エレクトロニクス立国の源流を探る
No.85 日本のエレクトロニクスを支えた技術「ビデオカメラ&デジカメ」第16回
ミラーレス一眼がデジタルカメラ市場に一石を
パナソニックが2008年にミラーレス一眼「DMC-G1」を発売したことによって、デジタルカメラ市場は新たな局面を迎えるとになった。カメラやレンズ、カメラ用品などのメーカーが中心となって設立しているカメラ映像機器工業会(CIPA)では、1999年から出荷統計にデジタルカメラを加えているが、2000年には出荷金額で銀塩カメラ320,008(単位:百万円)、デジタルカメラ437,979(単位:百万円)とデジタルカメラと銀塩カメラが逆転している。
さらに、出荷台数ベースでは2002年に銀塩カメラが23,660(単位:千個)、デジタルカメラが24,551(単位:千個)とデジタルカメラと銀塩カメラが逆転している。その後、銀塩カメラは急速に出荷台数が減少して行き、2007年で出荷統計が最後となり2008年からはデジタルカメラのみの統計となった。デジタルカメラの出荷統計が始まってからわずか9年で銀塩カメラが姿を消すという劇的な市場の変化となった。
くしくも世界初のミラーレス一眼「DMC-G1」がパナソニックから発売されたのは、その2008年であり、後にデジタル一眼レフカメラとミラーレス一眼カメラが、レンズ交換式高級デジタルカメラ市場を二分する形で発展していくきっかけとなったのは何か因縁を感じさせる。ミラーレス一眼カメラの登場によって、カメラ映像機器工業会(CIPA)では、2012年からレンズ交換式カメラのカテゴリーを「一眼レフ(デジタル一眼レフカメラ)」と「ノンレフレックス(ミラーレス一眼カメラ)」に分け統計を取るようになった。
2012年のミラーレス機の台数構成比約20%、国内は約44.4%
ミラーレス一眼カメラが2008年に始めて発売され、わずか4年後の2012年に統計に加えられたということは、ミラーレス一眼カメラの普及が如何に急速であったかということを示している。レンズ交換式カメラにおけるミラーレス一眼カメラの台数構成比は、初めて統計が取られた2012年は、レンズ交換式計20,157,053台、ノンレフレックス3,956,602台となり、約20%を占めている。国内出荷台数だけ見ると、レンズ交換式計1,832,178台、ノンレフレックス814,466台となり、約44.4%を占めている。つまり、ミラーレス一眼カメラは国内から普及し始め、やがて世界に普及し始める有望商品となった。
ミラーレス一眼カメラは、何故そんなに急速に普及し始めたのだろうか。市場背景を見てみるとデジタル一眼レフカメラが登場したものの、従来の銀塩一眼レフカメラとサイズ、重量は変わらず、大きく重たいことが幅広い層に普及するのを阻害していた。また、価格が高いこともその一因であった。それでも、ニコンやキヤノンなどブランド力のあるメーカーは、30%〜40%の高いシェアを維持しておりビジネスとしては十分だった。しかし、新規に市場参入したメーカーにとっては、マーケットが拡大しなければビジネスとしてうま味が無い。そこで、従来のコンパクトデジタルカメラのユーザーや、女性ユーザーに市場を拡大することでパイを大きくする必要があった。
主婦や女性層などにユーザーを広げたミラーレス機
ミラーレス一眼カメラの特徴は、先に紹介した通りだが、パナソニックの「DMC-G1」でもう少し詳しく見てみよう。まず、第一の特徴は、マイクロフォーサーズシステム規格を採用し、従来の一眼レフの小型化を妨げていたミラーを取り払ったミラーレス構造としたことだ。従来のミラーBOXでの測光・測距から撮像センサーで受けた情報をダイレクトで読み取り、AFは高精度・高速のコントラストAF方式を採用した。そして、フランジバックを従来の約40mmから約20mmへ大幅に短縮、レンズを小型化している。第二は、ミラーレス構造のため144万ドットの高精細LVF(ライブビューファインダー)を採用したことだ。そして、第三は、コンパクトカメラで搭載している「おまかせiA」をレンズ交換式デジタルカメラに採用したことである。初めてレンズ交換式カメラを使う人でも簡単に使えるようにした。
また、動体追尾AF/AE機能「追っかけフォーカス」も搭載し、指定した被写体に自動でピントや露出を合わせ続けることを可能とした。被写体をロックするとカメラが被写体を自動的に追い続け、ペットや赤ちゃん、スポーツシーンなどでシャッターを切るタイミングに集中して撮影することができる。このほか、最大15人まで顔を検出する「顔認識AF/AE」機能。被写体やシーンに合わせて自動で明るさを補正する「暗部補正」&「逆光補正」機能。フラッシュを使った人物撮影での「デジタル赤目補正」機能などコンパクトデジタルカメラで好評だった機能を搭載することで、主婦や女性層などにユーザーを広げていった。
イメージセンサーは、4/3型1210万画素「Live MOSセンサー」を搭載し高画質を実現している。「Live MOS センサー」は、広いダイナミックレンジと豊かな階調性が特徴のCCDとCMOSの低消費電力性能を併せ持つ。実は、ミラーレス機は構造上イメージセンサーを常に動作させ続けなければならないため、その発熱や消費電力が問題となる。しかし、日進月歩のイメージセンサー技術の進歩によって、ライブビューやコントラスト検出AFを可能とする低消費電力のイメージセンサーが、このころになると実用化されていたので、ミラーレス化が可能となっていた。
そして、レンズ交換式カメラでは、レンズ交換時にセンサーに付着したゴミやホコリが写真に写りこむことが問題となっていたが「スーパーソニックウェーブフィルター」を搭載することで5万回/秒の超音波振動によりゴミやホコリを自動的に瞬時に取り払うことができた。また、撮像センサー部は、ゴミやホコリが入りにくい密閉型構造でゴミやホコリを気にせずレンズを自由に組み合わせて撮影できた。また、ミラーレス機はAFにレフレックス機より時間がかかると言われていたが、新開発のコントラストAFを採用し、従来のミラー構造機「L10」のコントラストAFと比較して約3倍の高速化を実現していた。これにより、ミラーレス機ながら高いAF精度と快適なAF操作を実現した。
将来、ミラーレス機が一眼レフ機を逆転か?
「DMC-G1」の成功によって、ミラーレス市場へ参入するメーカーも増えていった。ソニーもAPS-Cミラーレス機「NEX-5」「NEX-3」を2010年に発売した。韓国のサムスン電子も2010年にミラーレス機「NX10」を発売。2011年にはペンタックスとニコンが、2012年にはキヤノンが発売したことで、主要なカメラメーカーが揃ってミラーレス市場へ参入する形となった。こうした流れからデジタルカメラが銀塩カメラに取って代わったように、将来、ミラーレス機が一眼レフ機を逆転するとの予測もある。
ミラー構造とミラーレス構造の違い(パナソニックの資料から)(※クリックすると画像が拡大します。)
参考資料、カメラ映像機器工業会(CIPA)HP、コニカミノルタホールディングスHP、キヤノンHP、ニコンHP、エプソンHP、富士フイルムHP、カシオ計算機HP、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、他