ビデオカメラの重要技術「手ぶれ補正機能」

ビデオカメラを購入する目的としては、子供の成長記録や、海外旅行といったことが上位に入っているが、この他にも、ドキュメンタリーや映像作品を作ってみたいというニーズもある。子供の運動会や学芸会の撮影では、我が子をズームアップして撮影したいというニーズに応えて、ズーム機能の高倍率化が進んできた。

しかし、その一方で、高倍率ズーム撮影時の手ぶれが見づらい映像となってしまう。三脚を使用すればいいのだが、パパ・ママカメラマンにとっては非常に面倒でつい手持ち撮影となる。これは、海外旅行などでも同じで重たい三脚を持って行くのは負担が大きい。孫の成長記録や友人、知人の海外旅行のビデオを見せられた方なら、ほとんどの方は、船酔いにも似た揺れで気持ち悪くなるほど、ぶれた映像を見た記憶があるだろう。

プロのカメラマンが嫌う船酔い状態の映像

手ぶれ撮影の動画が多い理由はこの他にもある。それは、撮影時にはビューファインダーや液晶モニターで被写体や画角を確認しているのだが、画面が小さいため画像がぶれていてもあまり目立たず、撮影者が気付かないことがある。一方、再生時には画面の大きいテレビやスクリーンに映し出すのだから、ちょっとのぶれでも拡大されて映し出される。これに、面白いからといって、頻繁にズーム、チルト、パンが行われる映像の揺れは、まさに船酔い状態に近い。プロのカメラマンが一番嫌う映像がこれで、家庭用ビデオカメラで撮影する時に最も注意しなければならないことである。

光学式手ぶれ補正と電子式手ぶれ補正方式の違い

撮影者が手ぶれに余り気を遣わないのであれば、カメラ側で手ぶれ補正をしてやろうということで、手ぶれ補正機能付きのカメラが開発されてきた。手ぶれ補正には、様々な方式が開発されている。光軸を調整する光学式や、撮像素子からの画像データから計算して補正する電子式などがある。光学式にはレンズシフト方式、イメージセンサーシフト方式、レンズユニットスイング方式などがある。

レンズシフト方式では、ジャイロと補正レンズの組み合わせにより、ジャイロでぶれを検知して、ぶれの分だけ補正レンズを反対方向に動かしてぶれを打ち消すもの。この方式を世界で初めて家庭用ビデオカメラに搭載したのは松下電器(現パナソニック)で、1988年光学式手ぶれ補正機能搭載S-VHSビデオカメラ「PV-460」を発売している。そして、1999年に、より小型の光学式手ぶれ補正機能を搭載したデジタルビデオカメラ「NV-DS9」を発売した。

また、キヤノンとソニーは、レンズと同じ屈折率の液体を2枚のレンズで挟み、蛇腹状に動かすことで補正する光学式手ぶれ補正方式を共同開発した。そして、1992年ソニーは、この手ぶれ補正機構を搭載したハンディカム「CCD-TR900」を発売した。また、キヤノンも1994年ビデオカメラ"ムービーボーイE1"を発売している。イメージセンサーシフト方式は、ジャイロで手ぶれを検知して撮像素子を移動させる事によって、手ぶれを補正する方式である。

ソニーが世界初の空間光学手ぶれ補正機能搭載AVCHDデジタルハイビジョン"ハンディカム"発売

レンズユニットスイング方式は、ジャイロで手ぶれを検知して撮像素子を含むレンズユニット全体を手ぶれに応じて微小回転させることによって撮影光軸を一定に保つ方式である。しかし、大きなユニット全体を動かすので消費電力も大きくなるのが欠点と言える。この方式を空間光学手ブレ補正機能として進化させたビデオカメラを発売したのがソニーで、2012年3月に世界初の空間光学手ぶれ補正機能搭載AVCHDデジタルハイビジョン"ハンディカム"「HDR-CX720V」「HDR-PJ760V」を発売した。

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ソニーの空間光学手ぶれ補正機能搭載AVCHDデジタルハイビジョン"ハンディカム"「HDR-PJ760V」

広角端から望遠端まで従来比約13倍の手ぶれ補正能力を実現

「HDR-CX720V」「HDR-PJ760V」は、広角端から望遠端まで従来比約13倍の手ぶれ補正能力を実現しており、しかも「HDR-PJ760V」には高性能プロジェクターまで搭載している。レンズからイメージセンサーまでで構成されるレンズユニット(鏡筒)全体で手ぶれを補正することにより、広角端から望遠端まで、全ての撮影範囲で従来比約13倍の手ブレ補正能力を持っている。これにより、歩きながらの撮影や、手ぶれの影響が最も現れる望遠時の撮影でも手ぶれを抑えることができる。また、鏡筒全体で手ぶれを補正するため、明るさや解像度を維持できるため、ハイビジョン時代にマッチした高精細で緻密な映像を記録することが可能となっている。

電子式手ぶれ補正は撮像素子の画素全てを有効利用できないのが欠点

一方、電子式手ぶれ補正は、撮像素子の撮影可能領域を一定のサイズに決めておき、撮影時にバッファメモリに画像データを記録、撮影した最初の画像と、それ以降の画像とを比較演算することで、ぶれ量を算出し、その分をずらして記録する方式である。撮像素子の全ての領域を使えないので、画素全てを有効利用できない欠点は有るが、シンプル・省スペースな方式である。そして、1990年にパナソニックが、世界初の電子式手ぶれ補正「ファジィ・ジャイロ」を搭載したS-VHS-Cビデオカメラを発売している。

手ぶれ補正機能は、オートフォーカス機能など並び、ビデオカメラやデジタルカメラには欠かせない重要な技術である。昨今、液晶テレビでは韓国メーカーにマーケットシェアを奪われている日本メーカーだが、ビデオカメラでは、現在でも世界的に圧倒的なマーケットシェアを維持しているのも、これらの技術力と商品開発力によるところが大きい。

参考資料:ソニーHP、ソニー歴史資料館、日本ビクター60年史、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、他