次々と新しい規格のCDファミリーが登場

初のデジタルメディアであるCDの登場は、デジタルであるがゆえに「あれができる、これもできる」、「あれもやりたい、これもやりたい」という欲求が出てくるのは当然。その結果、第23回でご紹介したようにCDの基本となるデジタルオーディオの規格「レッドブック」から始まり、コンピューターにも使えるCD-ROMの「イエローブック」、書き込み可能なCD-R「オレンジブック」など次々と新しい規格がCDファミリーに加わった。

オーディオに加え動画の収録も

しかし、CDファミリーはこれだけではなかった。新たな要求が次々と枝葉を広げるように増え続けていった。CD-ROMから派生したものの中の一つに「ビデオCD」がある。CDのサブコードにグラフィックス(静止画)を入れることが出来るようになっていたが、それなら動画を入れることが出来る規格も欲しいということになる。その一つにCD-V(CDビデオ)がある。CDとLD(レーザーディスク)を組み合わせた規格でディスク外周部に5分間のLDと同じアナログのビデオ映像を収録したもの。CDシングルにビデオクリップを加えたプロモーションディスクとして使われたこともあった。

1993年「ビデオCD」規格が登場、ビデオ映像も収録

しかし、アナログビデオ映像では収録できる時間も限られるので使い道が限られたことから普及しなかった。そこで、本格的に長時間のビデオ映像を収録できるCDが開発され、1993年に「ビデオCD」規格が登場した。これは、ソニー、フィリップス、日本ビクター、松下電器の4社が中心となって規格化したもので、最大74分の動画と音声を記録するためのデータ圧縮にMPEG-1(Moving Picture Experts Group-1)と呼ばれる国際標準規格を採用している。

この「ビデオCD」は当時、普及していたアナログ映像の記録メディアであるVHS方式ビデオテープレコーダーの3倍モード程度の画質だった。しかし、デジタルビデオのため画像の劣化がVHSより少なく、ジッターやノイズや色むらなども少なかった。だが圧縮された映像を低いビットレートで送るため動きの大きなシーンでは、ブロックノイズが発生することも有った。

VHS、LDなどの映像メディアとともに普及

それでも「ビデオCD」は、CDの延長線上の規格であり生産設備を流用し大量生産することで安価に提供できるメリットが有った。当時はまだDVDは登場しておらず、LD(レーザーディスク)や、VHSビデオなどのアナログの映像メディアが普及していただけに、安価で、一定レベルの画質で収録できる「ビデオCD」は急速に普及していった。ただ「ビデオCD」にはコピーガードおよびリージョンコードが導入されていないことから海賊版が出回ることにもなった。そのためか、後に登場するDVDには海賊版防止のため、コピーガードやリージョンコードが採用された。

「ビデオCD」は、そのコンパクトさからVHSビデオカセットに代わるパッケージメディアとして注目され映画やアニメソフトなどが発売された。さらに、カラオケ市場でも「ビデオCD」が活躍した。当時、映像カラオケはLD(レーザーディスク)カラオケが主流であり、カラオケブームが起きつつあった。全国のスナック、バーではLDカラオケを備えていないと客が集まらないほど。最初の頃は、手でディスクを交換して選曲していたが、手間が掛かるためディスクのオートチェンジャーが登場した。直径30cmの大きなディスクを交換する装置のため外観も大きく、重量もあった。ディスクを収容しているタワーをエレベーターみたいな装置が移動して取り出したり、収納したりするので設置場所を取る。

コンパクトな「ビデオCD」カラオケが普及

狭い店が多いスナックなどでは、設置場所に困るケースも多く、より省スペースなカラオケ装置が求められていた。そこに目を付けて登場したのがコンパクトな「ビデオCD」を使った「ビデオCD」カラオケだった。動画または静止画と歌詞が出て、曲の進行とともに歌詞の色も変わって行く。画質はLDカラオケより劣るものの、利用者にとっては、それほど不満も無かった。一方、設置する店側もLDカラオケに比べ、少ないスペースで設置できるメリットがあった。価格も当然、LDカラオケより安いので導入し易い。

この他、CDファミリーには、「CD-G(CD-Graphics)」、「CD-EG(CD-Extended)」、「CD-MIDI」などレッドブック規格から派生したものも多い。また、コンピューター時代を意識して開発された規格も有る。ソニー、フィリップスと音楽団体であるRIAA(米国レコード協会)、日本レコード協会、マイクロソフト、アップルコンピュータが協力してまとめたのが「CD XETRA」と呼ばれるEnhanced Music CD規格。ディスク内周部にオーディオ信号を、外周部にCD-ROMデータを記録。CDプレーヤーではオーディオ信号を再生でき、コンピューターではCD-ROMのデータを再生できるもの。CDのロゴには「+」の文字が付加されている。

これだけ多くのCD規格が出てくると、どの装置で、どのCDが再生できるのかユーザーも混乱してしまう。CDプレーヤーやパソコンを買った時に取扱説明書を見ると、再生可能ディスクが表示されているが、その種類の多さがCDファミリーの歴史でもある。

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様々なCDファミリーのロゴマーク(日本オーディオ協会JASジャーナルから)

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、東芝HP、東芝科学館、ほか