エレクトロニクス立国の源流を探る
No.78 日本のエレクトロニクスを支えた技術「ビデオカメラ&デジカメ」第9回
富士写真フイルムがデジタルカメラで先行
アナログ方式記録の電子スチルカメラは、一般家庭に普及することなく終わったが、次にデジタル記録方式のデジタルカメラの登場によって徐々に銀塩フィルムカメラに取って代わるようになって行く。1988年に富士写真フイルム(現富士フイルム)が一般向けのデジタルカメラ「FUJIX DS-1P」を開発した。そして1991年9月に同社はデジタルカメラ「FUJIX DS-100」を発売、さらに1993年1月には、初めてフラッシュメモリを記録媒体としたデジタルカメラ「FUJIX DS-200」を発売した。
フラッシュメモリは、電源を切っても記録したデータを保存できるのでデジタルカメラには、なくてならない記録媒体で、イメージングセンサーと並ぶデジタルカメラのキーデバイスである。「FUJIX DS-200」は、本体価格22万円、別売の充電池キットが2万円、16MBフラッシュメモリは6万5.000円だった。それでも「FUJIX DS-100」が記録媒体にSRAMカードを使い、記録データ保持にボタン電池を必要としたのに比べると大幅に進歩していた。
カシオ計算機の「QV-10」がデジタルカメラ普及の起爆剤に
しかし、なんといってもデジタルカメラ普及の起爆剤となったのは、1995年3月にカシオ計算機が発売した「QV-10」だろう。思い切った普及価格6万5,000円を打ち出すとともに、1.8型TFTカラー液晶モニターを搭載し、撮影した画像を見ることができ、内蔵の2BMのフラッシュメモリに96枚の画像を保存できた。撮像素子は、1/5インチ、総画素数25万画素CCDイメージセンサーを採用、現在のデジタルカメラとは比べ物にならないほどの粗い画像だが、発売当時としては画期的な製品だった。本体サイズは、幅130×高さ66×奥行き40mmで、重量190g(電池無し状態)の小型・軽量のコンパクトデジタルカメラだった。
カシオ計算機のヒット商品「QV-10」
撮影した画像データは、当時、普及していたWindows95採用パソコンに別売キットを使い、RS-232C経由で取り込むことが可能だった。これはビデオカメラでシャープが1992年に液晶モニター搭載の"液晶ビューカム"「VL-HL1」を発売して好評を博したのと同様、デジタルカメラにおいても液晶モニター搭載がスタンダードとなって行くきっかけとなったモデルだった。当時の「ビジネスショウ」では「QV-10」を出品したカシオ計算機ブースは、大勢のビジネスマンや家電メーカー、カメラメーカーなどの業界関係者で人垣ができていた。
メーカー各社が相次いで「QV-10」対抗モデルを市場に投入
「QV-10」の発売によって、それまでのデジタルカメラは高価だったため、報道機関など業務用が中心だったが、初めて一般ユーザーも手が届くようになった事が大きい。また、「QV-10」は、レンズ部分が回転式となっており、回転させれば自分の顔を写すこともできた。さらに、ビデオ出力端子を装備しており、テレビに撮影した画像を映し出すことも可能だった。また、不要な画像は簡単に削除可能で、今日のデジタルカメラに搭載されている機能を先取りしていたことも人気を呼ぶ要因となった。普及価格、コンパクト、扱いやすい機能などによってヒット商品となり、ビジネスマンやパソコンユーザーを中心にオフィスや家庭にデジタルカメラが普及して行った。この「QV-10」の成功に刺激され、メーカー各社は、その後相次いで「QV-10」対抗モデルを市場に投入して行くことになる。
デジタルカメラの電池消耗が激しくユーザーの大きな負担に
1996年3月には、エプソンが"カラリオPhoto"「CP-100」を6万9,800円で発売した。さらに、リコーは1996年6月に「DC-2」6万9,800円と「DC-2L」9万5,800円を発売した。当時は、「CP-100」をはじめデジタルカメラの欠点は、電池の消耗が激しくユーザーの大きな負担となっていたので、リコーの「DC-2L」は、光学ビューファインダーを採用し、液晶モニターを使わずとも撮影できるようになっていた。また、電池は何処でも手に入る単3型電池を4本使用。ストロボ内蔵、連写機能など多彩な機能を搭載していた。
また、DSシリーズを発売していた富士フイルムは、1996年7月に「DS-7」6万9,800円を発売した。1.8型液晶モニター搭載で、普及タイプながら高画質な小型軽量デジタルカメラを目指したモデル。電源はアルカリ単3電池4本使用。640×480ドットの画素数、世界初のSSFDC(2MB)メモリカードを採用。入出力インターフェースは、RS232C、PCカード、ビデオ出力を装備しており、パラレルインターフェースの採用によりWindowsパソコンにダイレクトに接続可能でパソコンユーザーを意識したモデル。この他、パソコンに取り込んだ画像を様々に活用できるソフトウエアが付属していた。画像ファイル、簡易データベースソフト、好みの明るさ・色合いに調整できる画質補正ソフト、スライドショーソフトなどカメラメーカーならではのきめ細かな機能が売りだった。
さらに、キヤノンは、1996年7月に「PowerShot600」12万8,000円を発売した。当時は35万画素のイメージセンサーが普通だったが、一気に57万画素CCDイメージセンサーを搭載した高画質モデル。JPEGフォーマットを採用しており、扱いやすく、TYPEIIIのPCカードスロットを搭載し外部記憶装置に簡単に接続できた。ただ、本体サイズが幅59.5×高さ92.5×奥行き58.8mmと大きめで、持ち運びに難があった。また、液晶モニターが装備されておらず、ビデオ出力も無いのが一般ユーザーには不便で、半業務用とも言えそうなモデル。
家電メーカーのソニーも"サイバーショット"「DSC-F1」を発売
家電メーカーでは、ソニーが1996年10月にデジタルカメラ"サイバーショット"の1号機として「DSC-F1」8万8,000円を発売している。1.8型液晶カラーモニター搭載のコンパクトサイズで、総画素35万画素の全画素読み出し1/3インチCCDを搭載、4MBフラッシュメモリを内蔵し、記録枚数は、画質に応じて30枚、58枚、108枚が選択できた。撮影した画像は、赤外線通信アダプターキットを接続してパソコンに高速転送でき、同時発売のデジタルカラープリンター「DPP-M55」に転送してプリントアウトできた。まさに1996年はデジタルカメラが本格的に普及し始めた年と言える。
参考資料:キヤノンHP,エプソンHP、富士フイルムHP、カシオ計算機HP、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、他