CDの実用化には様々なデジタル技術、高度なディスク製造技術が必要だった

数多くのCDファミリーが開発され、我々ユーザーは大きな恩恵を受けた。しかし、その裏には様々なデジタル技術、高度なディスク製造技術などがあった。一例を挙げるとCDの実用化によってアナログ時代に悩まされたレコード再生時のノイズから解放されたことがある。CDの構造は、すでに紹介しているが、光を反射するアルミの反射層と、反射しないピットを作る工程において、樹脂にアルミを蒸着させて反射層を作る工程がある。初期の頃はアルミ蒸着技術が完全では無く、アルミ蒸着されない部分が出来てしまっていた。

その部分は、光を正常に反射しないのでCDプレーヤーのピックアップ装置はピットと誤認してしまい、雑音となる。

誤り訂正機能、アルミ蒸着技術などがCD実用化に貢献

これを解消するには、アルミ蒸着技術の精度を高めなければならない。CDのピットとトラックサイズはトラック間隔1.6ミクロン、トラック幅は0.5ミクロン、ピットの深さ0.1ミクロンほどしかない。人間の髪の毛の太さの中にトラックが約30本入る細かさだ。これに完璧なアルミ蒸着をするのは、当時難しかった。このため、CDが登場した初期の頃は、ディスクを明るい方向に向けて蒸着漏れで、光が透き通って星空のように見えないかチェックしている姿が見られた。また、ユーザーがCDを使っている内にディスク表面に傷をつけたり、汚したりしても正確に音楽データを読み取ることが出来ない恐れもある。こうした問題発生に対して予め用意されていたのが、誤り訂正機能だ。

情報ビットに冗長ビットを加えることで誤り発生を検出

誤りを訂正するためには、まず符号誤りを検出して、さらに訂正しなければならない。そのために、情報ビットに冗長ビットと呼ばれるゆとりを加えている。これにより、何通りかの符号パターンを作り、再生側では、この符号パターンを照合することで誤りが発生していないかどうか判別できる。4ビットの符号ワードに3ビットの冗長ワードを付けた場合は、16種類のパターンを調べればよい。CDでは7ビットの符号ワードとなっているので、128種類の符号の組み合わせから判別することになる。しかし、誤り訂正を100%完璧に出来るわけではないので、CDでは補間操作を行い、誤り訂正で消失したサンプル値を前後のサンプル値の平均値で置き換えている。

CDのデータを読み取る光学系の開発も重要だった

この他、CDのデータを読み取るための光学系の開発も重要な技術となった。正確に読み取るためには、ディスク面の読み取るべきトラックとピットの位置にレーザー光線を正確に当てること、さらに、レーザー光線のピントを正確にディスク面に当てることが必要となる。つまり、ディスク面と読み取る位置の両方にレーザー光線のスポットを正確に当てる必要がある。そして、これには半導体レーザー、レンズ系、サーボ技術など高度で複雑な技術が必要だった。CDの半導体レーザーは、ガリウムアルミニウムひ素ダブルへテロレーザーダイオードが使われ、光波長780ナノメートルと可視光の赤に近い色が使われた。これに、レーザー光線をディスクにピンポイントで当て、反射してきた光線を読み取るレンズ系、解析格子、偏光プリズム、ディテクタなどの開発が必要だった。そして、光のスポットがトラックを正確にトレースしているかを判断する検出装置も必要となる。これには、メインスポット用ディテクタと2個のサイドスポット用ディテクタが装備されており、メインスポットの両側のサイドスポットの光の強さが同じなら、メインスポットは正確にトラックをトレースしていることになる。常に両方のサイドスポット出力が均等になるよう自動制御することでトラッキングを適正に調節する仕組みとなっている。

フォーカス制御にはシリンドリカルレンズを使用

また、レンズのフォーカスも制御し、ピントが常にディスクの反射面に合っている状態にしなければならない。フォーカスの制御にはシリンドリカルレンズを用いている。シリンドリカルレンズはかまぼこ型のレンズで、このレンズを通過する光の水平方向は凸レンズとなり、垂直方向は平らなガラス板のようにレンズの作用は起きない。したがって、ディスクからの反射光が円形の場合、レンズを通過した光は焦点では縦長の線となる。また、焦点の前後では反射光は縦長や横長の楕円になる。この原理を使って4分割された光電素子に反射光をあて、それぞれの出力を検出し、等しい値となればフォーカスが合っていることになる。常にこの状態を維持するように対物レンズを前後に動かす自動制御が必要になる。

CDの実用化を可能にした3つの自動制御技術

また、CDの再生は一定の線速度で読み取る仕組みとなっている。このためディスクの内周部、外周部とも同じ線速度にするためにはディスクの回転数を自動制御する必要がある。つまりディスクを回転させるスピンドルモーターにサーボをかけ回転数を制御している。内周部は速いスピードで回転させ、外周部に行くに従ってゆっくり回転させることで常に一定の線速度で読み取る。これら光学系、回転系の自動制御技術が完成して初めてCDの実用化がなったのである。

CD実用化を可能にした制御技術
光学系トラッキングサーボ技術, フォーカスサーボ技術
駆動系 スピンドルモーターサーボ技術

表:CD実用化を可能にした制御技術

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「CDのすべて」(電波新聞社)ほか