マイコン搭載により機能充実、フェザータッチ化で高級感

1970年代後半になると、カセットデッキは、クロームテープへの対応、3ヘッド化などで性能が向上していた。また、マイコンの搭載により頭出し、リピート、オートリバースなどの機能が充実、操作もフェザータッチ化され高級感も増していった。そして、この頃になると、フルサイズコンポより一回り小型のミニコンポが登場し、1978年(昭和53年)になるとメーカー各社が相次いで参入し"ミニコンポ元年"と言われるほど盛況となった。

住友スリーエム社がメタルテープを発売。市場活性化へ期待高まる

また、1978年(昭和53年)12月に住友スリーエム社がメタルテープを発売、カセットデッキ市場に大きな影響をもたらすことになった。この頃、オーディオメーカー各社は、やや飽和状態にあるオーディオ市場を再び成長させる起爆剤として、ミニコンポやメタルテープ対応のカセットデッキなどに期待を寄せていた。そして、1978年10月に開催された「第27回全日本オーディオフェア」は、メタルテープが話題の中心となった。しかし、いかに優れた性能を持つメタルテープでも、それを録音・再生できる磁気ヘッドが無ければ期待通りの性能は発揮できない。それまで磁気ヘッドには、パーマロイやフェライトが使われていた。しかし、保持力、残留磁束が従来のテープの約2倍以上といわれる純鉄を主成分としたメタルテープの登場によって、より性能の高い磁気ヘッドが求められるようになった。

日本ビクターが業界初のメタルテープ対応カセットデッキ発売

磁気ヘッドの素材としては、保磁力が小さく、透磁率が大きい軟磁性材料が適しており、パーマロイやフェライトは、この磁気ヘッドに適した性質を持つ軟磁性材料だが、メタルテープにおいてはもっと強力な磁気ヘッドが必要となる。メタルテープ対応のカセットデッキ開発においてテープデッキメーカー各社が鎬を削っていたが、業界に先駆けてメタルテープ対応カセットデッキを発売したのは日本ビクターだった。同社は、1978年10月にKDシリーズを発売、「KD-A5」、「KD-A6」、「KD-A8」などが相次いでヒットした。ヘッドには、センダスト合金を使ったSAヘッドを採用していた。それまでは、磁気ヘッドにパーマロイとフェライトが使われていたが、SAヘッドは、フェライトの長寿命とパーマロイの高音質を併せ持つ新しいヘッドとして高い評価を得た。特に、メタルテープが登場してからは、磁束密度の高い録音ヘッドや消去能力の高い消去ヘッドが必要となったためSAヘッドの登場は画期的なものだった。メタルテープの良さである、ダイナミックレンジの広さ、ノイズの少なさをフルに発揮できる磁気ヘッドとして評価された。

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日本ビクターのメタルテープ対応カセットデッキ「KD-A5」「KD-A6」「KD-A8」などKDシリーズ

パイオニア、ソニーがメタルテープ対応カセットデッキで追従

我が国では、戦前から東北大学を始め大学や電機メーカーなどで磁性材料の研究が進んでいた。その一つであるセンダストは、1932年に、東北大学金属材料研究所の増本量博士らが発明したもので、鉄・ケイ素・アルミニウムからなる合金(Fe-Si-Al合金)で、開発地仙台にちなんで命名されたもの。飽和磁束密度と透磁率が高く、鉄損が小さく、耐摩耗性に優れており、磁気ヘッドの素材としては最適だった。しかし、難点は金属間化合物としての性格が強く、硬く脆いため磁気ヘッドに加工するのは非常に困難だった。日本ビクターでは、困難と言われたSAヘッドの開発に成功したことで、カセットデッキ市場で他社を一歩リードすることになった。その後、1979年(昭和54年)に、パイオニアがメタルテープ対応カセットデッキ「CT-600M」、「CT-400M」など5機種を相次いで発売した。さらに、1980年(昭和55年)にソニーがメタルテープ対応カセットデッキ「TC-K777」を発売した。

テープメーカー各社がメタルテープ市場に参入

住友スリーエムに続いてTDKもメタルテープを発売した。メタルテープ発売当初は、高価であったためマニア向けというイメージだった。やがてメタル磁性体の量産体制が整い、参入メーカーも増えると低価格になっていった。最後にはノーマルやハイポジションと同等までになっていった。TDKは、ダイカストフレームの超高級品「MA-R」を発売したほか、「CDing-Metal」などの低価格タイプも発売するなど、トップメーカーとしてメタルテープのラインアップが充実していた。そして、日本国内で最後までメタルを発売していたのも同社だった。この他、マクセルは、超高級機Metal-Vertexに加え、「Metal-Capsule」などの低価格タイプも発売している。また、ソニーは、初の二層塗布タイプ「Metal-ES」や、低価格メタル普及のきっかけとなった「Metal-XR」を発売し、市場へ大きな影響をもたらした。また、高級タイプ「MA-R」、「Metal-Master」なども発売しており、ラインナップも充実していた。しかし、早くからメタルテープの低価格化に取組んできたのは太陽誘電で、"That's"ブランドで発売していた。また、富士フイルムは、"AXIA"ブランドで「Super-Range」、「FR-METAL」、「XD-Master」などを発売している。この他、DENON、日本ビクター、松下電器産業、日立がマクセルのOEMで参入している。一方、外国メーカーでは、ドイツのBASFが発売していた。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、パイオニア「SOUND CREATOR PIONEER」、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝科学館、ほか