エレクトロニクス立国の源流を探る
No.65 日本のエレクトロニクスを支えた技術「パーソナルコンピュータ」第9回
ホビーパソコンからビジネスパソコンへ
1980年代前半は8ビットパソコンが活躍していたが、8ビットパソコンでは、グラフィックス機能の高速化が難しいことやメモリ空間が狭いことなど処理能力に限界が見えていた。また、ホビーパソコンといえども、より高度なソフトに対応していくためには、グラフィックス機能の高速化や多色化が必要となって行きた。同時にパソコンメーカーとしては、ホビーユースからビジネスユースへと市場を拡大していく必要に迫られていた。我が国では、日本語ワープロがパソコンより先行する形で普及していたが、日本語文書作成ばかりでなく、表計算や、経理処理、ホスト端末などより多目的に使用できるパソコンが主流になって行くと予想されていたからだ。
最初に16ビットパソコンを発表した三菱電機
わが国で最初に16ビットパソコンを発表したのは三菱電機で、1981年に業務用パソコン「MULTI16」を発表している。CPUに8088(4.4MHz)を採用、メモリは64KビットDRAMを搭載していた。さらに、1982年には東芝が16ビットパソコン「PASOPIA16」を発売した。日本語ワープロ開発メーカーらしく、本格的な日本語処理が可能な機能を持っており、24×24ドット漢字プリンター、MS-DOS漢字版の採用、日本語ワープロ機能もサポートしていた。
そして、1982年は16ビットパソコンがメーカー各社から相次いで発売された年で、NECも「PC-9801」を発売した。CPUには同社の16ビットCPU「μPD8086」と、画像処理用LSI「μPD7220」を搭載していた。グラフィックスの高速処理を可能とし多彩な機能を持つ「PC-9801」の人気が高まり、同社のパソコンの主力となるPC-9800シリーズとして発展していく。さらに同年、キヤノンが「AS-100」を発売した。12インチ640×400ドット表示のカラーCRTを採用し、優れたカラーグラフィックス機能を搭載していた。また、富士通はFMシリーズ初の16ビットパソコン「FM-11EX」を発表。さらに、1984年にはビジネス用に改良した「FM-16β」へと発展して行く。
シャープも16ビットパソコン「X68000」を発売
1986年には、シャープも16ビットパソコン「X68000」を発表、翌年から発売した。CPUに「MC68000」を採用、高度なグラフィック機能を搭載し、ユーザーがこの機能を使ったゲームを開発できるようになっていた。メインメモリは1MBを標準装備しており最大12MBまで拡張できた。1,024×1,024ドットの画面とドットごとに65.536色の中から任意の色指定ができた。さらに、独自の動画用スプライトICを搭載しており、16×16ドットスプライトが128個定義可能なほか1水平ラインに32個までのスプライトを同時に表示できゲームソフト開発に適したパソコンだった。さらに、音源は8重和音ステレオFM音源と音声合成機能も搭載していた。この「X68000」シリーズは1993年までの約7年間に合計20機種が発売されシャープの主力シリーズとして貢献した。
シャープの16ビットパソコン「X68000」シリーズ
富士通がビジネスパソコン「FM- R」シリーズを発売
1987年になると富士通は「FM-16β」の後継機として「FM- R」シリーズを発売した。「FM-16β」に比べて約30%高速化するとともに、1,120×750ドットの高精細グラフィックス機能を搭載し、24ドットの漢字表示も可能だった。また、日本語ワープロ市場で支持を得ていた「OASYS」と同じ「OASYSかな漢字変換機能」も装備していた。そしてメインフレーム、通信機メーカーらしくホスト接続、パソコン通信、LANなど各種の通信機能を装備していた。さらに、1987年には32ビットCPU80386を採用し、従来機の2倍の処理速度を持つ32ビットパソコン「FM R-70」を発売。この「FM- R」シリーズは富士通のビジネスパソコンの主力シリーズとして成長していくことになる。
海外では「IBM PC/AT」とその互換機が主流に
一方、海外では、1981年にコンピュータ業界の巨人IBMが16ビットパソコン「IBM PC」を発売、さらに1984年にはCPUに80286を採用した「IBM PC/AT」を発売している。そして海外では、「IBM PC/AT」や「IBM PC/AT」互換機が主流となって行った。だが、日本国内では、NECの「PC-9800」シリーズがパソコン市場で高いシェアを持っていただけに「IBM PC/AT」はあまり普及しなかった。しかし、「IBM PC/AT」の仕様が公開されると世界中で多くの互換機メーカーが出現し、徐々に世界標準化していくことになる。そして、日本国内でも「IBM PC/AT」互換機路線で行くか、独自路線で行くかの決断を迫られるような時期がやって来る。
32ビットCPUの登場で16ビットから32ビット時代へ・・・
国内で16ビットパソコンが相次いで登場していたころ海外では1984年にモトローラ―が外部バスも32ビット化した本格的な32ビットCPU「68020」を発表している。そして、アップルがこのモトローラ―「68000」系CPU搭載の「Macintosh」を発売した。さらに、1985年になるとインテルが32ビットCPU「80386」を発売し、CPUは16ビットから32ビット時代へと移行していくことを示唆していた。
参考資料:東芝HP、シャープHP、JEITA、キヤノン・HP、社団法人情報処理学会、富士通HP、NEC・HP、コンピュータ博物館ほか