エレクトロニクス立国の源流を探る
No.96 日本のエレクトロニクスを支えた技術「イメージセンサー」第7回
性能、価格のトータルでバランスが重要
"電子の目"としてのイメージセンサーは、映像を扱う様々なエレクトロニクス製品に大きな影響を与えている。動画や静止画を撮影するデジタルカメラやビデオカメラ。その映像を記録したり、伝送したりする機器、そして映像を表示し、人が見ることの出来る液晶テレビやパソコンなどもイメージセンサーの性能に大きく影響される。日進月歩で進化しているイメージセンサーは、前回紹介したように人間の目を超える"究極のイメージセンサー"まで行き着くだろう。しかし、現実の問題としては、機器の性能にマッチしたスペックのイメージセンサーであること、コストもそれに見合ったものであることなど、トータルでバランスがとれていることが重要となる。
用途に見合った画素数で十分
例えば、パソコンに表示する画像なら200万画素のイメージセンサーを搭載したデジタルカメラで十分といえる。1200×1600ドットのパソコンでも表示ドット数は192万ドットである。さらにデジタルハイビジョンパネルなら1920×1060ドットで207万画素であり、解像度という点だけを見るならば200〜300万画素のイメージセンサーで十分ということになる。逆に、必要以上に画素数の多い高画質映像だと、映像記録装置に蓄積できる画像枚数や、動画の保存時間に制約が多くなる。また、高画質な画像はインターネットを使いEメールで送る場合にもデータが大きくなりすぎて添付枚数が制限されてくる。
1000万画素〜3000万画素を超える画素数競争激化
それでも、現実にはデジタルカメラやスマートホンのカメラに使用されているイメージセンサーの画素数は、1000万画素を超え、さらにはデジタル一眼レフカメラでは、3000万画素をも超えるものも発売されるようになってきている。スマートホンやカメラメーカーが画素数を競い、高画質な製品であることをユーザーに訴求していることもあるが、画素数の大きなイメージセンサーでも画質モードを切り換えて少ない画素数の映像で撮影できるからだ。"大は小を兼ねる"という訳である。
表現力の発揮に有利な大型イメージセンサー
デジタルカメラ市場は、2008年あたりからコンパクトデジタルカメラからデジタル一眼レフカメラやデジタル一眼カメラ(ミラーレス一眼)などのレンズ交換式カメラへとシフトしてきた。その動きにともない画素数だけでなくイメージセンサーのサイズが重視されている。デジタルカメラ用大型イメージセンサーの代表的なサイズとしては、35mmフルサイズ、APS-Cサイズ(23.4mm×16.7mm)、フォーサーズ(約17.3mm×13mm)などがある。撮影の際、サイズが大きいほど、ボケ味などの表現力を発揮しやすくなる。また、同じ画素数であればイメージセンサーのサイズが大きいほど、1画素あたりの面積を大きくとれるので、より明るいイメージセンサーを作ることが出来る。そして、明るいイメージセンサーならシャッター時間を短くでき、手振れの少ないきれいな画像を撮影することができる。
理想は35mmフルサイズだがAPS-C、フォーサーズでもある程度満足できるレベルに
35mmフルサイズは、銀塩フィルム式一眼レフカメラからデジタル一眼レフカメラへとデジタル化する際に交換レンズの共用化や、ユーザーの使用感などにおいてスムーズに移行しやすいメリットがある。しかし、35mmフルサイズは高価であったため、オリンパスとコダックは、35mmフルサイズよりは小さいが、比較的安価なフォーサーズを提唱した。フォーサーズとは、文字通り4/3型のイメージセンサーである。また、APS-CサイズはAPSカメラのフィルムに近いことから、そう呼ばれるようになった。理想を言えば35mmフルサイズとしたいところだが、あまりにも高価だったため、ある程度満足できるサイズとしてフォーサーズやAPS-Cサイズが使われた。
パナソニックがフォーサーズ採用のミラーレス一眼カメラで先行
パナソニックは、2008年10月にフォーサーズのイメージセンサーを搭載した世界初のミラーレス一眼カメラ"LUMIX"「DMC-G1」を発売した。その後、ソニーやキヤノンがAPS-Cイメージセンサーを搭載したミラーレス一眼カメラを発売したことによって、ミラーレス一眼カメラは、デジタル一眼レフカメラと肩を並べるレンズ交換式デジタルカメラとしてのジャンルを形成していくことになる。そして、デジタル一眼レフカメラより小型軽量で、女性でも手軽に持ち運びできるレンズ交換式カメラとして、ミラーレス一眼カメラは、レンズ交換式デジタルカメラ市場においてユーザー層を広げていった。
35mmフルサイズイメージセンサー搭載化の動き広がる
一方、35mmフルサイズイメージセンサーを量産できるのは、キヤノンとソニー、ニコンなど数社に限られる。そして、2007年11月にニコンは、35mmフルサイズCMOSイメージセンサーを搭載した「D3」を発売した。有効1210画素、36×23.9mmサイズCMOSイメージセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラのフラッグシップモデルだった。
そして、ソニーが2008年1月に2481万画素CMOSイメージセンサーを発表した。イメージセンサー大型化のためには、電源線や信号線を長く配置することによる伝搬遅延発生や、感度や飽和信号の画面内の均一性を保つことが難しいといった課題があったが、独自の回路設計技術と、均一性向上の為の高い平坦化技術などの製造技術によって解決したのである。A/D変換器を画素の垂直列毎に並列配置した"列並列A/D変換方式(カラムA/D変換方式)"を採用することにより、アナログ伝送中に混入するノイズによる画質の劣化を抑え、高速での信号読み出しを可能にしたもの。そして、同年10月、35mmフルサイズCMOSイメージセンサーを搭載した「α900」を発売。ユーザーは35mmフルサイズイメージセンサーを搭載したデジタルカメラをより身近なものとして楽しめるようになっていった。
ソニーの35mmフルサイズCMOSイメージセンサー
35mmフルサイズイメージセンサーをコンパクトデジタルカメラの領域まで拡大
さらに、ソニーはこの2481万画素CMOSイメージセンサーの開発成功を機に35mmフルサイズCMOSイメージセンサーの量産を開始した。そして、2012年11月には世界で初めて35mmフルサイズ有効約2430万画素"Exmor(エクスモア)"CMOSイメージセンサーを搭載したコンパクトデジタルカメラ"サイバーショット"「DSC-RX1」を発売。デジタル一眼レフカメラのハイエンド機にも匹敵する高画質撮影を可能とした。これによって、これまでデジタル一眼レフカメラなどのハイエンド機のみに使用されてきた35mmフルサイズイメージセンサーを一般ユーザーに広く使われているコンパクトデジタルカメラの領域まで拡大することとなった。
参考資料:、ソニーHP、ソニー歴史資料館、ニコンHP、パナソニックHP、JEITA・HP、キヤノンHP他