エレクトロニクス立国の源流を探る
No.99 電蓄からデジタルオーディオまで 第1回
エジソンの「フォノグラフ」発明がオーディオ歴史の原点
人類は、数千年の遥か昔に文字を発明して様々な出来事や経験を後世に伝えてきた。さらに、よりリアルに分かりやすく伝えるため絵画で表したりしてきた。文字と絵、そこから文化が生まれ、優れた物語や絵画が人類の文化遺産として残ってきた。しかし、声や楽器の演奏を記録し、残していくことができたのは人類発展の歴史から見ると極最近のことである。また、そこにエレクトロニクス技術が絡んで来るのは、さらに先のことであり、日本のエレクトロニクス技術がオーディオ分野で活躍するのはもう少し先になる。
したがって本題に入る前に、人の声を記録して再生する歴史に少し触れておかねばならない。というのも、機械式録音・再生機の発明当時とエレクトロニクス技術がオーディオに反映され、声や音楽の録音・再生において、音質、コスト、操作性など目指す方向は常に変わらないからである。オーディオの歴史は何時始まったのかは諸説ある。ここでは、日本オーディオ協会が『エジソンが「フォノグラフ」を発明し、人類最初の声を記録して再生する実験を行なった』1877年12月6日を『音の日』として制定しており、本連載でもこれをオーディオの歴史のスタートとしたい。
機械式の録音・再生からスタート
しかし、この頃はエレクトロニクス技術が未発達だった時代であり、物理的に音を記録し再生するためのマシン(機械)を発明する必要があった。エジソンの「フォノグラフ」発明は、あまりにも有名で様々な文献で詳しく説明されているので詳細は割愛させていただく。また、この1877年は、別の意味でもオーディオの歴史において画期的な年だった。同年4月にフランスのシャルル・クロが、描いた音声の軌跡を針先でトレースし振動板を振動させれば記録した声を再生できると考えフランス科学学士院に手紙を出している。何故かすぐに開封されなかったのでエジソンの発明が世界初となった。
今でも当てはまる「フォノグラム」の用途
エジソンの偉いところは、単なる発明にとどまらず、その用途の提案、普及、実用化への努力を怠らなかったことだろう。今日でも、新しいものの発明よりも、その発明を売り込み実用化し、普及させることの方が発明の何倍も難しいといわれている。エジソンが特許出願時に「フォノグラム」の用途として次の点をあげているが、その中の幾つかは現在でも当てはまる。(1)速記者を使わないで手紙を書いたり、各種の口述機に使える・・・この点については現在でも会議の議事録や音の便りなどが録音機を使って利用されている。(2)耳で聞く書籍、盲人用の本・・・これも現在でも、そのまま当てはまる。(3)話し方の先生・・・語学への録音機の導入が進んでいる。(4)音楽の吹き込み・・・まさにズバリそのモノ。(5)家庭用娯楽機、家族の声の記録・・・これもドンピシャ。(6)オルゴールなどの玩具・・・現在、おもちゃ屋に行くと、声や音の出るおもちゃがたくさん有る。(7)いろいろなことをするための時間を言葉で告げる・・・伝言の録音に利用されている。(8)正確な発音の保存・・・世界中で語学の勉強等に利用されている。(9)教師の講義を入れて生徒が繰り返し聞ける・・・これもまさに録音機あっての世界。通信教育など幅広く利用されている。(10)電話器につないで録音・再生する。・・・これも留守録音・伝言メッセージなどに実用化されている。など、1878年の特許出願時において、すでに現在の姿を見通していたかのようにピタリと当てている。
円盤式の「グラモフォン」発明がレコード普及につながる
しかし、残念ながら、エジソンの「フォノグラフ」は円筒式であり、縦方向の振動で記録する方式だったため、操作性や録音時間の制限などが難点だった。そこで、エミール・ベルリーナは、円盤式の「グラモフォン」を発明し、1887年12月に発表した。そして、1888年5月に試作機の公開実験を行い、性能の良さを実証した他、同年11月にはエジソンの「フォノグラフ」との公開比較実験をベルリンの電気工業協会で行い、ベルリーナの「グラモフォン」の方が、性能、コストで優れ、将来性でも勝っていることが認められた。
最初のレコード盤は直径17cm、片面・演奏時間約2分間
ベルリーナの「グラモフォン」は、円盤式で横方向の振動波形を使用する記録方式のため、マスター円盤があればプレスで簡単にレコードを作れるのが最大の特長だった。無論、スタンパーやレコード盤の材質、製造に苦心したのは言うまでもない。スタンパーは、銅版のマスター円盤にニッケルメッキをすることで開発できたものの、レコード盤は、硬質ゴム、セルロイドなどを試してみたが、うまくいかなかった。試行錯誤の結果、シュラック材を使うことで、ようやく実用化にこぎつけた。直径5インチのシュラックレコード盤からスタートし、1895年にユナイテッド・グラモフォン社から直径17cm、片面の演奏時間約2分間のレコードが発売された。回転数は70回転/分で、価格は1枚50セントだったという。ベルリーナの「グラモフォン」が円盤式であったことが後々、円筒式を凌駕し世界標準として生き残っていくことになるのである。
参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、他