いますので、100V入力の±12Vの安定化電源です。

4.作製
電源は図3の実装図を作ってから作製しました。電源トランスは写真2を使いました。最初は、そのままユニバーサル基板にピタリと足が収まるものと信じていましたが、試してみると微妙にずれて入りません。そこで100V側は何とか強引に基板のピッチに合わせ、15V側はジャンパー線を半田付けして対処しました。揺れた時に100V側の端子にストレスが加わらないように、トランスは結束バンドで基板に固定しました。これが写真3ですが、お世辞にもスマートとは言えません。電源がないと実験が進めにくいため、先に作っているだけです。

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図3 電源の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真2 使った電源トランスです。

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写真3 15V側はジャンパーで配線しました。

肝心なダイオードの部分は、SMAコネクタを使ったジャンクの写真4がありましたので、まずこれで写真5のように実験しました。内部に入っているのは、ショットキーバリアダイオードと思われます。手前のBNC→SMA変換コネクタに入力し、SMAのT分岐で左が50Ωダミーとなり、右側がダイオードです。50MHz帯以下で使うにしては、明らかにオーバースペックな部品です。また、ゲルマのOA90をBNCコネクタでマウントしたディテクタも作って比較しました。これが写真6で、ダイオードの他にダミーの50Ωと0.01μFも実装しています。どちらもメイン基板の半固VRで調整できる範囲でした。

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写真4 ジャンクのダイオードです。

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写真5 SMAのT分岐と50Ωダミーを組み合わせています。

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写真6 ゲルマのOA90でも作ってみました。

メインの基板は図4の実装図を書いてから作製しました。メインの基板といっても、サイズ的には電源より小型です。写真7が作製したところになります。この基板は、写真8のようにレンジ切換え用のロータリースイッチの裏面に背負わせていますので、相互の位置調整に気を使いました。レンジ切り替え用の抵抗は、写真9のようにロータリースイッチに直付けしました。この方が基板との間の配線が少なくなるためです。ここだけは精度に直結しますので、誤差1%の抵抗を使いました。これらを組み合わせて写真10のように動作チェックを行い、正常に動く事を確認しておきました。右側は20dBのアッテネータです。

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図4 メイン基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真7 作ったメインの基板です。

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写真8 ハンダ面です。

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写真9 ロータリースイッチに抵抗をハンダ付けし、基板との間を3本で接続します。完成後に写したのでケースに固定しています。

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写真10 このように動作チェックをしました。

ケースはタカチ電機工業のCU-2を使いました。ちょうど良いサイズと思います。写真11のように穴あけを行いました。写真12が組み立てながら、途中で動作チェックをしている様子です。AC100Vを使いますので、感電防止のため養生テープを貼っているのが解ります。完成したところが写真13です。

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写真11 CU-2に穴あけをしたところです。

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写真12 組み立てる途中でも動作チェックです。

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写真13 完成した内部です。

目盛はフルスケール100%の位置を0dBとすると、50%の位置が-3dBになります。つまり表1のようになり、直線ではありません。逸見OMはこの目盛で苦労されたようですが、私はメータの目盛作製用の専用のソフトを使って作りました。写真14の左がジャンクのメータに付いていた目盛板で、右がPCで作ったものです。このメータはハムフェアで入手したジャンクですが、今までずいぶん使い最後になりました。

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表1 目盛はこのようになります。

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写真14 パソコンで作った目盛です。

5.調整
何と言っても調整が最大のネックになると思います。精度の確保されたSGがあれば、それに合わせる事ができます。私のSGは精度が曖昧ですので、No.158の標準レベル発振器を用いて基準としました。もちろんこれだけでは不足で、他に正確な可変アッテネータを使っています。
まず入力信号をゼロとして、初段アンプのオフセットを調整します。つまりOPA177の1-8間の10kVRを調整してゼロ点に合わせます。次にフルスケールに合った入力信号を入れ、指針が合うように調整します。フルスケールは2段目OP07のゲインと出力のVRのどちらでも合わせられます。但し、フルスケールの時になるべく電源電圧に近くなるようにしました。これには意図があり、予定外の高いレベルが入って来たときに、2段目を飽和させる事でメータに負担をかけないようにするためです。
写真15がSMAコネクタのダイオードで、写真16がOA90を使ったユニットです。OA90は-35dBmのレンジでは少しだけ感度が下がりました。半固VRの調整ポイントはズレますが、それほどの差ではありません。

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写真15 SMAコネクタのダイオードを使ったところです。

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写真16 OA90のユニットを使ったところです。

6.使用感
1レンジが5dB幅ですので、細かく読みとることができます。逆に言えば、測るのに最適なレンジを探すのが少し面倒です。例えば、No.151No.161の出力インピーダンス計は6dB下がるところを探しますので、レンジを切り替える必要があります。5dBまでしか目盛を記入しませんでしたが、多少見難くなっても10dBまで作った方が良かったと思います。もちろん、フルスケールに近い方が読みやすい事は言うまでもありません。
写真17は家にあるアンリツのメータですが、これは1レンジが10dB幅です。最近動作がおかしくなってきましたので、ちょうど良いタイミングになってしまいました。しばらく様子を見て考えようと思います。

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写真17 アンリツのレベル計です。

本機は-15~-35dBmの5レンジですが、ダイオードの特性からすると、-10dBmでも測れそうに思えます。ロータリースイッチは6接点ですので、その方が無駄になりません。入力に20dBのステップアッテネータを入れても良かったと思います。レンジを拡大する事もできますし、使いやすい幅になるでしょう。あるいは-35dBmのレンジだけで作り、入力にアッテネータを入れて切り替える方法もありそうです。いろいろと改造計画が膨らんでしまいます。
温度補正をしていないため室温の影響を確認したいところですが、これは容易ではなく全くできていません。あまり温度までを云々するレベルではないとは思いますが、少々気にはなっています。


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