アナログからデジタルへの流れの中で、過去の歴史と未来が交錯

デジタルカメラは、テレビやラジオなどのエレクトロニクス製品と違って、何も無いところに突然現れた製品ではない。フィルムカメラ時代からの長い発展の歴史を背負っている。そのためフィルムカメラから受け継いだ技術や交換レンズなどがあり、これにデジタルならではの新しい技術も採用することで、より便利なカメラとしなければならない。一方、デジタルカメラメーカーもフィルムカメラから手がけてきた光学機器メーカーと、デジタル技術を持って参入してきたエレクトロニクス機器メーカーがあり、それぞれが持っている歴史、技術も異なる。アナログからデジタルへは、時代の流れだが、アナログ時代に培ってきた技術を生かしながらデジタルならではの特徴を出していくためには両方の技術、ノウハウが必要となる。これまで見てきたオートフォーカス技術や自動露出技術をはじめ、高精細な画像の撮影やボケ味をうまく表現する技術などはアナログ時代から引き継がれてきた。しかし、このアナログ時代の技術継承が足かせになっていることもある。

デジタル一眼レフカメラにおいては、フィルム一眼レフカメラに使っていた交換レンズを引き続き使えるようにするため、レンズマウントの互換性を保たなければならない。デジタル一眼レフカメラに最適なレンズマウントや交換レンズを新規に作れば良いのだが、これまで使ってきた交換レンズ資産は生かせなくなる。また、フィルムのサイズは、35mmフィルム、ライカ判とも呼ばれる縦36mm×横24mmのものが標準となっていた。このためデジタルカメラにおいてもフィルムカメラ並みのボケ味が出るような撮影をするには、イメージセンサーも35mmフルサイズのものが必要になってくる。しかし、35mmフルサイズのイメージセンサーは、非常に高価なためハイクラスのカメラにしか搭載することはできない。

APS-Cやフォーサーズなどがデジタル一眼レフカメラの主流に

コンパクトデジタルカメラや、携帯電話内蔵カメラのイメージセンサーには5.75mm×4.29mm、7.6mm×5.7mmなど35mmフルサイズと比べ20分の1程度の面積しかない豆粒ほど小さなイメージセンサーが使われている。イメージセンサーの画素数は大きくても面積が小さければ、一眼レフカメラで撮影した時のようなボケ味をうまく表現した撮影は難しい。この中間的存在としてAPS-C(23.6mm×15.7mm)サイズやAPS-H(28.7mm×19mm)サイズ、「フォーサーズ(17.3mm×13mm)」などのイメージセンサーがある。APS-Cサイズの名前は、フィルムで使われたAPS-C(23.4mm×16.7mm)規格に近いサイズであることに由来している。これらのサイズなら35mmフルサイズの2分の1から、3分の1ほどの面積があるので、十分とは言えないまでもカメラの設計いかんでは実用上満足できるものとなる。また、面積の小さい分、カメラやレンズの小型化が可能となる。さらに、パンフォーカスで撮影する場合、被写界深度が深くなるのでピント合わせで有利となるメリットもある。当然、カメラやレンズの小型化は、生産コストも安くなるのでデジタル一眼レフカメラの主流となっていった。

APS-Cサイズのデジタルカメラを発売したメーカーは、ニコンやキヤノンをはじめソニー、ペンタックス、富士フイルムなどがある。また、「フォーサーズシステム(Four Thirds System)」は、デジタル一眼レフカメラのイメージセンサーの共通規格としてオリンパスとコダックによって提唱された規格だ。イメージセンサーのサイズが4/3型(約17.3mm×13mm)であることから「4」と「3」をとってフォーサーズの名称となった。また、レンズマウント及び交換レンズも新たにフォーサーズ規格のものとなっている。「フォーサーズシステム」を採用したデジタル一眼レフカメラの第1号機を発売したのはオリンパスで、2003年10月に「オリンパスE-1」を発売している。イメージセンサーは、4/3型CCD、有効画素数500万画素を搭載した。本体サイズは、幅141×高さ104×奥行き81mm、質量は約660gと小型・軽量化を実現していた。

フォーサーズの拡張規格マイクロフォーサーズが登場

さらに、2008年8月に、フォーサーズシステムの拡張規格として「マイクロフォーサーズシステム」をオリンパスイメージングと松下電器(現パナソニック)が発表した。フォーサーズシステム規格を拡張し、大幅な小型・軽量化を実現できるようにしたもの。デジタル一眼レフカメラは「操作が難しい」「大きい」「重い」という理由から、マニア層が中心で一般ユーザーは、コンパクトデジタルカメラを購入するケースが多かった。このため、オリンパスイメージングと松下電器は、「フォーサーズシステム規格」の新製品開発にあたって、ライブビュー機能やコントラスト検出方式によるオートフォーカスシステムなどをデジタル一眼レフカメラに取り入れ、カメラの使い勝手の向上を図って来た。しかし、それでも限界があるため、さらにレンズ交換式デジタル一眼システムの大幅な小型・軽量化を実現するため「フォーサーズシステム規格」を拡張した「マイクロフォーサーズシステム規格」を新たに策定した。

「マイクロフォーサーズシステム規格」の主な特長は、レフレックス(反射)ミラーが無いミラーレス構造を採用しているのが最大の特長だ。これにより、フランジバック(マウントと撮像素子との間隔)が「フォーサーズシステム規格」の約1/2に短縮されている。さらに、マウント径を縮小。「フォーサーズシステム規格」より、外径が約6mm小さく、マウント電気接点数は9点から11点に増えている。これらによって、コンパクトカメラとは一線を隔した高画質を実現しながら、カメラボディー本体や広角系レンズや高倍率ズームレンズを小型化することができた。また、電気接点数を増やしたことにより、新機能への対応などを含めた拡張性・将来性を確保している。さらに、「フォーサーズシステム規格」との互換性についても配慮されており、アダプターを介して「フォーサーズシステム規格」に準拠した交換レンズも使用することができる。

パナソニックが世界初のミラーレス一眼カメラ「LUMIX DMC-G1」発売

「マイクロフォーサーズシステム規格」の第1号機を発売したのは、パナソニックで、2008年10月に「LUMIX DMC-G1」を発売した。これが世界初の"ミラーレス一眼カメラ"であり、レンズ交換式デジタルカメラに、"デジタル一眼レフカメラ"と"ミラーレス一眼カメラ"の二つのジャンルが誕生することとなった。さらに、ソニーやニコン、キヤノンも"ミラーレス一眼カメラ"に参入し、デジタルカメラ市場は一段と複雑な状況となっていった。ユーザーにとっては、様々な方式のデジタルカメラの特徴を把握し、自分の撮影目的に最もかなった方式、機種選びが可能になってきた。

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世界初のミラーレス一眼カメラ、パナソニック「LUMIX DMC-G1」

参考資料:「匠の時代」(内橋克人著講談社文庫)、テレビ東京「未来世紀ジパング」、コニカミノルタホールディングスHP、キヤノンHP、ニコンHP、エプソンHP、富士フイルムHP、カシオ計算機HP、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、他