エレクトロニクス立国の源流を探る
No.117 電蓄からデジタルオーディオまで 第19回
和風家具調デザインや和風のネーミングが流行
アンサンブルステレオの登場によって、ステレオの低価格化が進んで行った。そしてステレオと言えばアンサンブルステレオのことを指す代名詞ともなっていった。オーディオ市場の拡大とともに、専業メーカー以外にも重電メーカーや家電メーカーが市場に参入してきた。家具調のデザインが豪華なイメージを与えることから、メーカーの訴求ポイントもHi-Fiよりも、部屋のインテリアとしてのデザイン重視の方向が強かった。中でも和風家具調デザイン志向が強まり、ステレオのネーミングも"飛鳥"(松下電器:現パナソニック)や、"黒部"(早川電機:現シャープ)など、和風の愛称を付けることが流行した。
レコードメーカーのビクターやコロムビアのステレオが市場をリード
音の出る豪華な家具としてのアンサンブルステレオは、豊かな生活のバロメーターであり、豪華さを競うことが一つの自慢であり富の象徴でもあった。このころは、レコードメーカーであるビクターやコロムビアのステレオが市場をリードしており、ソフトであるレコードから、ハードである再生装置のステレオまでの総合メーカーとして有利に展開、高いシェアを確保していた。中でもビクターの「STL-661」は、美しく豪華なデザインで30万台以上のヒット商品となった。
アンサンブルステレオは大出力化が課題に
やがて、アンプ技術の進歩によってハイパワー化が可能となってきた。同時に、スピーカーも大きな入力に対応できる大口径のものも開発されていった。当然ながらアンサンブルステレオにも大出力化、高音質化の流れがやってきた。しかし、これがアンサンブルステレオに限界をもたらすことになる。レコードプレーヤー、アンプ、スピーカーが、一つの筐体に一体化されているため音量を上げると、スピーカーからレコードプレーヤーへ振動がフィードバックされ、ハウリングが発生してしまう。レコードプレーヤーをスプリングやゴムで浮かせてスピーカーからの振動が伝わらないようにする対策も行われたが、万全ではなく数ワットの出力が限界だった。このため、アンサンブルステレオの大出力化には限界があり、大出力化が可能なステレオの開発が必要となってきた。
パイオニアが1962年、セパレートステレオの第一号「PSC-5A」発売
大出力化を図るためには、レコードプレーヤーとスピーカーを別々の筐体に分離し、完全に切り離してハウリングを防止する必要がある。そこで、登場したのが家具調の豪華なデザインは踏襲しながら、レコードプレーヤーとスピーカーを別々の筐体に分離したセパレートステレオである。セパレートステレオの第一号は、パイオニアが1962年(昭和37年)に発売した「PSC-5A」。当時パイオニアは、単品メーカーからセットステレオメーカーへと躍進するため、様々な可能性を模索していた。オーディオマニアの間では、同社のスピーカーやアンプなどの単品コンポは、音質の良さで人気はあったが、より需要の大きい一般家庭用のマーケットに進出するには、当時、主流だったアンサンブルステレオ市場に参入する必要があった。しかし、アンサンブルステレオは、すでにビクターやコロムビアが高いマーケットシェアを持っていたことや、高級品メーカーのイメージを持っていたことを生かすには、大出力化に限界の有るアンサンブルステレオでは有利に展開できないと判断した。
初めて"セパレートステレオ"の言う名称をつけて発売されたパイオニアの「PSC-5A」
その結果、大出力化が可能で、かつ同社が主力としていた高級単品コンポを生かせる新しい形のステレオを目指すことになった。そして開発されたのが1960年(昭和35年)に完成したアンプ、レコードプレーヤーと左右のスピーカーが別々の筐体に分離されたステレオ「PSC-1」。しかし、「PSC-1」が完成したものの、発売されることなく、実際に商品として市場に出たのは、その後継機「PSC-5A」だった。したがって、セパレートステレオの第一号は「PSC-1」と言えない事もない。
トリオや山水などもセパレートステレオ市場に参入
また、「PSC-5A」は、初めて"セパレートステレオ"の言う名称をつけて発売されたもので、これ以降、セパレートステレオ市場にトリオや山水など各社が参入して、"セパレートステレオ"の言う名称が一般化して行った。「PSC-5A」のアンプは、10W+10Wと、それまでのセパレートステレオでは限界があった大出力を実現していた。また、スピーカーは、すでに単品コンポとして高い評価を得ていた「PW-20A」を低音用、ホーン型ツイター「PT-3」を高音用に使った2WAYスピーカーシステムだった。そして、レコードプレーヤーは、4スピード45cmターンテーブル、ダイヤモンド針付きセラミックカートリッジを採用していた。また、エアチェックにも便利なAM+FMチューナーと、AM+短波のダブルチューナーを搭載していた。当時、AM2波を使ったステレオ放送が行われていたので、これも人気要因となった。
さらに、「PSC-5A」がヒットした要因にデザインの良さもあった。オイル仕上げのチーク貼りの豪華なキャビネットと、まとまりの良いデザインは、その大きさともあいまってリビングなどに置いても存在感十分だった。「PSC-5A」の発売価格は83,900円と、当時主流だったアンサンブルステレオの平均価格5万円前後に比べてかなり高価だったが、その音質の良さ、大出力、豪華かつセンスの良いデザインなどが評価されヒット商品となった。
参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、東芝科学館、ほか