エレクトロニクス立国の源流を探る
No.86 日本のエレクトロニクスを支えた技術「ビデオカメラ&デジカメ」第17回
世界的な景気後退や災害の影響を受け一時低迷したデジタルカメラの総出荷
わが国のデジタルカメラの総出荷実績は2007 年 に初めて 1 億台を突破し右肩上がりで推移してきた。さらに、2008年にパナソソニックからミラーレス一眼「DMC-G1」が発売されたことなどによってデジタルカメラ総出荷実績は前年比119.3%、1億1975万台と拡大した。しかし、2009 年に入ると世界的な景気後退の影響を受け、総出荷実績は前年比88.4%、1億586万台 (CIPA調べ)と初めて前年実績を下回った。2010 年はその反動もあって前年比114.7%、1億2146万台と過去最高を記録したが、翌2011 年は 3 月 11 日の東日本大震災や生産拠点であるタイの洪水による生産停滞の影響を受け、前年比95.1%、1億1552万台と低迷した。その影響は2012 年まで続き、前年比 85.0%、9814万台と1億台を割ることとなった。
デジタルカメラの総出荷実績が不振だった最大の要因は、台数ベースで構成比の高い(約8割)コンパクトデジタルカメラ(レンズ一体型デジタルカメラ)が2012年は前年比78.1%、7798万台に落ち込んだことが大きい。 逆にレンズ交換式デジタルカメラは、前年比128.4%、2015万台と増加している。CIPAでは、新規カテゴリーであり、参入が相次ぐノンレフレックス(ミラーレス一眼)が、新たなファン層の開拓に貢献。一眼レフとノンレフレックス(ミラーレス一眼)が、それぞれの特性に合ったユーザー層を獲得したことが成長に拍車を掛ける要因となったと分析している。
半導体や液晶テレビの二の舞を演じる可能性は?
世界の景気変動の影響などによって紆余曲折は予想されるものの、デジタルカメラは日本のエレクトロニクス産業の柱として、今後も成長が期待されている。しかし、「日本のメーカーが現在のように将来も世界市場をほぼ独占して行けるか」と言うと疑問符が付くのを心配する人も多いだろう。なぜなら、過去に半導体や液晶テレビでは、韓国メーカーに市場を奪われた経験があるからである。デジタルカメラが、その二の舞を演じる可能性があると心配する人も多い。
薄型テレビの世界シェアは、2004年に1位のシャープは26.4%、2位パナソニック16.6%、3位ソニー12.6%、4位サムスン6.5%だった。それが、2011年に1位サムスン23.8%、2位LG13.7%、3位ソニー10.6%、4位パナソニック7.8%、5位、シャープ6.9%と韓国勢に1位、2位の座を奪われ、完全に逆転している。
デジタルカメラの世界シェアは、2011年で1位キヤノン16.8%、2位ソニー16.1%、3位ニコン15.2%、4位サムスン9.6%であるが、薄型テレビのようにならないとの保証は無いのである。また、カメラ付き携帯電話の普及によってデジタルカメラの需要が減少することを心配する人もいる。すでに、サムスンはスマートフォン機能内蔵のデジタルカメラ"ギャラクシーカメラ"を発売し積極的にチャレンジしている。
レンズ交換式デジタルカメラは「デジタル技術+アナログ技術の集大成」
しかし、この件に関しては、2012年10月に放送されたテレビ東京の「未来世紀ジパング」という番組で「デジタルカメラは半導体や液晶テレビのような二の舞を演じることは無い」と言う未来予測をしている。それによると、コンパクトデジタルカメラでは韓国などのメーカーでも参入できるが、レンズ交換式デジタルカメラに関しては「デジタル技術+アナログ技術の集大成」であり、簡単には参入できないと言うのである。
ここで言うアナログ技術とは交換レンズのことである。交換レンズは、1本数十万円から100万円以上のものもあり、カメラ本体より高いものも多い。レンズ造りはノウハウの部分が大きく、職人が磨き上げることによって造るといった要素が強い。しかも、カメラメーカーは過去に造って来た豊富な交換レンズ資産を持っている。ニコンなどは80種類以上の交換レンズを持ち、ユーザーは使用目的に応じて最適なものを選ぶことができる。交換レンズはカメラメーカーによって本体に取り付けるレンズマウントが異なるので他社のカメラでは使うことができない。
デジタルカメラのキーデバイス"イメージセンサー"で世界をリード
さらに、デジタルカメラのキーデバイスであるイメージセンサーは、ソニーなど日本のメーカーが大きなシェアを持つっている。ソニーのイメージセンサーのシェアはコンパクトデジタルカメラ用で約6割、レンズ交換式デジタルカメラ用に関しては約3割のシェアを持つと言う。パソコンのテレビCMで"インテル、入ってる"と世界のパソコンメーカーがキーデバイスであるインテル製のCPUを搭載していることをアピールしていたのを記憶している人も多いはずだ。このデジタルカメラ版がイメージセンサーと言う訳である。
ソニーが高いマーケットシェアを持つイメージセンサー
カメラ業界にとってドル箱となっている交換レンズ
2012年のデジタルカメラの総出荷実績を見ると、台数ベースで全体の約8割を占めるコンパクトデジタルカメラ(レンズ一体型)だが、金額ベースでは714,951,267(千円)と、レンズ交換式の753,163,393(千円)を下回っており、両者の単価の差が歴然と現れている。しかも、レンズ交換式には交換レンズがこれに加わる。交換レンズの出荷は、銀塩フィルムカメラ時代は5,000千個から6,000千個強で推移していたが、デジタルカメラが台頭してきた2005年には7,063千個(前年比131.9%)、2006年に8,770千個(同124.2%)、2007年に12,514千個(同142.7%)、2008年に15,655千個(同125.1%)、2009年に16,095千個(同102.8%)、2010年に21,695千個(同134.8%)、2011年に26,015千個(同119.9%)、2012年に30,372千個(同116.7%)と2桁アップで推移している。
デジタルカメラの総出荷台数が前年割れした年でも交換レンズは高い伸びを見せており、カメラ業界にとってはドル箱といえる存在となっている。交換レンズの総出荷は金額ベースで見ても2004年以降、高い成長率で推移している。唯一の例外は、2009年の前年比87.1%で、これを除くと高度成長が続いている。2003年の70,705(百万円)から、2006年には200,423(百万円)に、さらに、2012年には478,825(百万円)とカメラ本体を大幅に上回る高度成長となっている。
参考資料:カメラ映像機器工業会(CIPA)HP、テレビ東京「未来世紀ジパング」、コニカミノルタホールディングスHP、キヤノンHP、ニコンHP、エプソンHP、富士フイルムHP、カシオ計算機HP、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、他