光ディスクを採用し優位性を発揮したCD

DAD懇談会には、日本ビクターのAHD(オーディオ・ハイ・デンシティー)方式、テレフォンケンのMD(ミニ・ディスク&マイクロ・ディスク)方式、ソニーとフィリップスのCD(コンパクト・ディスク)方式の3方式が提案され、それぞれの方式が比較検討された。いずれの規格を業界標準として一本化するのは企業の利害関係も有って難しかった。ただ、CDは他の方式とは異なり光ディスクを採用していたことから、ピックアップが非接触でありポータブル化にも有利という特徴が有った。日本ビクターのAHD方式は、静電容量式であり、静電容量式のビデオディスクVHDプレーヤーで再生できる互換性があった。だが、VHDと同じサイズでディスクはキャディケースに収められていた。また、テレフォンケンのMDは、圧電式で、直径13.5cmのミニ・ディスクと7.5cmのマイクロ・ディスクの2種類が提案され、いずれもキャディケースに収められていた。

「第30回全日本オーディオ・フェア」会場に16社がCD出展

話し合いで一本化するのは難しかったため、市場で3方式が競い合うこととなった。そして、1981年(昭和56年)10月に開催された「第30回全日本オーディオ・フェア」会場には、各社が試作DADシステムを出展し、デモが行われた。この時、CDを採用したのは16社、AHDを採用したのは2社で、MDは出展されなかった。この結果、CDが事実上の業界標準として認知されたといえるだろう。とは言え、光ディスク方式のCDを民生用の市販品に育て上げて行くまでには、残された課題も多かった。また、ソニーとフィリップスがCDの規格をまとめるまでに、お互いの主張を通すための激論が展開されたが、この時の経緯は、本連載の「小さな町工場を世界のSONYに育て上げた井深大さん」に詳細に紹介しているのでご参照いただくとして、現在のCD規格となった経緯、商品化までに解決しなければならなかった課題を簡単に紹介したい。

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アナログレコードに変わるCDをソニーとフィリップスが共同提案

ソニーの主張が通り16ビット、ディスクサイズ12cmにCD規格決定

ソニーとフィリップスがCDの規格を決めるまでには、ビット数、ディスクのサイズに食い違いがあった。フィリップスは14ビット、ディスクサイズ11.5cmを主張、ソニーは16ビット、12cmを主張した。最終的には16ビット、12cmに決まったが、16ビットに決まったのは、16ビットならダイナミックレンジが約96dBとなり、ほぼ理想とするダイナミックレンジを確保できること。また。ビデオディスクが16ビットを採用していたので、互換性を確保できることであった。また、ディスクサイズについては、これも有名な話となっているので詳細は省きたいが、カラヤンが「ベートーベンの第九交響曲を1枚のディスクに収録できる」ことを望んでいると言う話をフィリップス側に伝えたため。フィリップスは、11.5cmを主張していたのは、当時LPレコードが両面で1時間演奏していたのをCD片面に入れることが出来るということからだった。また、ポケットに入れて持ち歩くには11.5cmにしなければならないという主張も有ったが、ソニーは12cmでもほとんどの服のポケットに納まることを示し、最終的にソニーの主張が通る形で16ビット、12cmに決まった。その結果、最大74分デジタル録音出来るCD規格が誕生した。

規格が決まっても解決すべき技術的課題が山積のCDだった

後は、技術的課題である、まずはデータを正確に読み取る光ピックアップがまだ無かったことだった。回転するディスクに1.6μm間隔に並んでいる幅0.5μmのピットに正確にレーザー光を当て、読みとるシステムを開発しなければならなかった。そのための光ピックアップが必要となる。さらに、回路基板のコストダウンのためにLSI(大規模集積回路)が必要となったが、2年ほどでLSI化が可能となった。さらに、光ピックアップに関しては半導体レーザーを開発しているメーカーが見つかり、超小型の光ピックアップの量産が出来るようになった。そしてディスクへの追従性に優れた2軸システムが完成したことによってCDプレーヤーの商品化のめどが付いてきた。

オーディオ専門家やオーディオマニアの中にはCDを疑問視する声も

こうした難関を乗り越え1982年(昭和57年)に、ソニーの「CDP-101」を初め、各社から相次いでCDプレーヤーが発売されCD時代の幕が開けた。しかし、オーディオ専門家やオーディオマニアの中にはCDを疑問視する声もあった。その頃までに、LPの録音技術、MCピックアップをはじめアナログオーディオは全盛期を迎えており、デジタル化する必要性に疑問を持っていたからである。特にデジタル化するサンプリングにおいて、原音の波形を段階的に切り取るのは「忠実性を損なう」という考え方があった。

このアナログオーディオ対デジタルオーディオの論争は後々まで続いた。このことが、デジタルオーディオの更なるHiFi化への動きに拍車をかけることなった。また、デジタルメディアであるCDは、オーディオ信号以外に映像信号も取り込むことが出来た。やがてコンピューター時代、ネットワーク時代へ対応しながら様々なCDファミリーを形成していくことになる。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、東芝科学館、ほか