エレクトロニクス立国の源流を探る
No.74 日本のエレクトロニクスを支えた技術「ビデオカメラ&デジカメ」第5回
半導体メモリ、HDD、DVDなどの記録メディアの大容量化、低価格化でカセットテープが苦戦
録画方式がアナログ方式からデジタル方式に変わって来ると記録メディアにも変化が出てきた。ビデオカセットテープは、量産され価格も安くなっていた。しかしカセットが小型化したと言っても、やはり半導体LSIメモリや、DVD、小型HDDなどと比べるとビデオカメラ本体の小型化には不利だった。ただ、記録容量対価格という面では、ビデオカセットテープは優位にあった。しかし、それも時間がたつとともに、半導体LSIメモリやHDD、DVDなどの記録メディアの大容量化、低価格化競争が激しくなり、コストダウンが進むにつれビデオカセットテープの優位性は薄れて行った。また、テープの場合は、再生の際に「頭出し」「巻き戻し」などの操作が面倒で、ランダムアクセスが可能な他の記録メディアと比べ不利だった。
それでも、失敗が許されない業務用においては、長年培ったビデオテープの信頼性が優先されたため、DV方式が使われ続けた。そして、MPEG-2方式のハイビジョン信号を記録するHDV方式へと発展して行った。一方、民生用においてはビデオカセットテープからDVDやHDD、メモリーカードに記録するAVCHD方式のハイビジョンカメラが規格化されて主流となっていったため、HDV方式は少数派となって行った。
ソニーがハイビジョン記録可能なHDV規格の「HDR-FX1」発売
ビデオカメラ市場をリードしていた代表的なメーカーであるソニーの新製品の流れを追ってみることで記録メディアの変遷が分かる。ソニーは2004年、記録メディアに8cmDVDを採用した「DCR-DVD201」を発売した。DVDならではの快適な操作性と、撮影したものをDVDプレーヤーですぐ見ることができるのがセールスポイントだった。
ソニーの記録メディアに8cmDVDを採用した「DCR-DVD201」
2000年代前半は、DV方式、DVD方式、HDD方式などが混在していた時代で、ソニーでも2001年にミニDVカセットよりさらに小型のマイクロMVカセットを採用した「DCR-IP7」を発売している。「Bluetoos」機能も搭載し、パソコンを介さずインターネットに接続可能な小型・軽量・高画質の"ネットワークハンディカムIP"である。さらに、2004年には、民生用として世界で初めてとなる1080i方式ハイビジョン記録が可能なHDV規格の「HDR-FX1」を発売している。
さらに、翌2005年には家庭でも手軽に1080i方式ハイビジョンの高画撮影を楽しむことができるようにした普及タイプの「HDR-HC1」を発売している。撮像素子に新開発のCMOSセンサーを搭載することで小型化を実現したモデルだった。そして、2006年には、8cmDVDにハイビジョン撮影が可能なAVCHD規格方式の"デジタルハイビジョンハンディカム"「HDR-UX1」と、HDDにハイビジョン撮影が可能なAVCHD規格方式の"デジタルハイビジョンハンディカム"「HDR-SR1」を相次いで発売している。
記録メディアに"メモリースティック"採用の「HDR-TG1」発売
そして2008年には、記録メディアに"メモリースティック"を採用した「HDR-TG1」を発売している。軽量で剛性の高いチタンをボディに採用した1920×1080iのハイビジョン撮影が可能な世界最小・最軽量のモデルだった。翌2009年に入ると、撮像素子に裏面照射型CMOSセンサー"Exmor R"を採用し、暗い所でもノイズの少ない高画質映像を撮影できる「HDR-XR520V」と、スナップ感覚で手軽にハイビジョン撮影が楽しめる世界最小・最軽量デジタルハイビジョン"ハンディカム"「HDR-GT5V」を発売している。さらに、2010年には世界初のレンズ交換式デジタルハイビジョン"ハンディカム"「NEX-VG10」や、モバイルHDスナップカメラ"bloggie(ブロギ―)"を発売した。
ビデオカメラ以外にも動画撮影可能な商品が混在する時代へ
ソニー以外のビデオカメラメーカーも、記録メディアをDVDやHDD、半導体メモリに移行させながら、ハイビジョン撮影が可能なモデルや、小型・軽量モデルを発売して行った。こうした中で、スチル撮影用のデジタルカメラが普及し始め、最初は静止画だけの撮影機能だったものが、メモリ容量のアップにともない、短時間の動画なら撮影できるタイプが増えてきた。その後も、急速な半導体メモリの大容量化、低価格化が進み動画撮影可能時間も長くなってきたので、ビデオカメラとの違いが、だんだん少なくなってきた。さらに、携帯電話にも静止画や動画撮影も可能なカメラ機能が搭載されるようになり、ビデオカメラ、デジタルカメラ、カメラ付き携帯電話が混在する形となった。
デジタルスチルカメラとの差別化のため様々な機能・特徴に工夫
このため、ビデオカメラならではの存在感を示し、他の機器とハッキリ違いを示す必要性に迫られることになった。それが、手ぶれ補正機能の強化、ズーム機能の高倍率化、3板式撮像素子の採用によるさらなる高画質化、撮影可能時間の長時間化、見やすい大画面液晶モニターの採用、LEDライトの搭載で暗い所でも撮影可能化、5.1チャンネルのサラウンド音声録音などがある。また、デジタル液晶テレビの大画面化にともない立体映像が楽しめる3D対応デジタル液晶テレビが普及し始めたことから、手軽に立体映像を撮影できる家庭用の3D対応ビデオカメラも登場してきた。このほか、最近では、撮影した映像をその場でスクリーンや壁になどに大画面で投影できるプロジェクター機能を搭載したモデルも登場している。
参考資料:日本ビクター60年史、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、他