テレビの進化と密接に絡んでいる家庭用ビデオカメラ

家庭用ビデオカメラが今後どこまで進化して行くかは、映像を映し出すテレビの進化と密接に絡んでくる。テレビのハイビジョン化や3D対応が進み、さらに将来ハイビジョンより高画質のスーパーハイビジョンが実用化されれば、ビデオカメラもそれに合わせて進化して行くことになるだろう。また、デジタルビデオカメラ時代となったことで、Wi-Fi(無線LAN)が搭載されるようになってきた。デジタルビデオカメラで撮影した映像をテレビやパソコンに映し出すだけでなく、スマートフォンやタブレット端末など新しく登場してきた情報機器へ転送し、動画を共有したり、インターネットの動画サイトへ投稿したりするのに便利になって来た。

家庭用3Dビデオカメラで3Dテレビを有効活用

この他、3Dテレビへ対応する3Dビデオカメラもすでに発売されている。ソニーは世界最小最軽量を謳った最新モデル『フルハイビジョン3D"ハンディカム"「HDR-TD20V」』を2012年3月に発売した。広角29.8mmの「Gレンズ」を2眼、1/3.91型で総画素数543万画素(有効502万画素)の裏面照射型CMOSセンサー"Exmor R"(エクスモア アール)を2枚、高速画像処理エンジン「BIONZ」(ビオンズ)を2個搭載することで、右目用・左目用の各映像ともに1920×1080のフルハイビジョン映像を記録し、高画質な「ダブルフルハイビジョン」の3D映像を録画できる。

photo

ソニーの3Dカメラ最新モデル「HDR-TD20V」

3D対応テレビを買ったが、3Dテレビ放送、3D対応ブルーレイディスクなどソフト面でまだ十分な体制が整っていないため、"宝の持ち腐れ"となっているケースがほとんどである。スカパー3D専門チャネルを契約するか、3D対応ブルーレイディスクで見るしかない。3D対応の映画も米国や日本、欧州などで作られているがタイトル数はまだまだ少ないのが現状だ。となれば、自分で3D映像を撮影して楽しむことができる3Dビデオカメラの存在意義は大きい。

デジタルカメラ、スマートフォンなどビデオカメラのライバルが増加

一方、家庭用ビデオカメラメーカーは、最盛期には10社ほどあったが徐々に淘汰され、現在ではソニー、パナソニック、JVCケンウッド(旧日本ビクター)、キヤノンなど数社に絞られてきた。これは、ビデオカメラ需要が伸び悩んでいることが大きい。ビデオカメラの国内出荷台数は、160万台〜170万台にとどまっており、今後も大きな伸びは考えにくい。デジタルカメラやスマートフォンなど動画専用ビデオカメラに頼らなくでも動画を撮影できる映像機器が増えてきたことも大きな要因となっている。また、動画撮影ニーズも子供の成長記録、旅行が主であり、用途が余り広がっていないことも要因となっている。

映像文化を育てるためにビデオ作品発表の場を

ビデオカメラによる、ドキュメンタリー、ドラマ、アニメ、アートなどの作品を作る人が増えてくれば需要の裾野も広がるのだが、この分野はあまり拡大していない。こうした需要を拡大するため日本ビクターでは、1979年から「東京ビデオフェスティバル(TVF)」を開催し、世界中から作品を募集し、優れた作品を表彰してきた。

しかし、経営難のため2009年の第31回で終了している。その後、市民映像文化の振興と、既存メディアでは伝えにくい個人目線による市民ジャーナリズムの育成を目指し、市民が作る新しいスタイルの映像祭を目指した特定非営利活動法人「市民がつくるTVF」が、この流れを受け継いでスタートしている。

「市民がつくるTVF」の発起人/審査員には、世界最大の市民映像祭であった「東京ビデオフェスティバル」の審査委員を務めた映画作家の大林宣彦氏、ビデオ作家、成安造形大学教授の小林はくどう氏、映画監督の羽仁 進氏、作家の椎名 誠氏、アニメーション映画監督の高畑 勲氏らが名を連ね、市民映像作家(TVF入賞者)や教育・メディア関係者らが役員となっている。 プロ・アマの区分や応募資格に制限のないビデオ作品の発表・交流の機会として「ビデオフェスティバル」を開催、映像作品の読み解く能力を育成するメディアリテラシー教育のための研修会、講習会等を実施している。既存メディアでは伝えにくい市民目線によるメッセージの伝達や自由な責任のある映像表現の向上を目指し、市民映像文化の振興を目的にしている。

NPO法人が運営する"市民の手による新しい映像祭"としては、世界初の試みである。主な活動としては、市民が作ったビデオ作品の「発表する」「交流する」場の提供、作品を「観る」作品から「学ぶ」場を提供し、作品を通じた語り合いを通じて映像によるメッセージの伝達や映像表現の向上を目指した活動を展開することをポリシーとしている。

ビデオ作品審査は膨大な時間と様々な言語が困難をもたらす

ビデオ作品の審査は非常に難しい。難しくしている大きな要因は、時間と言語である。ビデオ作品は、短いものでも5〜10分あり、これを何10本、何100本と見て審査する時間と労力は、並大抵ではない。しかも、民族あれば言語ありで、世界中から応募された作品を審査するとなると、映像を見るだけでなく言葉も理解しなければならない。この言葉の問題が大きな障害となる。これがスチル写真であれば、沢山の応募が有ってもベテランの審査員だと、ひと目で作品の善し悪しを判断できるので、短時間で審査を終えてしまうことが可能だ。しかも、写真を見るだけだから言語の問題もない。

テレビ放送や、インターネットで一般ユーザーが撮影した動画を流しているケースがあるが、芸術性、社会性といったことより、かわいいペットや、偶然撮影できためずらしいシーンなどが中心だ。これならビデオカメラでなくても携帯電話やデジカメの動画でも十分機能する。ビデオカメラ市場が、もっと大きな市場に成長するためには、ビデオカメラだからこそできる別な角度からの需要創造が不可欠だろう。そのためにも、個人やグループが作成したビデオ作品を発表できる場を設ける必要がある。テレビ局や新聞社、国や自治体などが協力して質の高いビデオ文化を育てる環境作りが欠かせない。

参考資料:市民がつくるTVF、日本ビクター60年史、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、他