直径8cmの小型CD「CD Single」がCDファミリーに加わる

デジタルオーディオのメディアとして1981年に「CD-DA(CD-Digital Audio)」が規格制定されてから、2016年までに約35年経った。この間には、前回紹介した、様々なCD規格以外にも用途に応じて変わり種CDが登場している。1981年に規格制定された「CD-DA」のディスクサイズは直径12cmだったが、もっと小さく持ち運びに便利で、ローコストなCDが求められ直径8cmの小型CDとして「CD Single」が1987年にCDファミリーに加わった。

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8cmシングルCDのジャケット(開いた状態)

シングル盤は、アナログレコード時代から有った。直径30cmのレコード盤に対して、一般的には直径17cm、45回転/分のレコード盤をシングル盤と呼ばれることが多い。本来Single(シングル)は、1曲収録したディスクを指すもの。したがって片面に3分30秒収録できる78回転/分のSP盤は、ほぼ1曲しか収録できないので、すべてシングル盤と言っても差し支えない。後にLPレコードが開発され直径30cmのディスク片面に30分収録できるようになった。その結果、シングル盤は直径17cmの45回転/分のシングル盤に移行していった。

アナログ時代から続くシングル盤の強いニーズに応える

シングル盤は、歌謡曲などレコード会社が新曲を発売するのに都合良く、A面、B面の表裏に1曲ずつ収録したレコードを発売した。CDの誕生によりデジタル時代に入っても、シングル盤の必要性は変わらずCDのシングル盤が求められていった。1枚に74分以上収録できるCDに、4~5分程度の曲を1曲~2曲だけ収録して発売するのは、もったいないという発想が出て来るのは当然のことだった。余りにも未使用部分の多いディスクは資源の無駄遣いと言われても仕方ない。その一方で、アナログ時代から続くシングル盤のニーズは強かった。

こうした市場を背景にシングルCDが発売されるようになっていった。日本レコード協会のHPによると、1987年3月に東芝EMIがシングルCDを発売している。さらに、1988年2月にはレコード会社6社が直径8cmのシングルCDを発売した。この直径8cmのシングルCDは好評で売れ行きも良く、同年中にアナログのシングルを上回る売れ行きとなった。

一方では問題も多かった8cmシングルCD

大きな期待を担って登場した8cmシングルCDだったが、一方では問題も多かった。まず当時市場で使われていたCDプレーヤーとの相性の問題があった。8cmシングルCDが発売された当時は、まだ8cmシングルCDの再生に完全に対応しているCDプレーヤーは少なかった。このため8cmシングルCDの再生には専用のアダプターが必要だった。8cmシングルCDをアダプターに取り付けて通常の12cmCDと同じサイズにして再生した。しかし、カーステレオなどで多かったスロットイン式のCDプレーヤーでは8cmシングルCDがプレーヤー内部に入ったまま取り出せなくなるなどのトラブルが多かった。

トレー式CDプレーヤーで8cmシングルCDに対応するには、トレーに段差をつけるだけなのでコスト面では何も問題が無かった。やがて、8cmシングルCD対応のCDプレーヤーが普及して行ったことで専用アダプターは徐々に不要となっていった。その結果、ハード面での問題は無くなったが、8cmシングルCDは期待されたほど普及しなかった。そこには、レコード流通界の事情や、レコードメーカーの思惑、ユーザーの反応など様々な要因が絡んでいた。

レコード流通界では様々な問題もあった

「小さく持ち運びに便利」が売りの8cmシングルCDだったが、これが逆に弱点ともなった。8cmシングルCDは、写真の様な縦長のジャケットに入れて発売されたが、コンパクトなだけにジャケット写真も小さく、店頭でのアピール度合いが弱いことである。12cmCDでさえ、従来のアナログレコードに比べるとジャケット写真は小さい。それが、さらに小さくなるので歌詞カードなどが入れづらく、封入するものも限られてくる。これは、新曲などを売り出す時にアピール力が弱くレコード会社にとっては使いづらい。

また、レコード流通界においても様々な問題があった。当時、店頭での万引きが問題となっており、12cmCDより小さい8cmシングルCDでは、なおさら被害を受けやすかった。陳列にも工夫する必要があり、店側では8cmシングルCDの扱いに苦慮していた。ユーザーにとっても、8cmシングルCDは紙のジャケットにプラスチック製のケースが貼り付けてある(写真参照)だけの構造なので表面に傷が付きやすい問題があった。そのため、8cmシングルCD用のプラスチックケースを購入するユーザーもいた。

やがて、CD-ROM、CD-R、CD-VなどのCDファミリーが増えCDの生産量も飛躍的に増加していったことによって、製造コストも大幅に低減していった。その結果、わざわざ8cmシングルCDを使わなくても12cmCDのシングル(マキシシングル)で十分という状況になって行った。プラスチック材料も安くなって行ったので資源の無駄使いという批判も無くなった。

8cmシングルCDが消滅し、12cmシングルCDへ

そんな訳で、8cmシングルCDは衰退し、12cmCDシングル(マキシシングル)に移行していった。日本レコード協会の調べでは2015年(1月~12月)のCD生産枚数は167,839千枚で、内12cmCDアルバムが112,696千枚、シングルCDが55,144千枚となっている。さらに、シングルCDの内、8cmシングルCDはわずかに38千枚で、12cmシングルCDは55,106千枚と圧倒的に構成比が高い。実質的には、シングルCDといえば12cmシングルCDのことを指す言ってよいだろう。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本レコード協会HP、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、ほか