エレクトロニクス立国の源流を探る
No.67 日本のエレクトロニクスを支えた技術「パーソナルコンピュータ」第11回
パソコン市場に大きな変化をもたらした1990年代
1990年代はパソコン市場に大きな変化をもたらすとともに、今日の市場基盤を形成した時代だった。というのも、1980年代後半から普及し始めた32ビットパソコンが、16ビットパソコンに代わって主流となっていくとともに、OSにWindowsが採用されるようになり一般ユーザーでもパソコンが扱いやすくなっていった。さらに、今日、パソコンユーザーの大半がインターネットを利用しているが、1990年代後半からインターネット端末としてパソコンが使われ始めたのである。
ノートパソコンにおいても32ビット化が進む
1990年代に入るとノートパソコンにおいても32ビット化が進んでいった。1990年にNECが我が国初の32ビットノートパソコン「98NOTE SX」を発表した。CPUにインテル80386SX(12MHz)を採用、従来機の「98NOTE」の2倍の処理速度を持っていた。また、沖電気も同年に32ビットノートパソコン「ifNOTE」を発表している。CPUにインテル80386SX(16MHz)を採用し、高速処理が可能だった。さらに、1991年には日立が初のAX協議会の共通仕様である「AX-VGA」に準拠したパーソナルステーション「FLORA」シリーズとしてデスクトップとラップトップ型を合わせて5機種発表した。
パソコンとテレビの結び付きが始まる
また、NECはカラー液晶ディスプレイを搭載したノートパソコン「PC-9801NC」を同年発表している。ノートパソコンとして世界で初めてTFTカラー液晶ディスプレイを搭載したモデルで、16色表示が可能で中間色まで表示可能だった。CPUは32ビット、インテル80386SX(20MHz)を採用し高速処理が可能だった。カラー液晶ディスプレイ搭載の特徴を生かして「TVチューナ付ビデオ表示アダプタ」(別売)の接続が可能で、今日のパソコンへのTVチューナ搭載の流れを造ったモデルとなった。
キーボードに代わって手書き入力方式採用PCも登場
1992年に入ると東芝が、CPUに32ビット、インテル80486SX(16MHz)を採用し、高精細VGA(640×480)TFTカラー液晶を搭載した「DynaBook V486 J-3100XS」を発表した。184,320色中256色同時表示可能で多彩な表現を可能としていた。ちょっと変わったところで、手書き入力方式を採用したパソコン「ifPEN30」を1992年に沖電気が発表した。キーボード入力を廃止し、ワイヤレスペンとタブレットを使用、ペンタッチにより入力するものだった。仮名漢字変換機能や、手書き文字認識を搭載することで効率的に文字入力が可能だった。ディスプレイは、モノクロバックライト付き液晶、解像度640×480ドットを採用していた。
富士通のPC/AT互換機「FMV」シリーズ発売で流れ変わる
1993年に入ると、富士通がIBM のPC/AT互換のデスクトップパソコンとノートパソコン「FMV」シリーズ計6モデルを発表した。同社は独自アーキテクチャを採用したパソコン路線を歩んでいたが、PC/AT互換機「FMV」シリーズを発表したことで国内のパソコン市場に大きな影響をもたらした。当時は、NECの98シリーズが高いマーケットシェアを持つ中で、PC/AT互換機を発売するのは、中小メーカー中心だったため企業はPC/AT互換機を採用するのをためらっていた。しかし、コンピュータ業界大手の富士通がPC/AT互換機に参入したことで、企業はビジネスユースとしてPC/AT互換機を受け入れるようになっていった。
マルチメディアパソコンの流れが定着
さらに、富士通は1994年5月にステレオ音声多重チューナを搭載したいわゆる"テレビパソコン"「FM TOWNS II Fresh・TV」を発表した。それまでオプションでTVチューナの外付けを可能としたパソコンはあったもののTVチューナを内蔵したのはこれが最初だった。これまで同社は、CD-ROMを標準搭載することでマルチメディアパソコンを訴求してきたが、テレビ機能を搭載することでマルチメディア化に拍車をかけることになった。「FM TOWNS II Fresh・TV」にもCD-ROMドライブが搭載され、同時に高精細トリニトロンディスプレイの採用とあいまって一層マルチメディア化が進んだパソコンとなった。しかも、日本語ワープロや表計算、パソコン通信ソフトなども装備していた。
一方、NECもテレビチューナを内蔵したマルチメディアパソコン「PC-9821Ce2」を1994年7月に発表した。15インチCRTディスプレイにテレビチューナが内蔵されており、ディスプレイはパソコンと独立した電源を持っており、パソコン本体の電源を入れることなくテレビ放送が楽しめた。さらに、2倍速のCD-ROMドライブとステレオスピーカを装備し、音楽CDの再生や多彩なマルチメディアにも対応できた。
"オールインワンPC"富士通「FMV DESKPOWER」が人気を呼ぶ
1994年10月には富士通がデスクトップパソコン「FMV DESKPOWER」を発表した。このモデルには、パーソナルユースとして必要と思われるCD-ROM、HDD、FDD、カラーディスプレイ、スピーカは標準搭載され、さらにサウンド機能や日本語ワープロソフト、計算ソフト、ゲームソフトなど多彩なソフトウェアが搭載された"オールインワンPC"と称されるものだった。この"オールインワンPC"の思想はパソコン入門者をはじめ、パソコンユーザーに広く受け入れられ、同社の主力モデルとして長く人気を呼ぶことになる。その後も「FMV DESKPOWER」シリーズは、多彩なソフトウェアがプレインストールされたデスクトップパソコンとして人気を呼んだが、2010年夏モデルから、グローバルでのパソコンビジネスの拡大を図るため、名称を海外で使用していたものと共通の「FMV ESPIMO」とし、その流れを受け継いでいる。
富士通の「FMV ESPIMO」2010年夏モデル
参考資料:富士通HP、東芝HP、シャープHP、JEITA・HP、社団法人情報処理学会、NEC・HP、コンピュータ博物館ほか