エレクトロニクス立国の源流を探る
No.100 電蓄からデジタルオーディオまで 第2回
アコースティック録音から電気式録音へ
円盤式のレコードは、原盤が有ればプレス機で大量生産できることから、広く普及することになった。その、一方で初期の録音機は、ハンドルを手で回しゼンマイを巻いて動力源とするか、ハト時計のように鉛の重りを使った重力モーター式や直流モーター式も考案されたが、ゼンマイを使った方式の方が大きさや、性能的にも優れていたことで普及していくことになる。
アコースティックな録音では、一人の歌手の場合は、メガホンの前で大きな声で歌えばよいが、人数の多いオーケストラとなると巨大なメガホンが必要になり、録音は大変な作業となる。人間の声や楽器の音をもっと簡単かつ原音に忠実に録音するには、電気式録音機の登場を待たねばならなかった。つまり、現在のようなマイクロホンやアンプ、記録媒体が必要になる。
人の声を電気信号に変換する電話機の発明
人の声を電気信号に変換するものとしては、ベルが1876年に開発した電話機がある。モールスの電信機に対して直接、人の声を遠方に伝えることの出来る電話機の発明は画期的な出来事だった。実は、その前にも1868年にアメリカのハウスが開発した電気音声電信機などもあったが、電話システムとして完成させ実用化したのはベルだった。しかし、リアルタイムで人間の声を伝達するものであり録音しておくわけには行かなかった。
3極管の登場がオーディオとエレクトロニクスの関わりの第一歩に
録音するためには、弱い電気信号を増幅して記録媒体に書き込まなければならない。つまり、電気信号を増幅する装置が必要となる。そのためには、増幅するための真空管、いわゆる3極管の登場を待たねばならなかった。
真空管の発明は、エジソンが白熱電球の実験中に発見したエジソン効果が端緒となった。そして、1904年にフレミングが2極管を発明。さらに1906年になってリー・ド・フォレストが3極管を発明している。3極管は、電話回線をより遠くまで延長するために音声を増幅する増幅器開発のため必要だった。その当時は、まだオーディオ用としての用途は考えられていなかったが、結果としてこの3極管の発明がオーディオとエレクトロニクスの関わりの第一歩となる。
3極管の性能が高まるにつれ、オーディオ用として注目されるようになった。そして、3極管を使ったサウンドボックスを1923年にWE社の技術者が開発した。ジュラルミンの振動板やタンジェンシャルエッジを採用することで大きな低音の再生、高音域の特性アップを実現している。このサウンドボックスは、レコードプレーヤー用として開発されたのではなく、レコードを造るときの録音用として開発されたものだった。
LPレコードが33.33回転/分と中途半端な回転数になった訳
このサウンドボックスの開発によって、録音時はマイクロホンを使えるので大きな声や演奏でなくてもよくなった。しかも、アコースティックな録音に比べて音域は1オクターブ以上広がり自然な状態で録音できるようになった。実は、WE社の狙いは、レコードの録音と言うより、映画のトーキー化にあったと言われている。映画フィルム1巻分(約11分)をトーキー化するのに、16インチのレコード盤回転数を33.33回転/分にすればピタリと合う。後のLPレコードが33.33回転/分と中途半端な回転数になっているのもこのためである。
やがて、円盤式のレコードは両面レコードへと進化する。最初に両面レコードを開発したのは、アメリカのオデオン社で、1904年に特許を申請している。レコード各社に両面レコードの採用を働きかけたが、なかなか採用されなかったという。しかし、その後、両面レコードのメリットが理解されるにつれ一般化して行った。つい最近までレコード盤は、A面、B面などと呼ばれ、両面録音があたりまえだったのだから当時としては画期的な提案と言える。
意外と早かった磁気記録方式の発明
録音方式には、アコースティック方式、電気式録音の他にも磁気を応用した磁気式録音機もある。磁気記録方式は、後にテープレコーダーとして手軽に録音再生できる機器へと進化するが、磁気式録音機の発明は意外と古い。1894年頃にデンマークの技術者ポールセンがスチールワイヤーを使った磁気式録音機を発明している。この録音機はオーディオ用ではなく電話の内容を録音/再生するためのものだった。回転するドラムに細い鋼線を巻き付け、磁気ヘッドの先端を当てスライドさせながら録音して行くもの。パリ万博会場で行った実演ではその性能に皆、驚いたと言う。
しかし、残念ながら当時はまだ真空管が実用化されていなかったため、社会に受け入れられるだけの音量を発揮できず、日の目はみなかった。それでも磁気録音の音質を改善する直流バイパス方式を発明し、特許申請しており、後々の磁気テープオーディオの礎となった画期的な発明と言えるだろう。
参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、他