高画質化のために上位規格を開発

8ミリビデオカメラが優位の中で、小型化、高画質化、長時間撮影、低価格化の競争が続いた。小型化においては、1989年発売のソニーのパスポートサイズ「CCD-TR55」でほぼ満足できるサイズとなったが、高画質化においては、さらなるレベルアップが求められていた。アナログ記録方式では、8mm幅のビデオテープでは高画質記録にも限界があった。一方、据置型ビデオでは高画質化、長時間録画化が進んでおり、VHS規格においてはS-VHS、ベータ規格においてはHi-Bandベータや、S-VHSに対抗するためのEDベータが登場していた。ビデオカメラの高画質記録のためにも、これらの規格を採用する動きがあり、日本ビクターでは、1987年にビデオカメラ用にVHS-C規格の高画質化を図ったS-VHS-C規格を開発し、S-VHS-Cムービーの1号機「GR-S55」(25万円)を発売した。

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ソニーの8ミリビデオカメラのヒット商品「CCD-TR55」

また、8ミリビデオカメラでは、ソニーが8ミリビデオ規格の高画質化を目指し、輝度信号のハイバンド化を図ったHi8規格を開発した。これによりS-VHS並みの水平解像度約400本を実現させた。

市場では、高画質化ニーズが高かったためHi8規格が主流となっていった。8ミリビデオ規格ではテープ幅がS-VHS-Cと比べて狭いために、ハイバンド化にはメタルテープが使われた。そしてHi8ビデオテープには、塗布型テープ(MPポジション)と、蒸着テープ(MEポジション)があり、MEポジションの方が高画質だが、価格も高かった。しかに、後に、富士フイルムやTDKから塗布型テープながら性能を向上させ、MEポジションで使用できるカセットテープが発売され、価格も蒸着テープより割安だったため普及して行った。

簡易再生機能により従来規格との互換性確保

S-VHSにしろHi8にしても高画質の上位規格となると、従来標準規格との互換性の問題が避けられない。そのためS-VHS規格ではSQPB(S-VHS簡易再生機能)が設けられ、Hi8規格ではHi8簡易再生機能が設けられた。これらによって従来の記録方式機器との互換性が保たれたが、あくまでも簡易再生のため画質は従来規格並みに低下するのは避けられなかった。それでも8ミリビデオはHi8規格へ切り換わっていき、90年代後半にはHi8規格が中心となった。また、VHS-CビデオカメラもS-VHS-Cへと移行していったが、カセットサイズの問題から、Hi8規格のビデオカメラの優勢は動かないものとなっていった。

S-VHS-Cビデオカメラや、Hi8ビデオカメラの登場によって、水平解像度が約400本になり、画像のシャープ感、クッキリ感は上がり従来の標準規格のビデオカメラに比べて画質は向上した。しかし、日頃見なれているテレビ放送の画質と比べると、やはり見劣りするのは避けられなかった。家庭用ビデオカメラで撮影した映像は、解像度感、色の載り具合などに大きな差が有り、また、カメラワークもズームやパン、チルトを頻繁に繰り返し、手ぶれも激しい映像が多かったからだ。テレビ局でも一般視聴者撮影したスクープ映像などを放送する時には、わざわざ画面の下の方に「これは視聴者が家庭用ビデオカメラで撮影したものです」などのティロップを流すほど画質に差があった。

撮像素子のCCD、CMOSは単板式から3板式へ

放送局ではすでに、デジタル化に向かっており、撮像素子も3板式CCDやCMOSが採用され、画素数も大きなものが使われていた。しかし、家庭用ビデオカメラでは低価格化の制約が大きく単板式が採用された。当然、カラー撮影では、1枚の撮像素子の前にカラーフィルターを設け、RGB3原色に色分解して撮影することになるので3板式と比べると画質は劣る。しかし、1990年代になるとCCDやCMOSの価格が下がってきたこともあって、家庭用ビデオカメラも高級機から徐々に3板式が採用され、1992年にソニーが民生用初の3CCDビデオカメラ「CCD-VX1」を発売している。そして、1990年代後半には中級タイプの家庭用ビデオカメラにおいても3板式が採用されるようになって行った。

世界初のリチウムイオン電池バッテリーパックを搭載した「CCD-TR1」

3板式の家庭用ビデオカメラの登場によって、単板式で多かった、色がはみ出したり、滲んだりすることも少なくなり、日常の撮影には、さほど画質への不満も無くなって行った。さらに、1992年にはソニーが使い易さの面でも、ビューファインダーのカラー化を図った「CCD-TR1000」を発売、1993年には世界初のリチウムイオン電池バッテリーパックを搭載した「CCD-TR1」を発売している。8ミリビデオは、始めから標準モードで120分の長時間撮影が可能だったが、バッテリーの容量が不足しがちなため交換用のバッテリーを持参したり、より大きな容量のバッテリーを使用したりしなければならなかった。さらに、旅行に持って行くにも充電器、交換バッテリーが必要で、せっかくカメラが小型軽量となってもビデオカメラセットとしては結構重たいものになってしまう。

ビデオカメラの小型軽量化は進んだが電池の容量不足が課題に

ビデオカメラのバッテリーには、シールドタイプの鉛蓄電池が採用されていたが、容量の割には重たく、充電はメモリー効果によって容量をフルに使うのが難しかった。そのため、わざわざ1度放電させてから、再充電しなければ十分な容量を確保できないのが欠点だった。その点、リチウムイオン電池バッテリーパックの採用は、重量、容量、充電の手軽さで画期的な出来事だったが、高価なのが難点だった。この、バッテリーの問題は、ポータブル機器の永遠の宿命みたいなもので、その後もデジタルカメラやノートパソコン、携帯電話など外に持ち出す機器には避けて通れないものとなる。そして、今日でもスマートフォンの電池容量不足など多くの機器でユーザーを悩ませている。

参考資料:日本ビクター60年史、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、社団法人情報処理学会、他