エレクトロニクス立国の源流を探る
No.97 日本のエレクトロニクスを支えた技術「イメージセンサー」第8回
キヤノンが一眼レフカメラの新AF技術"デュアルピクセルCMOS AF"を開発
イメージセンサーの新技術開発は、これまでソニーの裏面照射型CMOSイメージセンサーや積層型構造を採用したCMOSイメージセンサー"Exmor RS"(エクスモア アールエス)、さらにはパナソニックのMOSイメージセンサーSmartFSIなど画期的な新技術が開発されてきた。そして、その後もイメージセンサーの新技術開発は、急ピッチで展開されており、画期的な新製品が次々と発表されている。その中でも、キヤノンが2013年7月に発表した撮像面位相差AF技術"デュアルピクセルCMOS AF"が注目されている。"デュアルピクセルCMOS AF"は、全有効画素が撮像と位相差AFの機能を兼ね備えているCMOSセンサーを用いることで、ライブビュー撮影および動画撮影時のAF性能を飛躍的に向上させることを可能とした。この新開発CMOSセンサーは、APS-Cサイズで、約2,020万画素を持つ。
一つひとつの画素を独立した2つのフォトダイオードで構成
"デュアルピクセルCMOS AF"は、CMOSセンサーの一つひとつの画素(画像信号を出力できる構造の最小単位)が、独立した2つのフォトダイオード(光を電気信号に変換する素子)で構成されており、撮像と位相差AFの両方に利用できる信号出力を可能にしている。この位相差AFとは、撮影レンズから入った光束を2つに分け、AF専用センサー上に結像した2つの像の間隔からピントのズレを計測し、レンズの駆動方向や駆動量を算出してピントを合わせるもので、コントラストAFに比べて高速なピント合わせが可能となる。
デュアルピクセルCMOS AF の仕組み(キヤノンHPから) (※クリックすると画像が拡大します。)
コントラストAFの場合は、ピントが合っている部分はコントラストが高くなるという特性を利用して、イメージセンサーからの画像のコントラスト情報を分析し、コントラスト値が最も高くなるように撮影レンズを駆動してピントを合わせるもの。このため撮影レンズを駆動する時間やコントラスト情報を分析するのに時間がかかり、ピント合わせまでに一定の時間が必要となる。従ってデジタル一眼レフカメラに採用するのには、快適な操作性に欠け物足りなさがある。このためコントラストAF方式は、コンパクトデジタルカメラやビデオカメラで採用されることが多い。
デジタル一眼レフカメラのライブビュー撮影や動画撮影の増加に対応
しかし、デジタル一眼レフカメラの普及が進むとともに、ユーザーの撮影スタイルも多様化。ファインダー撮影だけでなく液晶モニターで映像を確認しながら撮影するライブビュー撮影や、動画撮影も増えてきた。また、連写による撮影の機会も多くなってきた。このため、如何に正確、かつ高速に被写体にピントを合わせることができるかが重要な要素となってきた。
デジタル一眼レフカメラに採用されてきた位相差AF
デジタル一眼レフカメラのピント合わせをより高速に行うため採用されてきたのが位相差AFだ。位相差AFでは、撮影レンズから入った光束を2つに分け、AF専用センサー上に結像した2つの像の間隔からピントのズレを計測し、レンズの駆動方向や駆動量を計算してピントを合わせるもの。コントラストAFに比べて高速なピント合わせが可能だが、別途AF専用センサーが必要な分だけ仕組みは複雑でカメラも高価なものとなるのは避けられない。
位相差AFとコントラストAFを組み合せたハイブリッドCMOS AF方式
ピント合わせの速い位相差AFと、精度の高いコントラストAFを組み合わせたのがハイブリッドCMOS AF方式。キヤノンがEOS Kissシリーズなどに採用している方式でライブビュー撮影や動画撮影において快適な操作性を実現している。この方式では、CMOSセンサーに組み込まれた位相差AF専用の画素による測距を素早く行い、次にコントラストAFによって正確にピントを合わせて高速化を実現している。
これに対して"デュアルピクセルCMOS AF"の場合は、初めからCMOSセンサーの一つひとつの画素が独立した2つのフォトダイオードで構成されており、一度に撮像と位相差AFの両方に利用できる信号出力が得られるので、精度、速度とも優れたAFと言える。この"デュアルピクセルCMOS AF"を初めて採用した「EOS 70D」では、従来機の「ハイブリッドCMOS AF II」を採用している「EOS Kiss X7」と比べ、合焦速度は約30%高速化しているほか、動画サーボAFの追従性も向上、動きの速い被写体に対しても滑らかにピントを合わせ続けながら動画撮影できる。同時に、この特長は103本のEFレンズでも生かすことが出来るのでユーザーは手持ちのレンズを活用した作品づくりを楽しむことができる。撮影性能、操作性に優れたデジタル一眼レフカメラに適したイメージセンサーとして今後発売される新製品に順次搭載されることになるだろう。
参考資料:キヤノンHP、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、シャープHP他