エレクトロニクス立国の源流を探る
No.92 日本のエレクトロニクスを支えた技術「イメージセンサー」第3回
携帯電話向けイメージセンサー市場で激戦続く
ソニーは、2010年10月に世界初の有効1641万画素の携帯電話向け裏面照射型CMOSイメージセンサー"Exmor R"と同センサーを採用して業界最小・最薄を実現したレンズモジュール1モデルを含む小型オートフォーカスレンズモジュール計2モデルの商品化を発表した。"Exmor R"は、11.12μm単位画素を採用し、世界初となる1/2.8型有効1641万画素を実現している。フラッシュが装備しづらい携帯電話などでは高感度性能が優先される。これにより薄暗いシーンでも低ノイズで高画質な静止画や動画撮影が可能な携帯電話となる。
ソニーの携帯電話向け裏面照射型CMOSイメージセンサー"Exmor R"モジュール
これまでソニーセミコンダクタ九州長崎テクノロジーセンターの直径200mmウェーハラインで、デジタルスチルカメラやビデオカメラ向けの"Exmor R"生産を行ってきたが、新モデルを含めて同熊本テクノロジーセンター(熊本テック)の最先端製造技術である直径300mmウェーハラインでも生産を開始するため約400億円の設備投資を行った。
パナソニックが新MOSイメージセンサーSmartFSI技術開発
一方、パナソニックは、半導体を製造しているセミコンダクター社がMOSイメージセンサーνMaicovicon(ニューマイコビコン)の高感度化と、薄型カメラで問題となる画像の色ムラや輝度ムラを抑制した画質の均一性とを両立する、高感度、高画質の新MOSイメージセンサーSmartFSI技術開発に成功。2011年12月よりデジタルカメラ向けに量産を開始した。イメージセンサーの高感度と画質の均一性を両立したことによりデジタルカメラやムービー、スマートホンを含む携帯端末に搭載されるカメラをより一層、高感度化、高画質化、薄型化を可能とした。
パナソニックの新MOSイメージセンサーSmartFSI
業界最高の高感度3050el/lx/sec/μm2を実現
新MOSイメージセンサーSmartFSIは、最先端半導体微細技術により、業界最高の高感度3050el/lx/sec/μm2を実現している。集光率と光電変換効率を向上させるために、配線層の低背化及び開口面積とフォトダイオード体積の拡大を可能とする32nm、45nmの最先端半導体プロセス技術を導入した。これらの技術により業界最高の集光性能を達成している。さらに、フォトダイオードのノイズに影響を与える素子分離形成の低ダメージ化と微細化を両立させることにより、フォトダイオードのノイズを抑制しながらフォトダイオード体積を拡大させ、光電変換効率を最大化させている。
デジタルカメラの薄型化による混色現象や集光率の低下を解消
デジタルカメラは、年々薄型化が進んでいるが、薄型化によってレンズとイメージセンサーの距離が短くなる。このためレンズを通ってイメージセンサーへ届く入射光の角度は、センサー周辺の画素では非常に大きくなる傾向にある。このため、隣接画素へ光が混ざる混色現象や集光率の低下が起きる。その結果、画像の中心部と周辺部で色や明るさの違いが生じ、色ムラや輝度ムラが起きてくる。光は構造の境界面において、反射、屈折だけでなく、波動的な光の漏れが生じ、あたかも合わされた2枚の板の境に落とされた水が境目を横方向に広がるイメージとなる。
3次元波動解析を駆使し光の漏れを最小化することに成功
一般に、イメージセンサーでは、画素への入射光がオンチップレンズ、カラーフィルター、集光構造を通り、フォトダイオードで電子に変換される。しかし、カラーフィルターと集光構造の境界面や、集光構造とフォトダイオードの境界面で光の漏れを生じてしまう。しかも、光の漏れは、入射光の角度が大きくなると顕著になり、混色の原因となり、これがデジタルカメラ薄型を難しくしていた一因である。新MOSイメージセンサーSmartFSIでは、3次元波動解析を駆使し、オンチップレンズ、集光構造の径と高さを最適設計することにより、境界面における光の波動を制御し、光の漏れを最小化することに成功している。
新MOSイメージセンサーSmartFSIは、シンプルな工程で量産できるMOSイメージセンサー構造であり、32nm、45nmの最先端半導体プロセス技術を導入したことなどで供給の安定も可能となった。携帯電話やスマートホン、タブレット端末など薄型の機器にもデジタルカメラが搭載されるようになってきたため、薄型化が可能なMOSイメージセンサーを安定的に量産できるメリットは大きいものが有った。
新MOSイメージセンサーSmartFSIで携帯電話市場に再参入、挽回目指す
新MOSイメージセンサーSmartFSIの量産は、2012年12月から月産50万個でスタート。富山県の魚津工場で前工程を、後工程はシンガポール工場で行っている。新MOSイメージセンサーSmartFSIの投入によって、11年度は約100億円だったMOSセンサーの売上を15年度に700億円に増やす計画だ。同社は、収益性が低いため07年に携帯電話、スマートホン向けの市場から撤退していたが、この新MOSイメージセンサーSmartFSIの開発、量産に成功したことで携帯電話市場に再参入した。市場では、裏面照射型CMOSイメージセンサーが先行しているが、新MOSイメージセンサーSmartFSIで挽回していくのが狙いである。携帯電話向けイメージセンサー市場で激戦が続く。
参考資料:ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA HP、東芝HP、シャープHP、キヤノンHP、電波新聞他