薄型化競争が続くデジタルカメラに対応したイメージセンサー開発

コンパクトデジタルカメラ市場においては、カメラの薄型化やファッショナブルなデザイン競争が続いていたが、旅行先などで室内撮影や夜景の撮影の際、ノイズの少ないきれいな画像を撮影できることも重要なセールスポイントとなっていた。このためには暗所でもノイズの少ない高画質な映像を撮影できるイメージセンサーの開発が求められていた。ソニーは2008年に従来比約2倍の感度および低ノイズで高画質を実現した裏面照射型CMOSイメージセンサーを新開発しており、2009年に世界で初めてこの裏面照射型CMOSセンサーを搭載したデジタルハイビジョン"ハンディカム"2機種を発売していた。しかし、まだ高価だったため普及タイプのコンパクトデジタルカメラへの搭載は出来なかった。

ソニーが初めて裏面照射型CMOSセンサーをデジタルカメラへ採用したのは、2009年に発売した"サイバーショット" "Wシリーズ" "Tシリーズ"だった。高感度が特徴の「裏面照射型構造」のCMOSセンサーを搭載することにより、室内や夜景などの暗所でもノイズの少ない高画質な画像を撮影できることで人気を呼んだ。"Wシリーズ"は、裏面照射型CMOSセンサーの性能を生かすため新開発のF2.4、光学5倍ズームの沈胴式高性能レンズ「Gレンズ」を搭載。高倍率な沈胴式レンズを搭載しながら本体の厚さ19.8mmのコンパクト設計を実現していた。また、"Tシリーズ"は、最薄部が14.1mmのスリムでスタイリッシュなデザインを実現していた。

暗所撮影時のノイズを最大で従来比約1/4に低減

両シリーズには、有効1020万画素1/2.4型CMOSセンサー"Exmor R"を搭載し、従来のイメージセンサーの約2倍の高感度を生かすとともに、高速処理の画質エンジン「BIONZ」と高精度・高速シャッターユニットとの連携により、フル画像サイズ(10メガサイズ)で秒間10枚の高速連写も可能だった。特に、暗所撮影時のノイズを最大で従来比約1/4に低減する「手持ち夜景モード」の搭載が注目された。この「手持ち夜景モード」では、高速連写した6枚の画像を、高速・高精度に重ね合わせて1枚の画像を生成することにより、暗所撮影時に発生するノイズを約1/2に低減。加えて"ExmoroR"の搭載により、ノイズの発生そのものを約1/2に抑制でき「手持ち夜景モード」ではノイズを従来比約1/4に低減した美しい夜景の撮影が可能だった。また、「人物ブレ軽減モード」では、6枚の高速連写した画像を高精度に重ね合わせ、被写体のブレ補正。動いている人物と背景に対してそれぞれ異なる重ね合わせ処理を行い、手ブレも被写体ブレも抑えた人物撮影が可能だった。

さらに、高速読み出し可能なCMOSセンサーと高速処理「BIONZ」を搭載したことで、高速連写した最大100枚の画像を自動的につなぎ合わせてパノラマ写真を撮影することができる「スイングパノラマ」機能も搭載していた。シャッターボタンを押してカメラを横方向や縦方向へ一振りするだけで、カメラ本体内でパノラマ画像を約1秒で自動的に作成することができ、手軽にパノラマ撮影が可能だった。高感度な裏面照射型CMOSイメージセンサーならではの特徴をフルに生かしたカメラと言えよう。

東芝も裏面照射型CMOSイメージセンサーの量産、出荷開始

高感度なイメージセンサーの開発は、デジタルカメラ以外にも携帯電話やスマートフォン、タブレット端末などに搭載するカメラにも大きく貢献してくる。このためイメージセンサーメーカー各社ではより高感度なイメージセンサーの開発に力を入れている。東芝でも2013年11月にスマートフォンやタブレットのカメラ向けに、色ノイズ低減回路(CNR回路)を搭載した、解像度8メガピクセル、画素サイズ1.12マイクロメートルの裏面照射型CMOSイメージセンサー「T4K35」の量産、出荷を開始した。

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東芝の裏面照射型CMOSイメージセンサー「T4K35」

東芝独自のCNR回路をワンチップに搭載することで、小さい画素サイズながら、画素サイズ1.4マイクロメートルの従来製品と同等のSN比を実現している。さらに、ハイダイナミックレンジ(HDR: High Dynamic Range)機能を搭載し、明暗差が大きい場所でも高品質な画像を撮影することが可能だ。そしてフル画素出力で30フレーム/秒の高フレームレートを実現、シャッターボタンを押してから実際に撮影されるまでの時間差(レリーズタイムラグ)の縮小や、連続撮影も可能としている。

成長分野としてカメラメーカー、半導体メーカーが大きな期待を寄せる

また、多彩なイメージセンサーを開発している東芝では、車載用ビューカメラ向けCMOSイメージセンサー「TCM5126GBA」を2013年11月からサンプル出荷を開始した。ハイダイナミックレンジ(HDR: High Dynamic Range)機能を搭載、太陽や車のヘッドライトによる逆光条件でも被写体を高品質な映像で出力することが可能だ。このため、後方駐車支援用カメラ 、車載用ビューカメラ(バックビュー、アラウンドビュー、サイドビュー)としての活用が期待されている。また、パッケージサイズを従来製品と比較して約30%削減できるので、カメラシステムの小型化も可能となる。こうしたイメージセンサーの進化は、デジタルカメラやビデオカメラ以外にも様々な機器に応用される可能性が出てきた。このため、カメラメーカーだけでなく半導体メーカーも、今後の成長分野として大きな期待を寄せている。

参考資料:ソニーHP、ソニー歴史資料館、東芝HP、パナソニックHP、JEITA・HP、シャープHP、キヤノンHP他