ラジオ放送のスタートがアコースティック蓄音機から電蓄へと流れを変える

ラジオ放送が普及するにつれて真空管の技術も進歩していった。ラジオ放送は第一次世界大戦後の1920年にアメリカで始まったが、初期のころは鉱石ラジオと受話器で放送を聞いていた。やがて真空管とスピーカーを使ったラジオが開発され、普及に拍車がかかった。日本ではアメリカに遅れること5年後の1925年にNHKが東京の愛宕山からJOAKのコールサインでラジオ放送をスタートしている。

このラジオ放送のスタートが、長い間続いていたアコースティック蓄音機から真空管を使った電気式蓄音機(電蓄)へと流れを変えることになる。まだ娯楽の少なかった時代だけに、ラジオ放送から流れる音楽やニュース、スポーツ、ドラマなどに人々は夢中になった。一方、人々が手軽にラジオ放送から流れる音楽を聴けるようになるとレコードやアコースティック蓄音機を買う必要が無くなり、売れなくなっていった。

家一軒買えるほど高価だった電蓄

アコースティック蓄音機メーカーでは、ラジオ放送への対抗策として音質の向上やラジオを組み込める製品などを開発していった。最初に電蓄を発売したのは、意外にもビリヤード台のメーカーであるブランズウィック(現在もボーリング用品などで有名)だった。ブランズウィックは、エレクトロニクス技術を持っていないためラジオ、モーター、スピーカーなど必要なものは、電気メーカーのGEやRCAなどからライセンスを受けたり、部品を購入したりして電蓄を製造した。これを追ってビクターやコロムビアなども電蓄を発売した。しかし、電蓄の価格は家一軒、または車3台も買えるような高価なものでありあまり普及しなかった。米国で本格的に電蓄が売れ始めたのは1930年代には入ってからで、ビクターの「RE-45」は生産累計10万台近いヒット商品になった。

100%の高い関税や高価な輸入品が日本メーカー参入の足がかりに

日本では、1927年に日本蓄音器商会がコロムビアと資本提携。さらに、日本ポリドール蓄音器商会が設立された。そして、これらの会社を通して海外から蓄音機や電蓄が輸入されるようになった。しかし、米国でさえ高価なためお金持ちしか買えなかった製品に、贅沢品として100%もの関税がかけられたため、買える人は一部のお金持ちだけだった。一方、ラジオ放送は普及して行ったので、ラジオにピックアップ端子を設けて、レコードを再生する方法が考えられた。当時、レコードプレーヤーはまだ普及しておらず、手巻き式蓄音機のサウンドボックスをピックアップと交換して使用する方法だった。また、100%もの高い関税などもあって輸入品が高価すぎ、大衆が手を出せないものだったことが、後に日本ビクターや松下電器(現パナソニック)、東芝などの国産メーカー各社がオーディオ分野で台頭する要因ともなった。

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1933年、東芝が製品化した「マツダ電気蓄音機オリオン800号」

オーディオ発展の歴史は一貫してハイファイ(Hi-Fi)の追求だった

オーディオ発展の歴史の中で、常に最大のテーマだったのが原音にいかに忠実に録音・再生するかであった。それは、アナログオーディオからデジタルオーディオへと進化した今日でも変わらない。むしろ、ハイレゾリューション・オーディオ(ハイレゾ)として高音質追求の動きは、今後さらに強まろうとしている。

オーディオの高音質追求は、1920年代に、ベル研究所でレコードの電気録音方式が開発されてから続いており、ハイクオリティレコードと呼びアコースティック録音と差別化し宣伝していた。そして、ラジオや電蓄が普及し始めた1930年代には、RCAビクターが、従来のSP録音より音質の良いRCA Victor High Fidelity Recordingを発表、ハイファイ(Hi-Fi)録音のレコードを売り出した。やがて、ハイファイ(Hi-Fi)という言葉がレコードやオーディオの世界に定着していった。オーディオメーカー各社が、自社製品の音の良さを宣伝する際に、原音に忠実なハイファイ(Hi-Fi)という言葉を多用するようになって行った。

LPレコードの登場が一層ハイファイ(Hi-Fi)化に拍車

さらに、1948年にコロムビアから初のLP (long play)レコードが発売されてからは、一層ハイファイ(Hi-Fi)という言葉が流行していった。LPレコードは、直径30cm で収録時間30分の長時間再生ができ、音質面でも優れていた。在来レコードより音溝(グルーヴ)が細く、回転数は3分間に100回転、1分間33 1/3回転だった。このLPレコード登場以降は、それまでのシェラック製78回転レコードはSP (standard play)レコードと呼ばれ区別されるようになって行った。

SPレコードからLPレコード、そして磁気テープ、CDへ

音質面での比較を記録能力から見ると、78回転/分のSPレコードは、帯域幅50Hz〜7KHz、録音可能時間5分間、ダイナミックレンジ25dB。これに対し、33 1/3回転/分のLPレコードは、帯域幅30Hz〜15KHz、録音可能時間30分間、ダイナミックレンジ55dBと一桁上回る記録性能を持っていた。この高音質なLPレコードを忠実に再生するためのピックアップやアンプ、スピーカーの開発競争がオーディオ技術の進歩に結び付いていく。そして、録音メディアも磁気テープ、カセットテープと次々と開発されて行った。さらに、LPレコードを1桁上回る記録性能を持つデジタル録音のコンパクトディスク(CD)が登場することになる。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、東芝科学技術館、ソニーHP、ソニー歴史資料館、JEITA・HP、東芝HP、他