エレクトロニクス立国の源流を探る
No.88 日本のエレクトロニクスを支えた技術「ビデオカメラ&デジカメ」第19回
ヘビーユーザーと簡単操作を求めるユーザーの2極分化に対応
デジタルカメラの技術的な進歩はめざましく、高画質化、高感度化、使い勝手などにおいて十分満足できるレベルに進化した。しかし、インターネットの普及、スマートフォンや薄型大画面テレビの普及にともないユーザーニーズも多様化してきたことで新たなニーズに応える必要が出てきた。例えば、「デジタルカメラで撮影した画像をリビングの大画面テレビで見たい」、「スマートフォン経由のSNSで簡単にシェアしたい」などのニーズが出てきた。その一方で、パソコンを使い慣れていないユーザーでは「自分で撮影した写真を、パソコンを使わず簡単にプリントしたい」という要求が出てきた。
つまり、インターネットを使ったり、スマートフォンをはじめとする多彩なデジタル機器と融合したりの新しいデジタルカメラの用途を追求するヘビーユーザーと、複雑な使い方はしないが簡単にプリントアウトしたいというユーザーの2極分化に対応する必要が出てきた。「パソコンを使わず簡単にプリントしたい」というニーズに対しては、PictBridge(ピクトブリッジ)規格が出来た。PictBridge規格によって、パソコンを使わずに、デジタルカメラとプリンターを直接ケーブル接続してダイレクトプリントが可能となる。
従来デジタル画像のプリントはパソコンへのデータ転送やアプリケーションソフトが必要で簡単ではなかった。特定のデジタルカメラと特定のプリンター間でケーブルを使って印刷する方法は、数社から製品化されていた。しかし、メーカーの異なるデジタルカメラとプリンターでは接続不可能だった。このため、メーカーを問わず、デジタルカメラからプリンターへダイレクトプリントするための新たな規格としてPictBridge規格が誕生した。
PictBridge 規格はカメラ映像機器工業会 (CIPA) が主導的役割を
PictBridge 規格は、2002年12月にキヤノン、オリンパス、セイコーエプソン、ソニー、ヒューレット・パッカード、富士写真フイルムが共同提案した規格案をもとに、2003年2月、カメラ映像機器工業会 (CIPA) が業界の標準規格としたものである。PictBridge規格に対応した製品ならデジタルカメラとプリンター間の接続にUSBケーブルを用いたり、赤外線通信を使ったりして画像を転送できる。PictBridge 規格は、カメラ映像機器工業会 (CIPA)がまとめた規格であり、主要なデジタルカメラメーカー、プリンターメーカーが賛同していることから実質的には世界標準規格と言えるだけに、我が国のエレクトロニクス製品の競争力アップに大いに貢献している。
ヘビーユーザーのニーズに応えたWi-Fi"ワイファイ"規格
一方、ヘビーユーザーのニーズに応えたのはWi-Fi(Wireless Fidelity)"ワイファイ"規格である。無線LANの規格のひとつで、米国に本拠を置く業界団体Wi-Fi Allianceによって、国際標準規格のIEEE 802.11規格を使用したデバイス間の相互接続が保証されていることを認めたもの。
当初、無線LANは同一メーカーであってもラインナップの異なる製品間では相互接続は保証されておらず、実際に接続可能かどうか不安があった。こうしたユーザーの不安を無くすため1999年にWECA(Wireless Ethernet Compatibility Alliance)がスタート、2000年3月から認定業務を開始した。その後Wi-Fiの認知度が高まり、2002年10月にWi-Fi Allianceに改名している。Wi-Fiロゴのある製品であれば、メーカーが違っていても接続可能となる。
メーカー各社がWi-Fi規格搭載の新製品を相次いで発売
Wi-Fi規格を搭載したデジタルカメラは、急速に増えている。2013年に発売されたデジタルカメラを見ると、キヤノンはコンパクトデジタルカメラにWi-Fi規格を搭載。「サーバー経由転送」によって旅先で撮影した映像を自宅のパソコンに自動転送できるようにしている。また、「パワーショットN」では、ワンタッチスマホボタンを押すだけで、登録した端末に自動接続。写真や動画を送信でき、スマートフォンで画像の閲覧ができる。パナソニックもWi-Fi規格の搭載やNFC(近距離無線通信)の搭載に力を入れている。スマホ/タブレット専用の通信ソフト「パナソニック・イメージApp」をインストールすることで、リモート撮影や再生、転送が出来る。また、NFC機能を使ってWi-Fiの初期設定や接続も可能となる。
富士フイルムも"ファインピックス"「F900EXR」にWi-Fi規格を搭載。無料の専用アプリ「富士フイルム・カメラ・アプリケーション」をダウンロードすると撮影した映像を簡単にスマートフォンやタブレット端末に送信できる。また、ソニーも"サイバーショット"の新製品にWi-Fi規格を搭載。スマートフォンやタブレット端末から遠隔操作で撮影できる"スマートリモコン"機能を持っている。さらに、モバイル端末とカメラを無線接続することで、写真や動画を独自のクラウドサービス"プレイメモリーズ・オンライン"にアップロードし公開できる。
また、ニコンもコンパクトデジタルカメラの新製品にWi-Fi規格を搭載。撮影した映像を簡単にスマートフォン転送できる。この他、カシオ計算機やオリンパスは、カメラ本体にWi-Fi規格は内蔵していないが、Wi-Fi規格内蔵のSDカード「Eye-Fi」や、「FlashAir」により対応可能としている。
総需要の低迷を高付加価値モデルでカバー
カメラメーカーとしては、デジタルカメラの総需要が低迷する中で、成長著しいデジタル一眼レフ、ミラーレス一眼などレンズ交換式デジタルカメラに力を入れるとともに、高付加価値のコンパクトデジタルカメラ分野にシフトして行くことで収益性を高める戦略に転換している。このため、Wi-Fi規格の搭載やPictBridge規格への対応などユーザーに新たな提案を行っている。
キヤノンのWi-Fi規格搭載デジタル一眼レフカメラ「EOS70D」
参考資料:カメラ映像機器工業会(CIPA)HP、コニカミノルタホールディングスHP、キヤノンHP、ニコンHP、エプソンHP、富士フイルムHP、カシオ計算機HP、ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、シャープHP、JEITA・HP、他